春
ロリ百合マンガのイメージで書きました。
とっても気持ちの良い日だったから、あたしとチィちゃんは野原に行ったの。
タンポポにヘビイチゴ、シロツメクサにオオイヌノフグリ。いろんな色の花がたくさん咲いてて、とってもきれい。
お日様はぽかぽか、お空はやさしい薄青色。
シロツメクサで冠を作ってあげると、チィちゃんは嬉しそうに笑って、あたしをギュッてしてくれた。あたしよりもちょっと小ちゃいチィちゃんは、やわらかくて、甘い匂いがするんだ。何だか、綿菓子みたいなの。
「ありがと、なっちゃん」
シロツメクサの冠をかぶって首をかしげたチィちゃんは、ホントのお姫様みたい。
「わたしも作りたいな」
「冠?」
「うん。教えて?」
チィちゃんに「お願い」されて、あたしはいやだと言ったことはない。言えるわけがない。もちろん、すぐに教えてあげた。
何回か目の前でやって見せると、すぐにチィちゃんはやり方を覚えて、一人でドンドン作れるようになった。もっと教えてあげていたかったのにな。チィちゃんがあたしを見てくれなくなっちゃったから、ちょっと、寂しい。
一生懸命なチィちゃんのじゃまもできなくて、あたしは隣に座って、白くてふくふくしたチィちゃんの手が動くのを、ジッと見つめていたんだ。あったかお日さまが気持ちよくて、あくびが出ちゃう。
うう、眠い。
チィちゃんが頑張ってるんだから、寝ちゃダメ。
……寝ちゃ、ダメなんだか、ら……
*
あたしは、チィちゃんといっしょにケーキを食べてる。
サクラの花びらが入った、良い匂いのするピンクのケーキ。チィちゃんは色んなことができるんだけど、お菓子を作るのもとっても上手なんだ。
甘くてふわふわ。雲を食べたらこんな感じかな。
ケーキはすっごくおいしくって、あたしはおかわりする。
そしたら、そのケーキからちっちゃな双葉が出てきて、スルスルッと伸びたの。びっくりして見てたら、あたしの左手にからみついてきた。
何? 何で、ケーキから芽が出るの?
そんなの、変!
――パチリと目を開けると、チィちゃんがあたしの手を触ってた。鳥の羽みたいにやわらかいチィちゃんの指が、あたしの手に何かしてる。
なぁんだ、チィちゃんだったんだ。いつの間にか、寝ちゃってたみたい。
「チィちゃん?」
あたしが名前を呼ぶと、チィちゃんはニッコリと笑顔になった。チィちゃんが笑うと、あたしの胸の真ん中は、いつもフワッてあったかくなる。
「あ、なっちゃん、起きちゃった?」
「だって、くすぐったいんだもん」
「ごめんね」
「何してたの?」
言いながら、あたしは左手を持ち上げて、チィちゃんが触っていたところを見た。
そこにあったのは。
「四葉のクローバーだよ。見つけたの」
お姉さん指に、指輪みたいにくくりつけられている。
あたしがチィちゃんを見ると、首をかしげて笑った。
「四葉のクローバーを持ってると、幸せになれるんだって」
「え、じゃあ、チィちゃんが持ってなよ」
そう言って指から外そうとしたら、チィちゃんに右手を握られた。
「いいの。なっちゃんにあげたいの。あと、はい、これもできたからあげる」
チィちゃんは言いながら、あたしの首にシロツメクサの首飾りをかけてくれる。こんなに大きなのができるくらい、眠っちゃってたんだ。
「ありがと。きれい」
あんまり嬉しかったから、思わずチィちゃんのほっぺにキスしちゃった。くすぐったそうに首をすくめてチィちゃんは笑うと、あたしのほっぺにもお返ししてくれる。
そのままおでことおでこをくっつけて、チィちゃんがあたしの目をのぞき込んできた。
「ねえ、なっちゃん。四葉のクローバーの花言葉って、知ってる?」
チィちゃんは色んな本を読むから、とっても物知り。あたしの知らないことを、たくさん知ってる。
「知らないよ。何?」
首を振ってあたしが答えると、チィちゃんはクスクスって笑った。
「じゃあ、ないしょ」
「ええ!? 教えてよ」
「だめ」
可愛いのに、時々、チィちゃんはちょっといじわるになる。
「もう」
プウッと膨れたあたしのほっぺに、チィちゃんがもう一回キスをした。
「ふふ。なっちゃん、大好きだよ」
そんなこと言ったって、ごまかされてあげないんだから。
そう思っても、ずっとは続かない。
だって、あたしだって、チィちゃんのことが大好きなんだもん。
怒った顔なんてしていられなくて、代わりにあたしはチィちゃんを力いっぱい抱きしめた。