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18.僕らのオアシス

 翌朝、僕たちと先輩たちとは喫茶店「満福珈琲館」前で待ち合わせた。ここは最終目的地、中司さんの弟さんの個展会場に近いのはもちろん、フロアがとんでもなく広く、一番奥の座席に陣取れば、店員さんは最初に注文を取ってそれを持ってくるだけでそれ以降全く現れない。混んでなければこんな奥まで誰も来ないし、またそれほど混むこともない。だから、何をしていても何時間いても大丈夫という店なのだ。

「しっかしまぁ、お前よくこんな都合の良い店知ってたな」

薄暗い通路をぐっと奥に進みながら先輩が欠伸をしながらそう言った。

「えへへ、そうでしょ。ここ、僕たち北高漫研部員はオアシスって呼んでましたから。

大体ウチ、3人兄弟で家で原稿書いてられる環境じゃなかったですからね。それに、あーいうのって、試験前になるとどうしても書きたくなるんですよね。親に見つからずに書くのに、僕らにはここは必要不可欠だったんです」

僕がそう返すと、先輩はもちろん谷山先輩まで引いた。

「宮本君、武叔父様と気が合うはずだわ……」

谷山先輩がぽつりとそうつぶやく。心なしか唇も震えていて、昨日よりさらに顔色は良くない。

「谷山先輩、大丈夫ですか? 先輩に任せて休んでいれば良かったのに」

すると僕の発言に先輩はちっちっと舌を鳴らして指をフルと、

「それもこれもこいつのせいだ。薫がちょっとでも下ろすと泣くんだよ。ようやく本気で寝入ってベッドに寝かせたのが明け方の4時だぜ」

と、言ってて大欠伸をした。それから、

「そんなだから、今朝はこいつがまだ寝てる間に俺一人で連れて行くつもりだったんだ。けど、俺が抱き上げたとたん目を覚ましやがるんだ。んで、薫が抱くまでどうしたって泣き止まねぇ。まったく、今まで満たされなかったもんを埋めてんのかどうかは知らねーが、いい加減にしてくれってんだ」

と言って、盛大にため息をつく。それほど、中司さんは今、母親を求めているということなのだ。

 僕は、それが彼が乳児化したからだけではない気がした。

『彰教ちゃんはお母様に会いたいのよね』

優しくそう言う谷山先輩に、彼は涙で答えているのかもしれないと思った。
















 






 

ちょっと短いんですが、閑話っぽい話になったんで。


次回、美久はやっと大逆魔法を唱えます。


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