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3.それはそっちの都合だろうが(ブツブツ)

 泣き声が外に漏れる! と戦々恐々としている俺に、中司ガキは俺がわざわざビクトールが見えないように立ち位置を変えているにも関わらず、きょろきょろと覗き込んでまで奴の存在を確認して泣き続ける。そんなに嫌な相手なら、見なきゃ良いんだろーが。俺は思わず中司ガキの口を押さえてしまった。すると、ビクトールは、

「赤ちゃんはか弱いんです。そんなことをしたら簡単に死んでしまいますよ」

と俺の手を払いのけ、その声にまたぴくっとした中司ガキの前で指をパチンとならした。すると、中司ガキはぱふっという擬音が聞こえるような欠伸をすると、目に涙をためたまますんなり寝入ってしまった。どーせまた、そのお得意の魔法で眠らせたんだろう。

「相変わらず便利なことで」

「お褒めにあずかり光栄です」

そして俺の皮肉を真っ向から受け止めやがる。相変わらず嫌味な奴だ。

「けどどうせなら一気にこいつを元の大人サイズに戻してくれりゃ良いだろ」

「それは無理ですよ」

「何でだ」

「難易度が違いすぎます。それに魔法は、基本術をかけた本人が解くものです。美久の魔法に私の魔法を上掛けする形と言えばお解りいただけますか? ですから、術者本人が死亡しているなどの特別な場合を除いて、それはできないことになっているのです」

「そんなもん、オラトリオの法則だろうが。それに、その論法でいけば術者は死んではいねぇけど『戦闘不能』じゃん。条件的には問題ねぇんじゃね?」

「私がいつも通りの体調ならばまだしも(ゲホン、ゲホン)そうじゃなくても、今はできるだけミシェルのために余力を残しておきたいんで(ズルズル)」

俺の言葉に、ビクトールは体調不良を殊更にアピールしながらそう返す。けど、ミシェルって言えば社長のミドルネームだよな、何で社長の? そっか、こいつは宮本のドッペルだ。こいつも社長に見初められてガッシュタルト王家にこき使われてるって訳か。あっちでは俺は他国の王子だしな、孤軍奮闘してるってか。

「ああ、ああ、わぁったわぁった、そんな体調の悪いときにわざわざ呼び出して悪かったよ」

「とんでもない、考えてみたら私にも幾分非のあるはなしですから。とりあえず、美久の魔力が一刻も早く回復するようにこれを持ってきたんです」

案の定、俺が下手に出ると、ビクトールはケロっとしてそう言うと、しわくちゃの実らしき物を取り出した。

「これは?」

「ガザの実です。実の生る時期に取りおいて乾燥しておいたんです。生よりは効果は薄れるかもしれませんが、緊急時にはそれでも役に立ちます」

あの魔力回復アイテムか。にしても、時期外れにご丁寧にドライフルーツかよ。誰のためにだ。こいつの魔力が枯渇するなんて想像できねぇから、あの跳ねっ返りの姫さんのためにか。それともいつかこんな風に宮本が大魔法を繰り出してぶっ倒れることを予想してやがったか。

「じゃぁ、ちゃっちゃと宮本起こして食わせちまおうぜ」

「はい、でもその前に、この方に何か服を着せて差し上げないと、風邪を引いてしまいます。それに、そんなごわごわした生地ではきれいな肌もかぶれてしまいますし」

「ごちゃごちゃうるせぇなぁ、んなこと言うならお前がちゃっちゃとこいつを元に戻せば良いんだろーが」

「それができれば、こんなことは申しませんよ」

イライラと言う俺に、ビクトールはため息をつきながらそう返した。それにしてもこいつ、中司ガキを元に戻せないと、あっさり認めやがった、認めやがったぞ。

 けど、赤ん坊になったとは言え、中司ガキは大事なお客様だ。こっちの事情で風邪を引かせたとあってはシャレになんねぇ。

 とは言うものの、俺がここを離れるわけにもいかねぇだろうし、どうしたものか……

 しゃーねぇ、ここはもう一人のそっくりさんがいる奴を呼ぶか――おれは覚悟を決めて薫の内線を押した。

 

 

 

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