17.作戦会議(愛情の反対は?)
「そいで、こいつの手帳にこれが挟まってた」
それから先輩はそう言って一枚のチケットを僕たちの前に振りかざした。で、それを覗き込んだセルディオさんが
「色彩の天使、寺田彰幸展ですか……来週の火曜日が最終ですね」
と、チケットを読み上げる。これには先輩はもちろん、僕まで驚いた。
「げっ、お前なんで読めんだよっ」
「何故なんでしょうね、ふつうに読めましたが。美久もオラトリオの魔道書をすんなり読みこなせてたじゃないですか。それと同じことです」
「そう言われれば、そうですね」
セルディオさんの説明にあっさり納得してしまった僕に先輩は、
「同じな訳あるかっ!! まぁいい、話が進まねぇ」
と吠えながら頭を抱える。大体、パラレルワールド自体通常理解のキャパオーバーしてるんだもん、もう何でもアリで良いんじゃない?(良くない?)
そして僕が、
「でも、寺田彰幸って中司さんの弟さんですよね。色彩の天使っていうことは画家なんですか」
と聞くと、
「ああ、けど書くんじゃなくって貼り絵らしいが、ただそれはまるで写真のような精巧さらしい」
と、先輩は頷きながらそう答えた。
膨大な色調の中から的確にピックして陰影まで描き出してしまうその集中力は、サヴァンシンドロームの特化した芸術性の表れだと。
「で、なぜこのチケットをこの方が持たれていたんでしょう」
「弟が送りつけてきた……なんてことはねぇわな」
「ないでしょうね」
「母親でしょうか」
男たちがチケットを眺めながら首を傾げていると、
「きっと、自分で手に入れたんだわ。彰教ちゃん、本当はお母様に会いたいのよ」
谷山先輩が中司さんを見下ろしながらぽつりとそう言った。
「そうですか? 僕に中司さん『アレの話はするな!!』って怒鳴ったんですよ」
僕が思わず彼を赤ちゃんにしてしまうほどの剣幕だったんだから。
「ううん、きっとそう」
それでも、谷山先輩は寧ろ確信に満ちた顔でもう一度そう言った。それを見て先輩が
「そうかもしれねぇな」
と彼女の言葉に同意する。
「先輩までそう思うんですか」
納得できない僕に先輩は、
「だってそうだろ、宮本、愛情の反対語って何だか知ってっか」
と、質問を質問で返してくる。
「憎悪ですか?」
「ブッブー、ハズレ」
「じゃぁ、何なんですか」
愛情の反対は憎しみじゃないの? 完全にギブ状態の僕に、
「マザーテレサ曰く、無関心だとよ」
と、したり顔で答える。
「言われてみればそうですね、憎悪は愛情の裏返しかもしれませんが、方向性は同じ」
それを聞いて、セルディオさんもそう言って納得顔で頷いた。そう言われても僕はいまいち納得できないんですけど。
「そうさ、ムキになって否定する時点で、こいつは母親を求めてるって暴露してるのさ」
そんなもんですかね。本気で嫌ってるって可能性もないですか?
それから僕たちは明日の朝、問題の寺田彰幸展の会場近くのどこかで中司さんを元の姿に戻して彼を会場に連れて行くことを話し合った。
「これで明日のあらましは決まったな。じゃぁ、そう言うことで解散。もう帰って良いぜ」
すると先輩はにっこり笑ってそう言った。
「どこに帰れって言うんですか」
と、憮然としてそう聞く僕に、
「お前のアパートに決まってるだろ。お前、このままここに泊まる気だったのか?」
と、あきれ顔で先輩がそう返した。
「僕の安アパートじゃ、セルディオさんと二人では寝られないですよ。それに疲れがとれなかったら、明日の朝対逆魔法唱えられないですよ」
ホントは同じ顔の二人であのアパートに戻って誰かに見られたくないだけだけど。僕がそう言うと先輩は、
「んなもん、どっかホテルにでも泊まれ。会場近くに泊まってれば明日も楽だぞ」
と気楽に言う。
「誰がお金を出すんですか」
と僕が言うと先輩は、
「決まってる、お前だ」
と即答する。それに、
「えーっつ、そんな!」
と不満の声を上げる僕に、
「そんなじゃねぇ。元はと言えばお前のせいだろ」
先輩はそう言って僕とセルディオさんをマンションから放り出した。
ホントなら出さなくて良いホテル代、しかも二人分。ラブホなら少しは安くなるだろうけど、男同士、しかも同じ顔のセルディオさんとなんか絶対に行きたくない。ホント、とほほな気分だ。
僕は、手近なホテルをモバイル検索して、予約の電話を入れた。