23.俺は『先生』じゃない!
そして、一行は寺田彰幸展の会場にたどり着いた。最後尾で他の面子に隠れて会場入りした彰教はいきなり、
「ああ、やっと捕まえた!」
と中年の少々(本人はそう思っているが、実はかなり)メタボ気味の男にがしっと腕を掴まれた。
「先生、なんでそんなとこにこそこそ隠れてるんですか。着替えが終わったらすぐインタビューだって言ってたでしょ」
男は彰教に向かってそう言った。どうやら自分は彰幸と間違われているらしい。幼い頃ならともかく、この歳になれば環境や体格などの生後の要素で顔つきも変わっているかもと、淡い期待を抱いていたのだが、どうやら彰幸は今でも自分にそっくりらしい。
「あ……俺は彰幸じゃ……」
彰教はそう言って、男の手を振り解こうとするが、がっついオヤジの手は振り回しても振り解けない。
「真砂さん、彰幸くん怖がってるじゃないですか。それに彼、先生じゃわかんないですよ。寺田くんか彰幸くんでないと反応してもらえません」
その様子を見て、自分ぐらいの歳恰好の男性がそうフォローを入れてくれた。
確かに、彰幸には自分の名前以外の呼称に反応する力量はないのかもしれない。だが、別に俺は男の事を怖がってもいないし、第一俺はそもそも彰幸じゃない。
「おお、そうだったな。じゃぁ、彰幸くん、行こうね」
彰教はアドバイスを踏まえてか、声のキーを上げて一転ガキ相手口調になった真砂という男を睨み上げて、
「だぁから、俺は彰幸じゃねぇってんだろ!!」
と叫んだ。普段の彰幸がどんな口調で話しているかは知らないが、真砂はもちろん、フォローした男もフリーズしている。だが、フォロー男は以外と早く立ち直り、ぷっと吹き出すと、
「彰幸くん、それ新しい遊びなのかな? 別の人ごっこしてるの?」
と彰教に聞いた。
「ごっこもクソもない、俺は……」
寺田彰幸じゃない、中司彰教だ! 彰教がそう叫ぼうとしたその時……
「あ~、僕と同じ顔。同じ顔はのりちゃんだよね、のりちゃん。お母さん、お母さん、のりちゃんが来ました」
そう言いながら彰教より若干背が低いものの、全く同じ顔をした人物がにこにこ笑いながら彰教に駆け寄ってきたのだった。その後ろには目にいっぱいの涙を溜めた母の姿があった。