騒と静
にっちもさっちもいかなくなった恋愛会議において、珍しくまともな意見を出したのは意外にもあの爆弾男であった。
「あのさ?こんなところで話し合いしてるよりも、外に出た方がいいんじゃないの。」
観月の言葉に、他三名の表情は二分した。
「「ナイスアイディア!!!」」
「勘弁してよ・・・・・。」
歓喜の声を上げたのは杏奈と隼人。乗り気な二人に酷く落ち込む希は頭を抱えた。
外に出るというのはそれ即ち恋愛を実践しろということだ。恋愛について語るのでさえ耐えがたいのに、実際に恋愛するなんてとんでもない。
「ミヅキにしては良いこと言ったよな。」
「えー、なんか全然嬉しくないんだけどー。」
感心する隼人の隣で、観月は半目だ。確かに隼人の言葉は希から見ても酷い。しかし、それをフォローしてやる希でもない。だいたい、観月が余計なことを言わなければこんなに面倒くさいことにはなっていないのだ。
「いいじゃん!希は頭で考えるより、土壇場になった時の方がうまくいくかも!」
恋愛会議進行筆頭である杏奈がこうなるともう歯止めが利かない。一人芝居のようにぺらぺらと喋って、こちらの制止は聞く耳持たないのだ。隼人と観月はといえば、先程のやりとりでこじれた話があっちこっちに飛躍して悪口雑言が飛び交う。希を恋愛させる会発足以来の騒がしさだ。
ああだこうだキンキンカンカン耳元で言ってくる杏奈を無視し、希はぎゅっと目を瞑った。それでも五月蠅いのは変わらないので、今度は手で両耳を塞ぐ。
「のぞみはっ・・・・・だから・・・・・・・・・でしょ?だったら・・・・・・。」
指の合間から漏れ聞こえる声に、希は痺れをきらした。
「もう、うるっさい!!!」
自分の頭の中に一番響いた叫びは一瞬で静寂をもたらした。あれ?と思って恐る恐る目を開けると、
「あら?」
目の前には誰もいなかった。
大げさな身振り手振りで騒いでいた杏奈も、眉間に皺を寄せて言い合っていた隼人も観月もいない。広がっている景色は希が一人暮らしするシンプルな部屋の様子だけ。
沈黙の訪れた空間で、希はしばらく呆然とし、頭を振って我に返った。
「・・・・・・買い物、行かなきゃ。」
耳の奥に残る騒がしさをかき消して、希は部屋を出た。




