ディスカッション
安定の停滞期を引きずる、希を恋する乙女にするプロジェクト。
進展のないまま、話し合いはブレイクタイムを迎えていた。
「何か飲む?」
希の声掛けに、それぞれ勝手に飲みたいものを主張する。
「あま~いココアがいいなあ。」
「俺はコーヒーがいい。」
「えー。僕はオレンジジュースがいいな、百パーセントの。」
好き勝手も、観月の我が儘さは群を抜く。もっとありそうなものを要求すればいいのに。
「はいはい、もう面倒くさいから一律カフェオレね。」
希の独断にブーイングが飛び交う。結局希の好きなのじゃん、と三人揃って頬を膨らませた。
言ってなさい、と希は勝者の笑み。どうせ淹れるのは希なのだから、これくらいの勝手は許されるだろう。
希がカフェオレを入れている間、杏奈が頬杖をついて「でもさ」と、いつになくアンニュイな表情を浮かべる。
「男の人って確かに馬鹿だもんね。」
「おお!」
杏奈の唐突な棘ある発言に、希がお湯を沸かしながら反応する。隼人と観月はぎょっとした顔だ。
「何言ってんだよアンナっ。」
「だってさぁ、結局男の人って可愛い子に弱いじゃん。」
何かにとり憑かれたとしか思えない杏奈の口の悪さに隼人は慄きながらも反論する。
「そ、そんなの女だって同じだろ。顔のいい奴にきゃーきゃー言ってるし。」
「女の人は馬鹿じゃないから。きゃーきゃー言いながらちゃんと計算してるの。自分に勝ち目があるかどうか判断して、無理だとわかったら表向きは騒いでても次を探してるのぉ。」
「うわ~、怖いなぁ。」
ぎこちなく笑う観月に内心賛同しながらも、希は杏奈側に加勢する。この調子で希の恋愛会議から話を逸らしてしまえ。
「男って馬鹿だし、馬鹿なのわかってて馬鹿なことするところがほんと理解不能。」
「あ~、わかるぅ。騙されてるのとか、計算なのはわかってるけど引っかかりたいとか、脳みそないのかなってね。」
「へ、偏見だぞ!世の男に謝れ!」
観月は傍観を決めているようで、二対一の戦いは隼人にとっては分が悪い。女が男の悪口を言っても何もないが、男が女をちょっとでも悪く言うと一瞬でハチの巣にされるのは明白であるため、隼人も変なことは言えない。
「だからさ、そんな馬鹿な男と恋愛とか無理でしょって。」
希のもう一つの戦い。恋愛会議回避を目指し、希はそれとなく杏奈を恋愛しない主義の理論で侵していく。素直な杏奈は「そうだねぇ」と簡単に転がった。
これはまずいと、希の策略を見抜いた隼人がはっとなって身を乗り出す。
「おいアンナ!これはノゾミの作戦だぞ!お前を取り入れてあわよくば恋愛しない気だぞっ。」
「はっ。」
隼人の言葉に我に返った杏奈が、両手で自身の顔をパチンと叩く。
「あぶな~い!完全に乗せられてた!」
「くそっ。」
本来の目的を思い出した杏奈に希は表情を歪める。単純な杏奈は騙せても、やはり隼人は強敵だ。
いつもの調子に戻った杏奈が、先刻よりパワーアップして希に詰め寄る。
「さあ希!男の人の愚痴なんて言ってる場合じゃないよ!そういうのは恋愛してから!」
「そうだぞノゾミ。」
勝ち誇った顔の隼人が恨めしい。しかし、今の希には反論のしようもない。
と、そこで聞こえてくるお湯の沸く音。
「うぅ・・・・カフェオレ入れてきますー。」
逃げるように希はコンロへ走った。




