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Act17

「相変わらずだな、あのガキ……」

 感心するように呟いてしまう。

 階下の競技場では、高らかに斗娜が自らの武力を披露し、追手に自分を追うことが無駄な努力であると宣言したところだった。

「まあ、こんなところでしょうね~♪どうする、黒江?結子ちゃんが怪我する前に、タオル投げてあげるってのもアリよ」

 凱月が楽しげに言うのに、忌々しげに横目で見る。

 ふてくされたように黙っていると、凱月はにやにやと笑った。

「ま、一応しばらく様子をみましょうかね。街頭にある防犯カメラはハッキング済。足りないところは昨日徹夜で設置したし、この街の至る所まで丸見えだから」

「そういうところは無駄に完璧だよな」

「んふふ」

 VIP席に大量のモニタを持ちこんで、町中のいたるところが映し出されている。

 黒江は頬杖をつきながら、そのモニタ群を眺めていた。

 背後から視線が突き刺さる。

 うざったい。

 斗娜の付き人の大知洙は、この部屋に入ってきた時から、黒江に鋭い視線を送ってきていた。

「……ったく、うっとうしい」

 黒江は誰にともなく、低く呟いた。

 おもむろに立ち上がる。

「黒江?」

「トイレ」

 不機嫌に呟いて、立ち上がる。

 劉善がついてこようとしたが

「今さら見張りでもないだろ。すぐに戻る」といってVIP席の扉を閉めた。


    ***


 すでにスタートして10分が経過していた。

 鬼チームはすでに2チームスタートを切っている。

 来たメールは3通。

 二通は鬼がスタートしたお知らせだった。

 1つは競技場から、ひとつはセントラルビルからだった。

 あと1通は劉善からのメールだった。

『駅には近づくな』

「劉善さん……?」

 どういう意味なんだろう。

 いや、言葉通りの意味なんだろうけど。

 そこに行くのはやめろって言われても……。

「なんで?」

 まさか助けてくれているのだろうか?

 これってルール違反にあたると思うんだけど、……それとも決闘始まっているから接触するのは問題ないのかな?

 でも、もしこれがヒントなら、ルール違反だろう。

 劉善のやることとはとても思えなかった。

 もとより凱月側の人間だし、個人的にみても結子の味方をしてくるようには思えない。

 不思議に思いつつ、スマホが震えたので物陰に入って確認する。

『十五分経過。これより鬼チームの人数が十人に増えます。駅前広場よりスタート』

「え……っ?」

 今までの倍の人数が駅からスタートしたってことは、駅ビルなんかにいたら確実に見つかっていた。

 人が多いところがいいかと思って、最初向かいかけたところだった。

 劉善のメールを見てなかったら、危なかった。

 あたりを見回しながら、道に出る。

 完全に不審者だがしょうがない。鬼に先に見つかったら、逃げ切るのは困難だ。

 公民館の中を通り抜けて、反対側の道に出る。

 ここから先は、商店街に抜ける道と、オフィス街に続く道。

 今日は休みだから、オフィス街はがらがらだろう。だったら商店街の方がいいのかもしれないが、商店街は駅から比較的近い。

 どっちが安全?

