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やることの無い異世界で。  作者: 椚田 雷兵衛
第二章 一週間で光を探せ
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到着。

 目を開けると、アルテミアがいた。俺の顔を覗き込むようにして、心配するような表情だ。

 もう少し目を開くと、ディーネとエレノアがいた。アルテミアの近くに……いや、俺に近づいて、不安な顔をしていた。

 俺、あの後どうなったんだ……?


 エナジー切れを起こして、倒れてしまった俺は、その後の記憶がまるで無かった。

 俺は起き上がろうと体に力を入れる。

 ぐっ……。身体中に鈍い痛みが走った。

「まだダメだよ! じっとしてて」

アルテミアが俺を押さえつけ、寝かしつけるように優しく話した。

 「大丈夫ですか……?」

ディーネが心配する顔は、優しさや愛情に満ち溢れていて、どこか母親を思い出す。

 「大丈夫なのか……?」

エレノアが心配する様子は、いつもはツンとしているが、兄が危ない時は本気で心配するツンデレな妹を連想できる。


 「ここは……どこだ?」

俺が小さな声で言った。エナジー切れを起こすとこんなに声が出しづらいのか。

 「教会だよ。ハルトはみんなで運んできたんだ」

アルテミアが教えてくれた。アルテミアの顔から察すると、面倒だった様子は無かった。

 ここが教会か。

 「着いたんだな……」

少し元気を取り戻した俺は、先程よりも少し大きな声で呟いた。

 内装は良くある礼拝堂と同じで、高い壁にはステンドグラスが組み込まれていた。

 俺がキョロキョロしていると、ディーネが、

「ここは『ノルニア』という大聖堂です。宗教はノルニア教というもので、神というよりは妖精が信仰されています」

と教えてくれた。

 

 目的はなんだっけ……

 ——そうだ……ウルーナを探すこと。

 俺は立ち上がろうと全身に力を入れる。思うように動かないが、先ほどのような痛みはなく、何とか自立した。

 ステンドグラスから差し込むのは暗闇だった。そういえばもう夜になっていた。

 夜だというのに……なんだこの喧騒は。

 外から……? いや、教会の中から聞こえてくる音だった。

「なんだ? このザワザワしてる音」

俺はそう口にした。

 「ここには教会の役目もあるけど、ルミナスの住民の生活の元になっている所、王城の次にルミナスを代表する施設なの」

 アルテミアがそう言った後、

「ここに、俗に言う『勇者』が集まってきて、クエストを受けたり、職に就いたりするのだ」

 マジかよ……ゲームみてぇ!

 俺はワクワクに目を光らせ、みんなに提案。

「向こう、行ってみようぜ!」

 すると、

「いや、ちょっと待って」

アルテミアが止めた。

「ハルトはエナジー切れから復活したばっかだよ。もう少し安静にしてないと……」

アルテミアは俺を心配する目で話した。

 俺はエナジー切れがどれほど深刻な事なのかまだ分からなかった。が……「エナジーが無くなると死ぬ」といういつかのアルテミアの言葉を思い出し……

「そ、そうだな」

と従った。

 

 ——しばらく4人で話していたが、俺は我慢出来ず、

「もう元気だ! 行こうぜ!」

と、叫んだ。

 すると、3人はキョトンとした目でこちらを見たが、すぐさま

「うん」

と頷いた。

 礼拝堂を出て、廊下を歩く。段々と喧騒が近づいてきた。同時に酒の匂いも強くなってくる。


 重たそうなドアを開けると、大衆とアルコールの混ざった生ぬるい空気がどわっと押し寄せてきた。

 踏み入れたそこは、酒場であった。

 重装備をした屈強そうな男、露出度の高い女、エレノアの様な亜人など様々な人が飲み食いし、談笑を嗜んでいる。

 俺は心が踊った。

 夢に見たことのある景色、とでも言おうか、とにかくワクワクが止まらないのだ。

 「ぁ……っ、これ……」

と俺は殆ど言葉ではない声で呻いた。

 教会もあって酒場もあって……と少し疑問もあったが、この状況に胸踊らないゲーム好きはいないだろう。

 「この奥に受付のカウンターがあります。ハルトさんとアルテミアさんは初めてでしょうし、まずはそちらに向かわれてはいかがでしょうか」

とディーネが促した。

 俺はディーネに従い、賑やかな宴会の数々をかき分け、奥にあった受付にたどり着いた。

 「ようこそノルニアへ! 何か御用ですか?」

と、受付の女性は定型文を読むかのようににこやかな顔で言った。

 彼女の名札には『クララ』と記されていた。

 俺は、

 「あの……初めて何ですが、どうしたら良いですか?」

と、主語も述語もないような漠然とした質問をした。

 受付のクララは、

「でしたら、まずはあちらより冒険者登録をしていただいた方が宜しいかと……」

と、丁寧に教えてくれた。

 冒険者登録って……まんまゲームじゃないか。本当にあるのか、と感心していると、アルテミアが、

「冒険者登録は必要ないよ」

と耳打ちで伝えてきた。

 「あの、私、このような身分なんですが……」

とアルテミアは首に下げていたらしい飾りをクララに示した。

 するとクララは、

「大変失礼致しました! 妖精様でございましたか……って、これ……柱妖精の印……あ、あの……アルテミア様でございますか!?」

と急に取り乱した。同時に酒場にいた冒険者たちは一斉にこちらを向いた。

 アルテミアが急に神々しく見えた。

 

 アルテミアは、

 「はい、私は風の柱妖精アルテミアです。そして、この方が私の契約者、風見ハルトです」

と、クララに説明した。

 大衆の視線が一気に俺に向く。

 緊張と誇りで口が歪む。

 俺はクララに聞いた。


 「光の柱妖精を探しています。協力を頂けませんか?」

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