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2.さぁ、どうする?

 のびた宮本と、消えた中司氏の代わりに忽然と現れた赤ん坊。そのあり得ない状況に、俺は宮本がまた何らかの魔法を発動させて、中司氏を乳飲み子に替えてしまったと理解する。

 だが、こんな飛んでもない発想をすんなりとしてしまえるのは、俺が実際にパラレルワールドに潜り込むという経験をしているからだ。イタいなんて言わねぇでくれよ、俺だって実のとこ信じたくねぇんだ。けど、実際に俺やら宮本やら薫のドッペルと会っちまったから否定しようがねぇだけ。

 宮本は俺が、

「おい、こら、起きろ!!」

と叫びながら叩こうが揺すろうが目を覚まさない。その様子に、こいつの使った魔法がいかに強力だったかが分かる。よく考えたらあれからほぼ一年だぞ、お前どんだけ記憶力良いんだよっ。

 その内その声にきょとんとしていた、中司ガキの唇が少しずつへの字に変わっていく。

「ふぇっ」

や、やべぇ、泣かれる! そう思った俺はとっさに中司ガキをスーツに包んだまま抱き上げ、

「よしよし、良い子だ。泣くなよ。男だろ?」

と揺すぶってあやした。中司ガキは俺のその言葉にぐっと涙を飲み込むと、めちゃくちゃ澄んだ瞳で俺を見上げるその顔はまるで、

「ボク頑張る、でもお兄ちゃん誰?」

と言ってるかのようだ。か、かわいいじゃねぇか。反則技だぞ、お前。

 けど、よくよく考えてみれば、こいつ実年齢俺より上なんだよな。じゃぁ、詐欺だろ、この顔は。


 さて、この事態をどう打開するか。宮本が使い物にならない以上、あいつにこっちに来させるしかねぇか。

【おい、ビクトール。どうせ今でも俺らのこと魔法で覗いてんだろ。緊急事態だ、とっととこっちに来い!】

俺は、なんてことない会議室のホワイトボードに向かってそう叫んだ。

 するとしばらくして、ホワイトボードの真ん中に黒い渦が生まれ、そこに宮本のドッペルゲンガー、ビクトール・スルタン・セルディオの幻影が現れた。 

【お前、手抜いてんじゃねぇ、早くこっち来いよ】

「簡単に言わないでください。界渡りはおいそれとはできない大魔法なんですよ。今日みたいに体調の悪い日は勘弁していただきたいです」

俺の言葉にビクトールは迷惑そうに鼻をすする。風邪ひいてんのか。『鬼の霍乱』ってやつだな。

【んなこと言ったって、こっちは切羽詰まってんだよ。宮本が魔法を使えるようになったってのも、お前が自分と入れ替えてオラトリオに飛ばしたからだかんな。元はと言えばおまえのせいだろ】

「そりゃ、あなたと美久をオラトリオに飛ばしたのは私ですが、そうでなければあなた方も死んでいたかもしれないんですよ。お互い様じゃないですか」

【フツー、それが運命ってやつ……あん? お前反対じゃん】

そんな風に奴と不毛な言い合いをしていたが、そのとき俺はあることに気づいた。俺があっちに合わせて英語で話しかけるのに対して、あいつが日本語で俺に応えていることに。

「お前、日本語!?」

「ええ、少しは」

少しはってレベルか、それが! あの宮本のドッペルだ、基本言語能力が高いのは認めるが、完璧ネイティブの発音じゃねぇか。おかげでしばらく日本語でしゃべってんのに気づかなかったじゃんかよ。ま、エリーサがしこたま頑張ってもちっとも発音できなかった美久の発音を一発目から完璧にこなしていた時点で気づくべきだったか。

「何が、『界渡りは難しい』だ。どんだけこっちに来てるんだよっ、ごちゃごちゃ御託並べてねぇで、来いってんだ!!」

 日本語は英語圏の奴らにとったら、文法真逆の一番難しい言語だぞ。俺がそう言うと、ビクトールは、

「しょうがないですねぇ、じゃぁ行きますよ。行けばいいんですね」

と渋々逆ギレしながら瞑想を始め、ホワイトボードからにゅわーっと姿を現した。その姿はさながらホラー映画だ。

「やりゃ、できるんじゃねぇか」

と言った俺に、

「誰もできないとは言ってませんよ」

と肩で息をしながらビクトールはそう返した。おまえ、何気に負けず嫌いなんじゃね?

「で、この方が問題の方ですか」

それからビクトールは息を整えながらそう言って、中司ガキの顔をのぞき込んだ。中司ガキはビクトールの顔を見た途端、危険を察知したかのようにぴくっと体をふるわせると、一気に唇を歪ませ本格的に泣き出した。そう言ゃ、こいつがガキになる前宮本にどなってたんだっけな。怒ってた奴と同じ顔の奴がいたらそら嫌だわな。

「だぁーっ、お前顔出すんじゃねぇ! ああ、よしよし。嫌いなおじちゃんがいましたね、気にしなくていいんでちゅよ」

んで、俺がそう言いながらあやしても、揺すくっても全く効果なし。中司ガキは激しく泣き続ける。おいおい、そんなに泣くな、外に声が漏れるじゃねぇか。

 俺が来いって言ったんだけどよ、あぁ゛ーっ、どうしたらいいんだよ、コレ!!



 

 

 

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