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やることの無い異世界で。  作者: 椚田 雷兵衛
第二章 一週間で光を探せ
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夢、獣。

 ――ハルト!

 誰の声だろう、聞いたことのある元気な声……。

 ――ねぇ、ハルト!

 そんなに俺を必要としているのか? 誰の声だっけ……。

 力の抜けた俺に向かって話しかけてくる、聞いたことのある声の主を、俺は必死に思い出そうとしていた。

 誰だ……。思い出せ、俺……。拳を握るほど強く考えたら、名前よりも容姿のほうが先に出てきた。

 輝く白色の髪に、見通されるような赤い瞳……。

 ――ボクだよ! ハルト!

 確か自分のことをボクって呼んでたような……。

 

 そうだ……ノルンだ。


 俺は声の主がノルンだということを突き止めたと同時に、目をぱちりと開ける。

 そこには、一面の暗い空間と、所々に湖や樹木があった。

 「ここは……エリューシア……か?」

俺は、声を発した。

 エリューシアに来たということは……俺は死んだのか?

 色々憶測を並べようとすると、いつの間にか目の前にいたノルンが、

「いや、ハルトは死んではいないよ、ここはハルトの夢の中」

 と教えてくれた。

 俺は安堵した。が、俺はノルンがいきなり現れたことに対しての疑問のほうが大きかった。

 「久しぶり、ハルト。ボクだよ、ノルンだよ。覚えてるよね?」

ノルンは俺に話しかけてきた。

 「あ、あぁ、久しぶり」

 俺はノルンに対して、あわあわと返事をした。

 ノルンは突然消えた謎の多い人だ。このチャンスで、いっそ全部話を聞こう。


 「伝えたいことがあるんだ」

ノルンは突然切り出した。

 俺は、真剣そうなノルンの前に、次の言葉に集中していた。

 「ハルトが探してる、ウルーナのことなんだけど、デューチェっていう街にいるよ」

ノルンが提供してくれたのは、ウルーナのいる場所についての情報だった。

 デューチェなんぞ、知らない町の名前なんか知らされても……。でもまあ得な情報であることには変わりないだろう。

 そう思った俺は、デューチェという名前を覚えておこうと決めた。

 久しぶりのノルンとの会話は、過去のあの出来事を忘れさせるくらい円滑に進んだ。

 あの出来事……ノルンの失踪だ。

 せっかく、目の前にいるんだ。ぜひ聞いてみよう。俺は、ノルンに切りかけた。

 「なぁ、あの日、何があったんだ? 教えてくれないか?」

するとノルンが……

 ……って、あれ?

 ノルンの姿はどこにもなく、目の前にはエリューシアの景色が広がっていた。

 またかよ……。

 目の前の景色がだんだん霧に飲み込まれていく。

 段々と白くなる視界の中に、遠くに光る赤い二つの光を捉えた。

 ――ノルン…………。


 豪快な呼吸音で目が覚めた。

 獣のような寝息を立てていたのは隣で眠っていたアルテミアだ。

 俺は隣を見て、寝起き早々落胆を味わった後、窮屈なベッドから体を起こし、伸びをした。

 いびきの音がする反対側に目をやると、エレノアが、静かな寝息を立て、すやすやと可愛らしく眠っていた。

 なぜこうもうちの妖精は……。

 「あぁ、起きたのですね」

ディーネの声が、寝起きの耳に飛び込んできた。

 そういえば、活動していたそのままの服で寝てしまった。これは、俺以外のみんなもそうだ。

 「ハルトさん、こっちを向いてください」

 ディーネの呼びかけに、俺は立ち上がり、ベッドから降りた。

 するとディーネは何か魔法を唱えた。俺の体が僅かに光った。

 「これは治癒魔法の一種で、体や洋服を綺麗にできる魔法です」

 なんと便利な魔法なんだ……。

 「ありがとう……。おはよう、ディーネ」

俺は感謝を伝えるとともに、朝の挨拶をできるだけ爽やかに投げかけた。

 「お、おはようございます。い、いい朝ですね!」

 ディーネはなぜか恥ずかしそうに答えた。

 なんというギャップ萌えであろうか。

 普段は大人の女性っぽく優雅に振る舞っているディーネに、こんなに乙女な一面があったなんて……。

 危うく、好きになってしまいそうだったが、誰かが発する野獣の荒い息に引き止められた。

 そんな騒がしさに耐えかねてか、エレノアが目を覚ましたようだ。

 そういえば、昨晩はエレノアがとてつもなく恥ずかしがっていたなぁ。

 しっかりかどうかは分からないが、ひとまず眠りにつけたようでよかった。

 「ん……あれ……? ハルト、にい、とディーネ?」

エレノアは、まだ眠そうな目をこすりながら、ややかすれた声で、現状を確認した。

 若干、昨日の夜つけることにした『にい』が遅れて出てきたような気もするが……気にしないでおこう。

 「みんな、おはよぉう……」

エレノアは、眠そうな声で俺たちに言った。

 いやいや、可愛すぎるだろ。

 しかも、頭に生やした二つの耳は、おでこに張り付くかのようにぺたあっと下に向いていた。

 今度は、危うくどころか普通に好きになった。いや、恋愛的な意味は無いよ?

 そんなやり取りも知らずに、ぐうすか眠っているアルテミアは、一向に起きそうになかった。

 「起きそうにありませんねぇ」

ディーネは呆れたように、いや、呆れた様子でアルテミアを見つめながら言った。

 「だめかもなの……だ」

エレノアまでもが、今にも嘲笑が漏れそうな顔で言った。

 契約者として、少し可哀想になってきたので、無理やり起こすことにした。

 

 俺は、ベッドから落っこちてしまいそうなアルテミアに近づき、軽く揺さぶりながら、

「おぉい、そろそろ起きろよ」

と、言ってみたものの、全く起きる気配がないので、

「起きろー! アルテミアーー!」

と、強く揺さぶりながら、軽く叫んだ。

 すると、アルテミアが、

「う……うぅん……あれ……? ハルト?」

と、気怠そうに目を覚ました。

 やっと目を覚ましたか、この獣め。

 「ごめんごめん……おはよう、ハルト」

アルテミアは、謝りながら、朝の挨拶をしてきた。

 「全く……おはよう」

俺は、呆れながら返した。

 ようやく全員が目を覚まし、ウルーナ探し二日目が始まった。

 寝ている間のアルテミアの獣のような息の音が耳の奥に残ってしまった。

 だが、アルテミアの寝顔は、悔しいが、とても可愛かった。

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