27.かなちゃん
彰幸くんのプチインタビューを聞き終えた僕たちは、本格的に彰幸くんの作品を見て回った。素材は新聞に入ってくるチラシや雑誌のグラビアなど、僕らが普段いつも目にしているものでつくられているが、その完成度は高い。彰幸くんは納得のできる色調の紙を自宅に積み上げてあるそれこそ何万の紙の中から探すそうだ。しかも、彰幸くんは一切の妥協を許さない。
「お母さんに同じ本、買ってもらうことあるです」
と言っていた。ただ、その本が簡単に手に入れば問題はないんだけど、中には既に発売期間を終えているものもあったりして、彰幸くんのお母さんはもちろん、八代さんや彼を支えてくれているスタッフ総出でバックナンバーを求めて奔走する事もあるらしい。
そしてそうやってできあがった作品は写真よりも写実的で、どことなく暖かい。絵だけではない、彰幸自身もそうだ。関わった人たちすべてを笑顔にしてくれる。
(彰幸くんって、本当にミシェルに似てるな)
僕がそう思ったときだった。隅っこでセルディオさんと話し込んでいた谷山先輩の体ががくっと折れた。ほかの来場者の女性からも悲鳴が上がる。作品を見ていた先輩がそれに気づいて、慌てて彼女のところに走って行った。
「薫、しっかりしろ! だから今日は、マンションに居ろってったのに……」
先輩は、そう言って次いで駆けつけてきて、
「大丈夫ですか、早速救急車の手配をいたしますから」
と言う中司さんをぎろりと睨んだ。確かに谷山先輩の寝不足の原因は中司さんだろうけど、それは彼本人には罪はないことだしなぁと思っていると、中司さんの後ろからひょいと首を出した彰幸くんが、
「かなちゃん、もうちょっとだけがんばっててね。大丈夫だよ、今なら絶対に間に合うから」
と言ったので、僕たち(中司さんも含めて)は一様に首を傾げる。だって、谷山先輩のファーストネームは薫だ。あるいは英名のフローリア。かおちゃんと呼ぶ人はあっても、かなちゃんと呼ぶ人はないはずだから。
でも、きょとんとしていた先輩の顔が彰幸くんの目線の先に気づいて急に理解した顔になり、
「彰幸くん、本当にかなちゃんがいるの?」
と聞いた。
「うん、かなちゃんいるです」
それに対して、彰幸くんはにっこり笑いながら頷く。
「で、まだ間に合うんだね」
「うん、だいじょぶです」
それを聞いて、先輩は軽くガッツポーズをしている。でも、僕には何がなんだか解らなかった。
やがて、救急車が来て谷山先輩と付き添いの先輩は病院に向かった。