24.瓜二つ
全く同じ顔が二つ。彰幸が公開インタビューのためにいつになくスーツを-しかも偶然にも同色の-を着用しているため、向かい合う彰教と彰幸はまるで透明の鏡の内と外のようだった。若干彰幸の身長が低いので、尚更奥行きを持つ鏡っぽく見える。
「彰幸くん……彼は……」
みんながあんぐりと口を開けて立ち尽くす中、フォロー男がいち早く立ち直ってそう聞く。
「八代さん、のりちゃんは彰幸のお兄ちゃんです」
フォロー男(八代というらしい)の質問に、彰幸は相変わらず笑顔でそう答えた。
「へぇ、ずっと会ってなかったんだろ。良かったね」
その言葉に八代はああ、と頷きながらそう返す。寺田彰幸の表向きのプロフィールには、兄弟がいることは記されていない。まぁ、これだけそっくりの顔なのだから、兄弟か、そうでなくても従兄弟ぐらいだと想像はつきそうなものだと、彰教も思ったのだが。
「そうです、僕はのりちゃんに会いたかったです。でも、のりちゃんはお父さんの会社の偉い人だから、忙しくて来られないとお母さんは言ってたです。でも、のりちゃんは来てくれました。のりちゃん、ありがとう」
彰幸はそう言って彰教に一旦は両手を差し出したが、あっと何かを思いついたようにその手を引っ込めると、こつんと自分の頭を叩いて、
「あ、インタビューだ。僕また忘れました。
のりちゃん、僕、絵のお話するです。だからあっち行きます。だからのりちゃんとお話できません。のりちゃんは、お母さんとお話するです」
そう言ってスタスタと設えられたミニ会見場に小走りで向かっていった。
後に残されたのは約25年ぶりに会った親と子。そこはかとなく気まずい空気が流れていたが、幸太郎は心配そうに遠巻きにみている薫を
「俺らができるのはここまでだ。後は俺らが口出しできる問題じゃねぇ。それより彰幸の話、聞いてやろうぜ」
と言って、彼女の肩を抱き、ミニ会見場に設えてあるパイプ椅子へと導いた。
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「行かなくて良いのか。彰幸ひとりで」
彰教は不機嫌そうにそう言った。
「編集者の八代さんが一緒にいてくれれば大丈夫よ。あの人が『色彩の天使』として取り上げてくれて、今日ここまで漕ぎ着けられたの」
それで、返す母の言葉で会見場に目をやると、八代は彰幸を上手くフォローして答えを引き出させている。彰教がその姿を食い入るように見つめているのを見て、
「心配しないで、実はあの方の妹さんも知的障害で、学校が一緒だったの」
母は、そう付け加えた。
「俺は、心配なんかしていない。それより、何で俺にチケットなんか送ってきた。ミュートス(※)にかわいいかわいい彰幸ちゃんを全面的にバックアップしろってか。
それなら、お断りだし、俺はもう帰る」
彰教がそう言い放って会場を後にしようとした時だった。
「それは、私がお前の机に置いたんだ」
そこには、彰教がこの場にいると思わなかった人物が立っていたのだった。
※どこにも出てきませんでしたが、彰教の会社名。ちなみに正式名称はミュートス工業(株)です。




