第二話 イームハルトと己の記憶
すいません。投稿するのに結構時間がかかりました。
今度からはもう少し早くするのでご勘弁を~
『なるほど、これがキミの意識の姿か。面白い。初めてだよ、僕をこんな姿にしたのは』
霧の中から現れたのは、俺が想像した通りの姿をした神だった。
体格は中肉中背。髪は赤みがかった黒。顔には仮面を着けていて、その右半分は漆黒に染まっている。逆に、左半分は真っ白だ。両目にはペイントが施されていて、右目は三日月のペイント、左目には剣のペイントが付いている。中央には、真ん丸の赤い鼻が存在感を出している。
服装は、赤と黒の派手なチェック柄。首元には蝶ネクタイが付いていて、手には白い手袋。靴は、つま先がくるりと丸まった物を履いている。
まぁ、ここまででわかる通り、俺が想像した神の姿は、赤鼻の道化だった。
しかし、似合うな。声と姿が驚くほどマッチしている。
そんなことを考えていると、道化改め神は俺に問を投げかけてきた。
『この姿を選んだ理由を教えてくれないかい?』
そんな神の問に、俺は悠然と答えを返す。
「そんなのは簡単だ。お前の人を食ったような喋り方から想像しただけだ」
『なるほどなるほど。実にキミらしくて面白い想像だ』
「まぁ他にも、理由はある」
『ほぅ、それはどんな理由だい?』
「ただ単にお前は胡散臭い。真実の中に嘘を巧妙に織り交ぜている。本当の顔を見せようとしない、まるで仮面を被っているみたいだ」
『その心は?』
「直観だ」
俺がそう言うと、神は一瞬驚いたような反応を見せた後、腹を抱えて大きな声で笑い始めた。
『ぶっ、あははははははっ!!! なにそれ! 直観とか、もぅ……あはははははっ!』
どうやら神のツボに入ったらしい。この勢いだとしばらく笑っていそうなので、俺はその場で胡坐をかいて待ちに入る。……てか、笑いすぎだ。
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神は一頻り笑うと満足したのか、大きく深呼吸して俺に向き直った。だいぶ笑ってたな。
『いやぁ、もうキミ最高。こんなに笑ったのは本当に久しぶりだよ』
「そいつは良かった」
『それじゃあ、こんなに僕を笑わせてくれたキミに、いいことを教えてあげよう』
「ほぅ、どんなことだ?」
『キミは僕のことを胡散臭いとか、仮面を被ってるとか言っていたよね』
「ああ、言った。今更訂正する気はない」
『ふふっ、本当にキミは面白い。神である僕を前にして、そこまで偉そうにできるとは』
「そいつはどーも」
俺が適当に返事を返すと、神はまた『ふふっ』と笑った。
『それじゃあ、特別に教えてあげる。率直に言うとキミの直観は正しい。ただ、一つ言えるのは、僕はまだ嘘を言っていない』
「まだ、か……」
『正直、僕は驚いたんだ。いや、感激したと言ってもいい。それほど僕はキミの発言に度肝を抜かれた。今まで僕と話をして、キミと同じように、真実の中に織り交ぜた嘘を見抜いた者もいる。ただそれは、僕が嘘を言った後に様々な推測や推理でたどりついた答えだったんだ。なのにキミは、僕が嘘をつく前から、僕が嘘をつくことを見抜いた。しかも直観で』
神はそこで一呼吸置くと、両手を大きく天井に向けて広げた。
『初めての体験だよ! あぁ、やっぱりキミを選んで正解だった。きっとキミは僕を退屈させないでくれる。キミは最高だ!』
正直、神が俺をどう思ったかなんてどうでもいい。ただ、今の神の発言には、一つ気になるところがあった。
「おい、俺を選んで正解だったとはどういうことだ」
『ん? あぁ、そういえばまだ言っていなかったね。キミがここにいるのは僕が原因なんだ』
