33.マックスハイテンション
谷山先輩が倒れたその日の夜遅くになって、先輩はやっと電話してきた。
実は、病院にいるのだからと夕方くらいまでは電話を控えていたけど、8時を過ぎても連絡がないので、いい加減心配になって電話しても、一向につながらない。しかもマナーモードならまだしも、話し中。
だからといって、谷山先輩の運ばれた病院すら分からない僕には、どうすることもできない。イヤな想像ばかりが頭を過ぎる。
だけど、そうしてやっとかかってきた電話の先輩はとんでもなく上機嫌で、僕はホッとするのを通り越してちょっと苛ついたほど。程なく自分から話してくれたその理由に、ま、しかたないかとは思ったんけどね。
「それにしてもさ、『すんません、できちまいました』って電話したら、あの二人なんてったと思う? 俺は、てっきり思いっきり叱られるかと思ってたんだぜ。それなのに、二人とも『でかした』だぞ。一気に気抜けして、病院の廊下に座り込みそうになっちまったぜ」
と言った先輩はふふふ、といささか気持ち悪く笑った後、
「宮本、あいつに魔法かけてくれてありがとな」
と言った。先輩が僕にお礼を言うなんて、明日は朝から槍が降りそうだ。だけど、
「お前があいつを赤ん坊にしなきゃ、あいつの弟の個展に行くこともなかったからな。あの弟に言われてなきゃ、間に合わなかったかもしんねぇ。
なんせ、『かなちゃん』だぜ。ポシャっちまってたら、俺ショックで立ち直れねぇ」
と続けた先輩は、生まれてくるまであと何ヶ月もあるっていうのに、いまからすっかり親バカ全開。しかも、希望通りの女の子みたいなので、テンションはもはや最高潮だ。
「いえ、とんでもない。あ、セルディオさんが先輩たちによろしくって言ってました」
それに対して僕がそう答えると、
「そっか、ビクトールも帰ったか」
と先輩は少し残念そうにそう言った。
「ええ、もうここには来ないそうですよ。『本来あるべき姿に戻る』んだそうですよ」
それで僕が続けてそう言うと、
「さんざんかき回しといて、今更何を言ってやんだよなって話しだよな」
と言って笑う。
そう、いきなり彼の世界に飛ばされたときから、セルディオさんには振り回されっぱなし。
ホント、今更本来の生活ってなんなのさって感じだよね。
……だからこの時僕は、あることを決心したんだ。