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34.幸せの魔法

 僕はまず、パソコンを開いて覚えている限りの魔法の名称と詠唱文言を入力し始めた。<Reverse・Grow>みたく、セルディオさんがミシェルのためにたった一度しか唱えてないものも頭に残っていたので、時間がたってもたぶん覚えている自信はあったけれど、彼との交流が途切れた今、その効力がなくなってしまうかもしれない。念のためだ。

 結局表計算ソフトで作成したそれは何ページにもなり、ちょっとした魔道書状態。それを元に、翌日に休める日を選んで(MP切れで倒れる可能性があるからね)簡単な魔法を中心に自主トレを始めた。『習うより慣れろ』ガソリンを作るのと中司さんを赤ちゃんにするののどっちが高度な魔法なのかは僕には判らないけれど、少なくとも一回目よりは二回目、二回目よりは三回目と、僕の負担は徐々に軽くなっていったような気がしたからだ。


 そして一年あまりたった今日、僕は自作魔道書の最後の最後に書いた魔法、『夢つなぎ』の呪文<Access>を高らかに詠唱した。

 セルディオさんは『本来あるべき姿』に戻るべきだと言うけど、僕はそうは思わない。折角世界を乗り越えて知り合ったんだもの、行き来までしなくても、今どうしているのか位は連絡したいし、向こうの消息も知りたい。

 でも、案外セルディオさんって堅いから、こんな僕のつないだ糸なんてさっさと切ってしまうかもしれない。

 だけど、今日だけ、今日の先輩たちの結婚式だけはセルディオさんに見てほしいんだ。

 

 あの後、先輩は正式に社長と養子縁組みをして、櫟原幸太郎となり、薫さんと入籍した。

  薫さんは安定期にはいった6ヶ月くらいに結婚式をしたいと言ったらしいんだけど、入院の前科があると先輩はそれを断固拒否。無事生まれてくるまでおあずけということになった。生まれてもあまり小さい内にはできないから、一年あまりたった今日、やっとその日をむかえることができたという訳なのだ。

 

 それから殻から飛び出したひよこよろしく、すっかり先輩夫婦に懐いてしまった中司さん。女嫌いが嘘みたいにさっさと見合い結婚をして、あっと言う間に男の子のパパに。

『一つ年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せって言うんですから、是非に』

と、今から双方の縁付けを声高に叫び、それに対して先輩の

『てめぇのガキに俺のかわいい奏をやれるか!!』

と返すやりとりは、もはやお決まり事みたく二人が寄ると必ず交わされている。


 あと、先輩は社長の養子になって半年後、櫟原の社長に就任した。

 会社から自由になったマイケル(もう社長ではないし、お義兄さんって言ったら怒るんだもん)は、自由にバンバンかけると思いきや、今度は違う意味で忙しいみたい。


ま、その話は別の機会にするとして……


 僕は、セルディオさんに今の僕たちを余すところなく送るべく、結婚式の一こま一こまを心に刻みつけながら出席した。

 で、予想通りセルディオさんは僕が眠ったとたんに何ともいえないと言った表情で現れた。

「なぜまたつないでしまわれたんですか」

それに対して僕は笑ってこう答えた。

「うん? 僕たちは元気ですって知らせたかっただけですよ。心配でしたら、もう切りますから。でも、また嬉しいことがあったら、つないで知らせます。

セルディオさんの方も、何か嬉しいことや楽しいことがあったら、知らせてください

知らせるのは、楽しいことだけで良いんです。たぶん、悲しいことはそれにくっついてもう一方に伝わってしまうだろうけれど……それでも、僕はこの出会いを夢で終わらせたくないから。

だって、僕が中司さんを赤ちゃんにしたとき、先輩は、『これは現実だ、じぶんのやったことをソッコー認識しやがれ!』って言ってたでしょ?

だからこれは、僕たちに取って必要な、『幸せの魔法』なんですよ、ね、セルディオさん」

セルディオさんは、そんな僕の言葉に仕方がないですねぇという様な表情で黙って頷いた。 


                         -The end-

※老婆心ながら、マイケル=ミシェルです。(武君、ママがイギリス人なんで)


で、これをもちまして「道の先には……赤ちゃんパニック」完結とさせていただきます。


ですが、くすぶっている小ネタは、三作のどこかで番外として登場する……かも。

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