「なっ!? どういうことだ? 俺がここにいるのは神のせいなのか?」
『そうだよ』
俺の問に神は、さも当たり前のように淡々と答えを返してきた。
『勘違いしてほしくないのは、僕がキミをここに呼ばなければ、キミはただの魂として昇天していたってこと』
「魂……だと?」
『そう。もう、わかってるかもしれないけど、キミは死んだんだ』
「……」
薄々、感じていた。
この白い空間に、己の記憶の欠落。……そして神。
この条件を満たした場合、俺の頭の中に浮かんだ一つの可能性。
だが、俺はこの可能性を否定した。当たり前だ。この可能性を肯定することは、己の存在を否定しているようなものだ。
だが、目の前にいる神は、その可能性をあっさりと肯定した。
『キミだって本当は気づいていたんだろ? ただ、その真実を受け入れたくなかったから、否定していた。けれど残念、キミは死んでいる』
淡々と事実を伝えてくる神。
その言葉には、先程までのおどけた様子はなかった。
「俺は……死んでいるのか」
『うん、そうだよ。けれど、安心していいよ。キミの元々の肉体は朽ちてしまったけれど、僕が責任をもって、次の肉体を用意してあげるから』
「……は? どういうことだ?」
突然何をいっているんだ神?
『それじゃあ話そうか。僕がキミをここに呼んだ理由を』
神の急な発言に戸惑っていると、神は雄弁に語り始める。
『まず、この場所について話そう。ここは、生と死の狭間、つまり境界線なんだ。ここより上へ行くと輪廻の輪がある。輪廻の輪とは、地上で朽ち果てた肉体から魂が離れ、その魂を新たな肉体へと移す……まぁ、循環システムだと思ってくれればいいよ』
神の話を聞いている間に俺の頭は少しづつ冷静になってきた。冷静になったからわかる。今、神省略したぞ。
『普通ならキミの魂もここではなく、上に昇り、輪に組み込まれるはずだった。けれど、そこで現れるのがこの僕。輪に組み込まれるはずのキミの魂を無理やりここで止めたんだ』
なぜかドヤ顔で言われた。
『なぜだかわかるかい? 一応言っておくけれど、本来はこんなことしたらダメなんだよ? スーちゃんに無理言って頼んだんだよ?』
「知るか」
本当に知るか。ここでこんな奴に会うぐらいだったら、そのまま昇天させてくれればよかったのに。……てか誰だよ、スーちゃんって。
『まったく、可愛げないなぁー。まぁ、いっか。それで、キミをここに呼んだ理由だけど、ここで問題です。世界の始まりから終わりまで全てを知っている、神様こと、この僕。では、そんな全知全能な僕は、常日頃なにをしているでしょうか!』
何やら急にクイズが始まった。
大丈夫なのかこれ? 主に神の頭が。
『一、暇している。二、暇で暇でしょうがない。三、暇で暇で、もう死にそうなくらい暇している。さぁ、どれでしょーか』
「……」
俺の気のせいだろうか、答えが実質一つしかないように感じる。それと、時折見せるドヤ顔が死ぬほどうざい。もう既に死んでいるが。
『わからないのかい? 仕方ないなぁ、それじゃあ、ヒントをあげよう。』
俺が答えないのを何をどう勘違いしたのか、答えがわからないと思ったらしい神は、ご丁寧にヒントを出してきた。
『ヒントは……暇』
答え言っちゃってるじゃないですかー。
いや、最初から答えも何もないんですけどね。
『さぁ、正解はどれだかわかるかな? それでは答えをどうぞっ!』
「……全部」
『大正解~。おめでとう、正解したキミには後でプレゼントがあるのでお楽しみにー』
とりあえず、うざかった。
「そんなことはいいから、俺をここに呼んだ理由を早く話せ」
俺は理由を話すよう神に催促をする。
神は『仕方ないなぁ』と呟き、話始めた。……仕方なくないだろ!
