溜息
希は本当に恋愛する気がないらしい。
と、いうのは希を恋愛させる会発足時から理解していたはずだが、想像以上の進展のなさにメンバーの一人、隼人は大きく溜息を吐いた。
「ねー希ぃ。恋愛しようよぅ。楽しいよ~。」
「あー!うるさい!」
先ほどから、杏奈が無理やり希に恋愛させようとしているのだが、説得というよりも駄々をこねているようにしか見えない。こんなやり方では、一生希は恋愛する気にならないだろう。
なんとかして、この状況を打破しなければならない。
「なんか意見ねーのかよ、ミヅキ?」
隣でへらへら笑う観月に話を振ってみれば、この天然脳みそ空っぽヤローは「そうだねえ」と特に考えていなさそうに腕を組んだ。
「この際、男の集団に希ちゃんを放り投げてくれば?そしたらやる気になるんじゃない?」
「・・・・・・。」
完全に意見を聞く奴を間違えた。観月は害のなさそうな微笑みをそのままに爆弾を投げつけてきた。隼人はそれを聞かなかったことにして、一つ咳払いをした。どうやらこのメンバーの中で一番まともなのは自分であるらしい。
子供の様にわめき続ける杏奈の肩を引き、隼人は希の前に立った。
「な、なによ?」
真面目なオーラを出す隼人に慄きながら、希が姿勢を正す。
「ノゾミは恋愛することの何が嫌なんだよ?」
とにかく、そこを明らかにするのが手っ取り早い気がする。隼人は自身の考えに自分で感心しながら更に強く希に回答を求めた。
「何が嫌なんだよ?」
「なにって・・・・面倒くさそうだし。」
「なんてことを希っ。」
希の発言に嘆いたのは杏奈である。杏奈は舞台女優の様に大げさなリアクションで顔を両手で覆った。
確かに、これは重傷だ。
「恋愛は楽しいものなんだよ?そりゃ面倒なこともあるかもだけど、それも含めて幸せというか!」
「面倒くさいが幸せに繋がるなんて、私はまだ認めない!」
「強情ぅ。」
再び始まる希と杏奈の不毛な応酬に、隼人は重い溜息を吐く。隣では相変わらず観月が傍観者になって笑っているし、本当にやりきれない。
「ノゾミは何が面倒だと思ってんだよ、恋愛の!恋愛したことないのにわかんのかよ?」
鋭い隼人の言葉にも、恋愛(今は)しない主義の希は屈することがない。
「どう考えたって、一人の方が楽でしょうが!相手に合わせていろんなこと変えてくなんて無理!相手の出方ひとつで一喜一憂するのも嫌!全部ひっくるめて面倒くさい!」
お前が一番面倒くさいわ!
希の言い分に隼人は内心ではそう返しながらも、実際は三度目となる重い溜息を盛大に吐き出したのだった。




