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初恋。第二章  作者: 冬鳥
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魚の目は物語る

@



壮太と奈緒子。

彰と俊介。

樹里と麗奈。


六人は三組に分かれ水族館を見て回ることに決めて、何時間後に待ち合わせる場所も決めた。ここから三組がそれぞれに行動を始めることになったのだ。



「そうだな〜。よし。じゃあさ奈緒ちゃん、とりあえずこっちのブースに行こうぜ」


壮太は立ち止まったままの奈緒子の手を掴み引っ張るようにして歩きだした。



「それじゃあ、また後でな」



壮太が後ろ手を大きく振りながらメインストリートを左に曲がっていった。奈緒子の手を握ったままに。



しばらくの間、 残る四人はその場に立ち止まっていた。


人の流れは左右どちらにもあった。この建物には笑顔と弾む声が溢れていた。溢れだしたなにかをほかの生き物が吸収していく。その生き物を見てまた声が弾み笑顔が溢れる。


喜びに満ちた空間。

ある種のものが循環する場所といえた。



沢村俊介はひどく相性の悪い所だなと感じていた。

鋭い瞳はいつも以上に気だるそうに見えた。


外に真実は表さない。

すでにそれは彼の癖ともいえる行為となっていた。愛する人ができてから彼の何かが大きく変わった。


彰がいなかったらここはたんなる吹き溜まり場所だなと思った。


染み付く臭いを取り去るのに苦労する。


俊介にすればそんな場所だった。

もちろんいま俊介の内部では違っていた。血が踊っているのだ。


大橋彰と肩を並べて歩けることになったいま、俊介の心の温度は急上昇していた。


一年生のときにした彰とのキス。

いまも唇に残る交わした感触。



俊介の心はいつも彰に向いていた。



ひどくせつなく。


ブレなど微塵もなく。


ただ一途に。



「さて、シュンどうしようか?まずはどうだろうジュゴンという怪獣でも見に行かないか」



彰がいったいジュゴンはどこにいるんだ。と、左に行くか右に行くかパンフレットを片手に見ながら悩む表情を俊介に見せていた。


「ふっ。お前が期待するほどの生物ではないよ」



ジュゴン。



「でも見たい魚から見ないと時間が無くなるかもしれない。シュンはどこから行きたい?」



バカ。お前とならどこでもいいに決まってるだろ。


俊介はすかさずそう返したくなったがもちろん口には出さなかった。




壮太と奈緒子の身長差ある後ろ姿を眼で追い掛けていた俊介は右側ブース内に彼等が入ったのを見届けてから再び彰を見た。



「左だ彰」



「わかった左だね行こうか。樹里また後で。麗奈さんも」


後でまた。


彰がいうと樹里は顔を両手てで覆い麗奈は両手で手を振った。



「行こうかシュン」


二人は歩きだした。




「おい彰。お前なんだか珍しく楽しそうだな。そもそも水族館なんてものは行きたくないというと思ったけどな」


「そ、そうか」



「いまのお前には普段のお前にはないガキっぽさがある」



「あはは。ガキかなおれ」



「いや。見苦しいガキっぽさではない」




二人は肩を並べて歩いていく。

彰が少しだけ高い位置に肩がある。ほんの少しだけの位置違い。


通路に人は多い。俊介は彰の左肩に自らの肩先を僅かに触れさせながら歩いた。



「さっきからなにパンフレットとにらめっこしてんだよ」



「いや。ジュゴンはどこにいるのかなって」


俊介は足を止めて小さく微笑んだ。彰も立ち止まり俊介の笑顔を見て同じく微笑を返す。




「さっきからジュゴンで頭がいっぱいだな。楽しみはとっておけよ」


俊介がすぐ近くにあったブースに入っていく。


「来いよ彰。なかなかの殺伐さだ。魚の目はいつみてもなにも物語らない」


「ああ。それがいいんだよシュン」



彰は俊介の後を追った。





樹里は深いため息をついた。


「麗奈はグーッだったんだね…」



「やっぱりグーッしょ。あたいと同じでしたな。で、樹里どっちに行こう?」


「左よ!」


樹里と麗奈も彰達の後ろを歩いていく。

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