『キミをここに呼んだ理由は至極簡単。暇だったから』
「……は?」
いやいや神はナニヲイッテイルンダ?
『だ~か~ら~、暇だったの。理由はそれだけ』
「ちょっと待て、ふざけるなよ。なんでお前の事情で俺がこんな場所に呼び出されなければならない」
『だって、何百年、何千年、何万年、それよりもっと長く存在していると、本当に退屈で退屈で仕方ないんだもん。それに、キミにとっても悪い話ではないと思うよ?』
「どういうことだ?」
『それも、今から説明するよ。今度は黙って聞いていてね。まったく、キミは一々うるさいよ』
ぐっ、ムカつく。というかなんで俺が悪いみたいになっているんだ。
そんなことを考えていると、神はニヤリと笑った。仮面を着けているがわかる、今神笑った。
『じゃあ、仕切りなおして。キミをここに呼んだ理由は、確かに暇だったからだけど、それには意味があるんだ。そう、それはある日のこと、僕はいつもと変わらず暇していた。だから、僕はいつものように遊び飽きた世界を使って、世界崩壊ゲームをしようとしたんだ』
スケールでかいな。
てか、暇つぶしになんて遊びしているんだコイツ。
『さて、今日はどの世界にしようかなぁー、と崩壊させる世界を選んでいると、たまたまある世界が僕の目に入ってきたんだ』
「……」
『そう、その世界というのが、キミがいた世界だ』
神はそこで一区切りつけると、仮面の奥底で実に嬉しそうに笑った。
俺はその笑いになぜだか恐怖を感じた。
『その世界は、僕が少し前に創った世界だったんだ。けれど、創ったことを忘れて、そのまま放置していてね、だから久々に覗いてみたんだ。どんな感じの世界が出来上がってるのかちょっと気になって』
世界を放置か……。
もう、俺は何も言わん。
『そしたら、ビックリ。面白い生き方をしている者を見つけちゃったんだ。そう、キミだ』
神は腰に片手を当て、もう一方の手で俺を指差してきた。
ビシッ、という擬音がとても似合いそうなポーズだな。
『あ、ちなみに世界は割と平凡な出来上がりだったよ。まぁ、そんな平凡な世界でも、キミという存在を生み出せただけでも意味はあるかもね』
実に嬉しそうに、神は笑う。
まるで、新しい玩具を手に入れた子供のように。
『僕は、世界崩壊ゲームを一時中断して、キミの一生を覗いてみた。キミの一生は実に面白かったよ。だって……おっと、これ以上先はまだ言えない。そしてキミの終わり。つまり死んでしまったのを見た時、僕は思ったんだ。どこかの世界を崩壊させるより、キミの一生をもう一度見てみたい、とね』
「……」
『さらに、僕はもう一つ面白いことを思いついたんだ。キミの一生に僕が干渉したら、もっと面白いことになるんじゃないか、てね。思いたったら即行動がモットーである僕は、早速色々と準備をした。キミの魂をここで止めるようにスーちゃんにお願いしたり、キミの新しい転生先を選んだり、キミにどんなイタズラをしたら面白いか考えたり、色々ね』
神が俺をここに呼んだ理由は大体わかったが、今の発言、色々とおかしいだろ。特に最後。
『キミを歓迎する準備が整った僕は、ここでキミが来るのを今か今かと待っていたんだ。久々にワクワクしたよ。あぁ、これで暇から解放される、てね』
神にとって、俺の存在意義は暇つぶしか。
大層な存在意義だこと。
『そして、キミがここに現れた時、もう言葉にできないくらい嬉しかったね』
「そして、この状況か」
俺は、悲しみとも怒りとも言えない感情を言葉に込めた。
ただそれは、神にはどうでもよかったみたいだ。……だって、欠伸してるもん。
『それじゃあ、これで僕がキミをここに呼んだ理由は終わり。何か質問はあるかい?』
