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初恋。第二章  作者: 冬鳥
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麗奈の温もり

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近鉄戸田駅から普通列車四日市行きの電車に乗る。電車はすぐに木曽三川の長い陸橋を越えて三重県に入り桑名駅に止まった。そこで急行鳥羽行きに乗り換える。


樹里が事前に時刻表などを調べていたので迷いなく順調に乗り換えのために移動をする。

樹里が先頭になり後ろから五人が付いていく形だった。


桑名の街は彰にとって始めて足を踏み入れた土地である ましてや 鳥羽水族館は未知な世界になる。


彰の父親は自家用車を持っているのだが小さいころから あまり行楽地などに連れて行ってもらえた記憶はなかった。


桑名駅で乗り換えのためにプラットフォームを樹里が一団を率いていく。


「二番線だから向かい側ね」

GWの真っ最中ということもあり、子供連れのファミリーや若者のグループが目立つが全体的にはまだ朝早いからか空いた駅構内であった。


列の一番後ろを歩くのは彰だった。



二歩前を歩いていた奈緒子が歩調を緩め彰の横に位置する。



「彰くん。鳥羽水族館行ったことないんだ。だからすごく楽しみ」


「ああ」



彰はもっと話したいと思った。


俺も初めてだよ水族館。ジュゴンて知ってる?怪獣らしいよ。どんな生き物か想像できない。他にはどんな生き物がいるんだろ?アシカのショーとかもあるんかな。海も見えるかな。とにかく楽しみだね奈緒ちゃん

彰は頬を染めながら

心の中で話す。


だが実際、口に出るのは。つまりは世の中に出るのは 相槌だけになってしまっている。 いま彰には極度の緊張が走っていた。


焦る。


「あの…ああ。そうそう。僕も初めてなんだ。奈緒ちゃん今日はさ、たくさん魚みよっか」


「うん。そうだね。たくさん魚みよっか彰くん」



魚より奈緒ちゃんの笑顔がたくさん見たいのにな。


彰はそう思った。



そして話せてる俺に喜んだ。


よし。いける!今日はたくさん話すぞ!


と彰は僅かに笑顔を見せた。



階段を上がり向かい側のホームに行きながら奈緒子が彰の横で鼻歌を奏で始めた。



「どんな曲?」



「彰くん知ってるかな。ZARDのね:負けないで:だよ」


奈緒子が奏でる鼻歌。

心地好いメロディーだった。

高い声が小さい音量ながらも透き通り、心に喜びとなって伝わってくる。


彰は少し笑ってみせてから


「奈緒ちゃん、それは唄があるんだよね?歌ってみてよ」




「え?恥ずかしいよー。今度、CD聞いてみて。すごくいい唄だから」




「うん…じゃ、じゃあ今度貸して」



「嬉しい。喜んで。明日にでも」



やった!


彰は笑顔のまま急行鳥羽行きに乗り込む。



四人が向かい合って座ることができて、彰と奈緒子の間に割って入った樹里が、

「彰君。ここ座ろ」


一つ後ろの席に座った。



約1時間車窓から景色を楽しむ六人がいた。




「お、海」


シュンが声を出す



「向かえ!鳥羽!」


壮太もはしゃぎ


それを女性陣は笑いながら見届けていた。



「杉田先輩は吹奏楽部ですか?私はソフトボール部なんです。試合があったんですけど負けちゃいました。私はキャッチャーしてまーすまた夏に試合あるんで、次こそは!て思ってます」


麗奈は楽しそうに隣りに座る奈緒子に話しかけていた。人との会話を心から楽しむ奈緒子にとって、この場は最高に楽しいのだ。


「あ、あの麗奈さん。先輩だなんて…あの…」



「オッケー。では杉田さん。フレンドリーにしちゃいますよ。今日はたくさん楽しみましょうね」



「あ、はい…あの…はい」



初対面の人にどう話したらいいのだろう?奈緒子には恐怖感がある。何をいえば嫌われないのか受け入れられるのか。すぐにわからなくなる。


「私すぐ調子に乗っちゃうから杉田さんのこと、すぎっちって読んじゃいますよ」


「はい。ぜひ、あの、すぎっちで」


楽しい。

奈緒子はおもわず涙が出そうになった。


麗奈の温もりが奈緒子に伝わる。

それは

あまりにも自然な開放を告げる温もりだった。




「あのさ、奈緒ちゃん。そっち側は酔わない?席変わろうか?」


向かい側に座る壮太が気を使う。


「ありがとう。大丈夫です壮太くん」


私は幸せ者。



麗奈や壮太との会話が止まると奈緒子は後ろに神経を集中した。



彰君…

もっと、もっとあなたと話したい。




その後ろの席では





「彰君みかん食べる?あ、お茶もあるわよ。ねえ!見た?あそこ!カモメがたくさんいたわ。可愛いー。はい、みかん剥いてあげるね彰君の手が汚れちゃうでしょ?え?みかんいらないの?ならチョコもあるのよ」


樹里の声だけが優しく流れていた。

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