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V2(VR Version2)誕生

 数年後、新たに開発されたVRハード(以下V2)には、A社の開発した据置(すえおき)ハード専用ゲームを大画面でプレイできるという仕様が追加された。


 過去にV1を市場に展開する際、Aは、これがあれば仮想空間を体験できることをメインに宣伝していた。だが、どこでも大画面の映画を観賞できるという特色は、あまり積極的に宣伝されなかった。理由は至って単純で、映画を見せることがV1の魅力ではないからだ。その情報はAのサイトないし、ハードが紹介されている特設サイトを検索すれば、簡単に知ることができるものだ。


 今回は前回とは逆に、どこでも高画質の大画面が見られる魅力を広めようというのが、A社の新たな戦略であった。同時に、スマホゲームの台頭によって売上が減少しつつある、自社の据置ハードの普及(ふきゅう)にブーストをかけようという思惑(おもわく)(ふく)まれていた。


 据置ハードゲームは、本体を所有する以前にテレビか、あるいはハードに接続できるモニターを所有していなければプレイできない。前者の壁が立ちはだかっているため、テレビを持たない新規ユーザーにとって大きな障害となり、普及率が緩やかに低下していた。後者も積極的にゲームに触れない、一部のライトユーザーのエゴと組み合わさって、高い壁として立ちはだかっていた。据置ゲームをやってみたいとは思っていても、プレイに必須(ひっす)なモニターを買うのが、(わずら)わしい上に大きくて置き場に困るというのが、彼らの言い分だった。

 そのため、ライトユーザーの人口はスマホゲームへと流れていった。大きなモニターがいらず、それ以前に置き場に困らないという条件を、スマホゲームは満たしていたからである。


 A社はそれを逆手に取り、『場所を取らずに大画面を』というコンセプトを、V2に落とし込んだ。初期のハードが抱えていた、据置ハードも同時に必要であるという問題点も、V2を高性能HMDとして使用することで解消された。

 この目論見(もくろみ)は商業面においては大成功を収めた。V2はコンセプト通りの、あるいはコンセプト以上の成果を出した。A社の狙い通り、据置ハードもテレビやモニターを持たない層に飛ぶように売れた。勿論(もちろん)、値段は決して安いと言えるものではなかったが、テレビがなくともハードゲームをプレイできるというプレイバリューの高さが、多くのユーザーの心を(つか)んだ。


 だが、発売前――厳密にはV2の情報公開後――の評判は決していいものとは言えなかった。そして発売後も、一部のユーザーから非難が続出した。

 新型ハードのコンセプト発表を斜に構えて見ていた者達が、Aの目論見と、彼らの知られたくない思惑を悟ってしまったのだ。


 前述通り、A社は新たなハードの発表で、高画質の大画面が見られることを大々的に宣伝した。しかし肝心のVRの進歩に関しては、あまり語られなかった。モニターがなくても据置ゲームがプレイできるという魅力は、確かに目を見張るものではあったが、『VRハード』という肩書きを冠していながら、VRに関連する情報が積極的に発表されない不自然さに、ゲーム界隈(かいわい)に身をやつすユーザーは違和感を覚えたのである。


 当然、この事柄について、様々な憶測(おくそく)が飛び交い、ユーザー達の間で議論が交わされた。時折、A社のゲームハードに反感を抱く者の心ない罵詈雑言(ばりぞうごん)や、逆に今回のVRハードに大きな期待を持つ者の過剰なカウンターなどで、建設的な議論は難航したが、最終的に『現時点ではVRのこれ以上の発展は不可能であり、Aも泣く泣く開発を断念したのではないか』という結論に至った。無論、これは憶測の域を出ない議論のため、事実は当事者ではない彼らには知るところではなかったが、解答としては的を射ていた。


 結局、VRゲームというジャンルは、しばらくの間、長い冬を過ごさねばならなかった。一方で、『場所を取らないテレビ』と化したV2によって莫大な利益を上げたA社は、経営戦略が物の見事に成功したとはいえ、心に雲がかかったまま我が世の春を謳歌(おうか)していた。

 商業面では成功したが、技術面では撤退を余儀なくされたのだ。

 その雲は、ある技術と邂逅(かいこう)するまで、晴れることのないものだった。

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