「途中で言っていた、俺にも悪い話じゃないというのはどういうことだ?」
『ん? あぁ、そんなこと言ったね。忘れてたよ。キミにも悪い話じゃないってのは、キミが死んだ時、キミは最後にこう思ったんだ。(あぁ、俺はアイツを守ってやれなかった。もし、来世というものがあるのなら、今度こそはアイツを守ってみせる)ってね』
「俺は本当にそんなことを思ったのか?」
『なんだい? 信じないっていうのかい?』
正直、信じられない。神の話にはいつ嘘が混ざっているかわからん。
明確な確証がない以上、どうにも信じられない。
『仕方ないなぁー、それじゃあ特別に、キミの記憶を少し戻してあげよう』
そういうと、おもむろに神は右手の人差し指を俺の額に当てた。
すると、俺に触れている指から何やら暖かいものが流れてくる感覚がある。
『この記憶はキミが死ぬ間際の記憶だ。この記憶には、さっき僕が言ったキミの思いも入っている。まぁ、ゆっくり堪能してくれ』
神が何か俺に呟いている気がするが、今の俺はそれどころではない。
突如、頭の中に記憶が入り込んでくる。その記憶は、まるでノイズがかかったように掠れてみえる。視界に映るのは草木が生い茂った林。そこで俺は……。
『どうだい? 僕の言ったこと信じてくれたかい?』
俺は、顔を俯かせながら、返答する。
「あぁ、どうやらお前の言っていることは、正しいらしいな」
最初は、認めなかった。けれど、魂が反応する。これは俺の記憶だと。
『それはよかった。それじゃあ、そろそろ時間も無くなってきたから、選んでもらえるかい?』
そういうと神は、どこからかトランプを出してくる。
『今からキミには、僕のお気に入りの世界の一つ、【イームハルト】に転生してもらうよ。その世界は、剣あり、魔法あり、踊りありの、とっても面白い世界。そこに転生する前に、キミに僕からのプレゼントがあるんだ。さっきのクイズのご褒美だよ』
ゆっくりと、神はトランプをシャッフルする。
『このトランプの中で1枚選んでね。転生した時、キミが選んだそのカードは一つだけキミに能力を与えてくれるから。ささやかながらこれが僕のプレゼント』
そういって、53枚のトランプをファンしながら、俺に提示してくる。
迷う。恐らく、この選択次第で俺の転生生活が大きく変わると感じる。理由は、直観だ。
そして、俺は直観を信じる。ゆえに、選ぶカードも直観だ!
「これだっ!」
俺は1枚のトランプを直観で選んだ。後悔はない。
どんなカードを選んだか確認すると、なにやらピエロが描いてある。そして、右下と左上にはJOKERの文字。つまりこれは……。
「JOKERか」
『おお、おめでとう。まさかJOKERのカードを引くなんて、本当にキミは面白い』
神はなにやらとても喜んでいるが、俺の心情は……まぁ、察してくれ。
JOKERってことはつまり、ハズレってことだろ。53枚もある中で、ハズレを引く俺の運のなさ。
『よし、プレゼントも済んだことだし。そろそろ転生するよ。あ、言い忘れていたけれど、キミには【イームハルト】でやってもらいたいことが2つあるんだ』
「2つ?」
『1つ目は、キミの無くした記憶は全て【イームハルト】にあるから、それをすべて見つけること。そして2つ目は、【イームハルト】は僕のお気に入りの世界だ。きっと君も気に入るとから、異世界生活を満喫してね!』
神は言い終わると、俺の頭に手を乗せてきた。すると、少しずつ神の手が暖かくなっていく。次第に頭から全身にかけて心地いい暖かさに包まれると、そこで俺の意識はなくなった。
次で神様のお気に入りの世界【イームハルト】に行きます。
レッツ・転生!