 そう思った時に、またケータイが震えた。

『商店街に行け』

 劉善さんだった。

 迷っていた矢先だっただけに、商店街に行く腹は決まった。

 植え込みに隠れて、そっと顔を出すとちょうど黒服が二人通り抜けるところだった。

 ……危なーっ。

 息を殺してやりすごすと、全速力でその場を離れる。


***


 商店街に着くと、けっこうな賑わいだった。

 ちょうどお昼と言うこともあって、昼食の買い物客でごったがえしていたのだ。

 意外にこれならみつからないかも。

 この中を黒づくめの鬼がいたら目立つだろうから、すぐに逃げられそうだ。

 そう思いながらも、慎重に周囲に気を配って歩く。

 その時、

「結子」と、後ろから肩を叩かれた。

「……っ!?」

 思わず飛び退くように振り返る。

 そこには目を丸くした月子が立っていた。

「つ、きこ」

「結子?……どしたの?」

「いや、ちょっとびっくりして……あれ、買い物?」

 私服の月子に不思議そうな顔をされて、慌ててごまかす。

「ううん。あのね、実は結子のこと待ってたんだ」

「え?」

「昨日、うちに宅急便が届いていて、黒江君からだったの」

「く、クロ?」

「今日の昼ごろ結子がここ通るから、そしたらこれ渡してやってってメモが入ってて」

 某黒猫マークの配送業者の袋を渡されて、月子と袋を交互に見てしまう。

 それから、ハッと気がついて周囲を見回す。

「ちょ、ちょっと……月子、こっち」

「え」

 物陰に隠れてないと、いつ鬼に見つかるかわからない。

 ともかく話を聞くなら物陰に隠れないと思って、ファーストフード店に入る。

「いらっしゃいませー」

 声をかけられたのを無視して、カウンターを素通りしてパーテーションのある席に移動する。

「ちょっと結子?」

「ごめん、事情はあとで説明するから」

 明らかに不審者の行動をとる友人を、それでも見捨てずに月子は素直に座ってくれた。

「もう、アンタたち、本当にいつもなにやってんのよ?アンタは挙動不審だし、黒江君はずっと休んでいるかと思ったら、そんなもん送ってくるし」

「あははは……」

「ケンカでもしてるのかと思ったら、……一体、何の遊びなの?」

「えーと……」

 説明しろと言われても困るんだけど、ともかく笑ってごまかすしかない。

「そういえばこれ、何が入ってたの?」

「見た方が早いよ。っていうか、アンタたち近所なんだから、こんなもんのやり取りは直接やんなよ。郵便受けに入れとくとか。それともできない事情でもあるの?」

 意外に鋭いツッコミだ。

 袋の中に手を突っ込み、その手触りに一瞬動きが止まる。

「…………?」

 引きずり出す。

「これって……」

 思わず呟くと、月子は呆れたように肩をすくめた。

「ね、何考えてるの、黒江くん?」

 そんなのこっちが聞きたい。


    ***


 それから、月子と別れて|(いろいろ苦しい言い訳をして)ファーストフード店を出て、早々に黒服の鬼に見つかって追いかけまわされた。

 人ごみの中を縫うように走るこっちと、人ごみをかきわけて追いかけてくる男たちでは、速度が違った。

 あっちの路地入り、こっちの角を曲がりしてなんとか巻いて気がつくと、学校近くの公園に来ていた。

 あたりを見回してから、子供向け遊戯のトンネルの中に隠れる。

 乱れた息を整えて時間を確認する。二十八分経過。

つか、まだそれしか経ってないの?

 ファーストフード店から距離はそんなに走ってないのに、すごく疲れるのは追手がいるからだろうな。……あ、そういえば、去年のあの時もあのファーストフード店出てから、すぐに見つかって追いかけまわされたっけ。

 あの時は一人じゃなかった。

 クロがちょろちょろ裏道に入って、それに引きずられながら、なんとか逃げたんだった。

 黒江と一緒の時は、ドキドキしたけど、怖い気持ちはあんまりなかった。

 背後が気になって不安で、心臓が飛び出しそう。

 ぎゅっと唇を引き結ぶ。

 弱気になったら、ダメだ。

 たった一時間の鬼ごっこくらい。

 クロになんか頼らなくても、大丈夫だ。

 私は生まれた時から、ここに住んでるんだから。

 地元の子を舐めるなよ。

 ふと気がついて、スマホに目をやると、メールがたまっていた。

 一通は二十分にスタートした鬼チームの解放地点。

 駅ビル内のゲームセンター。

 マジで駅近くやばかったな。

 そしてその後二十五分の鬼のスタート地点は、自分たちが通っている高校。

 ここもダウトだったんだ。

 良く考えたら、自分の身近な場所に逃げ込みたくなる気持ちもあったけど、これは月子と会っていたからセーフだったって感じだ。

 そしてもう一通。

 また劉善さん。

『学校に向かえ』

 ……まさか、鬼チームがついさっき解放された、私たちが通っている高校ってこと?

 何考えてんのよ?!

 それに、このメール本当に劉善さんなのかな。

「…………。」

 劉善は敵意がなくても、好意的じゃない。

 間違っても味方してくれるとは思えない。

 それに、このメールの通りに動いたら、月子とあった。

 クロから預かった宅急便の荷物を持った月子。

 どうして劉善のスマホメールが使えているのか知らないけど。

「……クロ?」

 スマホに向かって呟く。

 それからふと視線を感じて、何気なく横を向くと、トンネルをのぞきこんでいる顔を目が合った。

 黒服にサングラス。

「い……きゃああああああああ!」

 慌てて逆側からすべり出ようとした瞬間、そちらにも顔があったのに気がついた。

 がきっ。

 いやな感じが踵に伝わる。

 隙間から身体を滑り出し、顔面を踏まれてうずくまっている黒服の鬼さん。

「ご、ごめんなさい!」

 果たして謝る必要があるのか疑問だったが、慌てていたのでともかく走り出す。

 間一髪、捕まえようとする腕をふりきって、公園を出る。

 顔面を蹴り飛ばしてしまった相手を含めて三人。

 いやー!もう、これ以上増えたら、ふりきれないようっ。

 半泣きになりながら全速力で走る。

 自分の脚力だけが頼りだった。

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