決意、そして。
アルテミアの説明に聞き入っていたら、気づいたら何故か今日はもう寝る流れになっていた。
自分の状況を、イマイチ把握しきれてない。そんな状態だった。
聞いたところは、俺にはどうやら主人公パワーっぽいものがある。と思っている。
まずは「風属性」
人間では風属性は俺だけらしい。
この時点で主人公確定だろう。まあ風属性がどれほどの力があってどれほど偉いのかは、まだ俺もわからないが……。
そして「潜在能力」
風属性の潜在能力はとにかく多いらしい。俺がアルテミアと契約した直後に覚醒させた能力は「風神の能力」とやらで、簡単に言えば、自由に風を起こすことができるようになった……らしい。
――必要かな?
「どうしたのー?考え事?」
ノルンが上目遣いで訊ねてきた。
考え事と思わせるような顔になっていたか、と先程までの自分の表情を悔やんだ。
「まあ しょうがないよねぇー。いきなり異世界に連れてこられて、自分は特別だーとか言われて、成り行きで大妖精と契約……」
ノルンが横で俺に同情を持ちかけてきたが、それを聞いたとき、俺の顔に生あたたかい違和感を感じた。
――な……涙……?
泣いてるのか……俺……?
俺の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。その涙が意味するのは簡単、俺はいっぱいいっぱいになっていたのだろう……。
「だ、大丈夫?ハルト。どうしたの……?」
俺は心配してくれる、どこまでも優しいアルテミアに、嗚咽と噦りと共に心の内を吐き出した。
「俺だって……いっぱいなんだよ……!意味わからないままお前と契約するし……俺は特別だ、とか言われてもいまいちわからないし……もうわからないよ……」
俺が言いたいのはそうじゃない。
ただ、「説明して」って言いたかっただけなのに……。口ばかりどんどん滑っていく。
「ハルト……。 ご……ごめんなさい! 私も勢いに任せてたから……。私があなたを見つけてから目が眩んで……私、急ぐ必要も無いのに急いでた……。本当に……ごめんなさい」
俺が、いや俺も勢いに任せて口走ったせいでアルテミアに謝らせてしまった。
俺は自分をとても嫌いになった。
「言いにくいんだけど……、ハルトの潜在能力が覚醒したね」
ノルンの一言で、部屋の空気は変わった。場の空気を良くしようとするノルンの癖はこういう時には少しだけ邪魔だな。そう思ってしまった。そう言えば、もう暗くなり始めた。外からは町の小さな街灯の光が部屋に差してきている。
「たぶん、『魂の風』が覚醒したみたい。魂の風はハルトの心が動いたときに、周りに風が吹く能力。外、見てみて」
俺とアルテミアは言われるがまま、窓から、外に目をやった。
見ると、道に落ちていた葉が、クルクルと宙に飛び回り、旋風が起こっていた。と思ったら、ひょいと高く飛び、不規則に飛んでいた。
「見ての通り、ハルトの心と連動して葉っぱが動いてたでしょ?」
ノルンが説明を終えた頃、俺の涙は引っ込んでいた。外の風は止まり、外は静かになった。
俺の涙を止め、風を止め、心を落ち着けたのは自信というものだった。
「俺を連れてきた目的、教えてくれ」
――それは俺の決意だ。
アルテミアが答えた。
「それは、もう3人の柱妖精を探し出すこと」
アルテミアの口調から、部屋は緊張し、俺や ノルンも口を結んだ。
「エリューシアって言うのは柱妖精がいる所って言うのは前に説明したよね? 昔は4人がそこにいたの。でもある時から、私一人だけになった。私は風の妖精だけど……他には、光の大妖精 ウルーナと言葉の大妖精 ロスクール、土の大妖精 ヴェルター がいたの。みんな、『パートナーが見つかった』って言って、いなくなっていったけど、光属性と言属性と土属性の人間っていうのは存在しないはずだから……。気になって探そうとした所に、いるはずもない風属性の人間が居たから、運命を感じて、契約を進めたの」
アルテミアは真面目な顔で説明を進めていた。自然と内容も頭にすんなり入ってくる。外の風は止んでいたが、まだ、土埃が少しだけ舞っていた。
「その3人は必ずこの世界にいるはず。そう信じてこの世界にハルトを連れてきたの」
「なんでそんなに3人が気になるんだ?喧嘩でもしたのか?」
俺は素朴な疑問を投げかけた。
「私はみんなととても仲が良かったの。でも、急に地上に降りていっちゃうから……。何かあるんじゃないかと思って」
確かに気になるな、と思った。
「さっきも言ったけど、本当ごめんね。でも、手伝って欲しいの。私の勝手な願いかもしれないけど、ハルトにしかできない事なの。どうか、お願い」
「ああ、俺も泣いて決心ついたよ。お前に力を貸す」
こうして、俺とアルテミアは意気投合、心の契約も完了したみたいだ。
――?
俺は部屋の違和感に気づいた。先程までの窮屈感が少し広くなった気がする。そう思った時には口にしていた。
「……ノルンは?」
ノルンが、いなくなってしまった。