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9.時限爆弾を背負った脱出作戦 1

 後に残されたのは、僕と先輩から中司さんを預かった谷山先輩。谷山先輩は僕に、

「ねぇ宮本君、急いで私の席から膝掛けと財布取ってきてくれる。部長には私が休憩させても体調が戻らないから、連れて帰りますって言って。私、まさかこんなことになってるって思わなかったから、良くなったら戻りますって言ってきちゃったから」

と頼んだ。

「膝掛けと財布……ですか?」

「うん。鞄はロッカーにあるんだけど、肝心の財布が私の席の長い引き出しに入ったままなの。それに、膝掛けは椅子の上にちゃんと乗ってるから。

この子、こんなごわごわしたスーツにくるまったままなんてかわいそう。それに、私が男物のスーツを持っているのも、宮本君が2着抱えてるのもどっちも変だわ。私はこの子を連れてロッカールームに向かうわ」

「そんなことして見つかったらどうするんですか。中司さんは魔法で寝てるから起きないでしょうし、とりあえず中司さんをこの部屋に残して谷山先輩だけ……」

と言いかけた僕に谷山先輩は

「ダメよ、鮎川たちが交渉を終わって外に出たんだから、ここには直に誰かが片づけに来るわ。それに、ロッカールームに行けさえすれば大丈夫よ。宮本君もそこに私の私物を持って来て」

ぴしゃっとそう言い、じゃぁあまり時間はないからと、僕を置いてさっさとロッカールームに向った。もうこうなれば、彼女がその道中社内の誰にも会わないことを祈るばかりだ。僕もあわてて総務に向かう。そして、谷山先輩に言われた通りに上司の門田さんに伝える。

「そうか、やっぱりな。実は薫姫、最近あんまり調子良くなさそうなんで、内心心配してたんだよ。ちょこちょこ吐くのを堪えてるようだったしな。

俺から会長補佐にチクるのもねぇ」

薫姫はなんか理由付けて辞めさせられるって、戦々恐々としてるとこあるからなと、門田さんはそれを聞いて苦笑した。谷山先輩、このことがなくても体調良くなかったんだ。もしかして、最初に見たとき顔が蒼かったのも、驚いていただけじゃなかったのかも。

 あ、ちなみに会長補佐というのは先輩のこと。今、会長は奥さんの実家にいるから。社長は小説の仕事が忙しいし、実質今から社長みたいなモノなんだよね。でも、会長補佐って、なんか苦肉のネーミングだと思わない?

 そんなだから、先輩の方はもうすぐにでも結婚したいと思っているみたい。でも、谷山先輩の方がまだ仕事をしていたいと渋っていて、結局あれから1年以上も経つって言うのに、この二人はまだ結婚していないのだ。

「薫姫に、あしたは週末だから気にしないでゆっくり休めって言っといてくれ」

僕はそう言う門田さんに再度頭を下げてロッカールームに向かった。

 ロッカールームのドアをノックすると、中から谷山先輩の

「入って」

と言う声がした。でも当然だけど、そのロッカールームは女性用。『入れない』僕がそう思って逡巡していると、

「早く入って。そこに立っているのを見られる方がやばいから」

と谷山先輩に言われて、慌ててあたりを見回して中に飛び込む。すると、そこにはベビーキャリーが用意されていた。スーパーの買い物かごに被せて使うタイプのマイバッグの中に、書類を入れるトレーを仕込んだ苦肉の策だけど。でも瞬時にこんなこと、よく思いついたもんだ。

「宮本君、そこに膝掛けを敷いて」

谷山先輩は、トレーの中に膝掛けを敷くように言い、僕がそうすると、そこに中司さんを

「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」

と言いながら寝かせて、それを僕に託した。

「さぁ、本当に時間がないわ、行きましょう。重いけど、絶対に落とさないでね」

と、自分は別の紙袋に彼の着ていたもの一式を詰め込んでロッカールームを出る。

 僕は『命の重み』をずっしりと肩に食い込ませて彼女の後に続いた。








 

美久たち、なかなか会社から出られません。次回はやっと社外です。

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