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22.イリュージョニスト-鶴の一声

 10分後、彰教は宮本たちと一番行きたくない場所に向かって歩いていた。

 彰教が硬直してしまったあの女性は谷山薫という、櫟原の現社長の姪にあたるそうだ。

 現社長は齢50にして独身のため、彼女が実質櫟原の後継者だという。だが、彼女自身は経営に手を出す気はなく、実際にはその婚約者の鮎川幸太郎が徐々に経営を引き継ぐべく修行中だとか。

「その……あなたも櫟原の社員なんですか?」

 それから、彰教が遠慮がちに宮本そっくりのトオルとい男に問うと、

「いえ、会社勤めはしたことがありません。まぁ、城も会社とさして変わりはございませんけどね」

トオルは、真顔で恰好に違わぬ奇天烈な答えを返した。それに対して、宮本が、

「トール、『知らない人』にそれ言っちゃだめだよ。ここは『ニホン』なんだから」

谷山が、

「あ、驚かせてすいません。そのトールは、外国……そう、外国で生活してるんです」

と、続いて鮎川も、

「そう、そう、外国! 昨日、久しぶりに日本に帰ってきたんで、空港まで迎えに行ったんだよな、宮本」

と何やら大慌てで、トオルの発言のフォローを始める。

「そ、そうなんです。ちょっと超魔術の修行に……」

「へぇ、マジシャンですか」

そうか、イリュージョニストか。そう理解した彰教に、

「ええ、『稀代の魔術師』呼ばれた祖父を目標に、世界一の魔術師になるべく修行の日々を送っております」

トオルが笑顔でそう答えると、何故だかそんなトオルを宮本が睨んでいる。高名な祖父の技術を受け継いだ同じ双子のトオルを、やっかんでいるのだろうか。どうも見るからに宮本は手先が不器用そうだからな。

 

 しかし、『稀代の魔術師』なんて通り名のマジシャン、いたっけ……彰教がそう思って首を傾げた時、それを見た谷山が焦った様子で、

「あ、もうそろそろ行きましょうよ」

と言った。

「そうですね。早く行かないとお昼になっちゃいます」

と、宮本もホッとした様子でそれに同調すると、

「そうだ、僕たちこれから個展に行くんですけど、中司さんもご一緒にいかがですか」

と、彰教を誘う。

「い、いや……私は」

個展という言葉に、彰教はイヤな予感がして口ごもった。そして、程なくそのイヤな予感は的中する。

「寺田彰幸っていう、貼り絵画家なんですけどね。何でも貼り絵なのに、まるで写真なんだそうです」

宮本に続いて鮎川が補足の説明を加える。(やっぱり、彰幸の個展か)

「いえ、私は……」

それに対して、彰教は断りの辞を述べて、その場を去ろうとしたができなかった。それは続いて谷山が、

「どこまでも細密なのに、どこかほんわかと暖かくて。私、ファンなんです。中司さんも是非、ご一緒に」

と、きらきらした瞳でそう言ったからだ。彼女にそう言われると、彰教は何故か断ることができなかった。


 そして今自分は、『寺田彰幸』展を目指して歩いている。『ドナドナ』がBGMで聞こえてきそうだと、彰教は思った。


あはは、本当のイリュージョニストは薫って事で……

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