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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第一部王都編  作者: たーけし
森の異変

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エピローグ

夜明けが森を淡く照らし始めた。

戦いの跡には、まだ焦げた木々から細い煙が立ち上っている。

紫色の巨人は動かない。

その巨体を囲み、ギルドの冒険者たちが解体の準備を始めていた。

巨大な牙。

鋼のように硬い爪。

分厚い皮。

どれも一級品の素材だった。

「こんなの見たことがねぇ……。」

年長の冒険者が感嘆の声を漏らす。

ギルドマスターも腕を組み、巨体を見上げた。

「王都中を探しても、これを加工できる鍛冶屋はそうはいねぇだろうな。」

その横で、シフォンが鼻をふんふんと鳴らした。

耳がぴくりと動く。

「……ご主人様。」

ターケシが振り向く。

「まだ匂いがあります。」

その一言で、その場の空気が引き締まった。

生き残りか。

誰もが武器へ手を掛ける。

シフォンは地面へしゃがみ込み、鼻をふんふんと鳴らしながらゆっくり歩き始めた。

焦げた土。

折れた木々。

巨大な足跡。

ところどころ地面が深く抉られている。

「こっちです。」

森の奥へ進む。

やがて木々が途切れ、大岩の陰にぽっかりと口を開けた洞穴が現れた。

入口の岩肌には、巨大な爪痕が幾筋も刻まれている。

誰もが無言で顔を見合わせた。

ターケシは盾を構え、先頭へ立つ。

「慎重に行くぞ。」

洞穴の中はひんやりとしていた。

奥へ進むにつれ、獣臭さが濃くなる。

やがて広い空間へ出た。

床には鹿や熊の骨が山のように積み重なっている。

その奥。

見覚えのある大きな体が横たわっていた。

最初に倒したオーガだった。

胸には主人公たちとの戦いで負った傷が、そのまま残っている。

その亡骸には熊の毛皮が静かに掛けられていた。

まるで寒さをしのがせるように。

あるいは――。

仲間の死を悼むように。

誰も口を開かなかった。

洞穴に流れる静寂だけが、その光景を包んでいた。

ターケシは小さく息を吐く。

「……そうか。」

魔物にも、仲間を思う心はあったのかもしれない。

その事実が、胸に小さな痛みを残した。

フィリアが周囲を調べ始める。

岩壁。

床。

奥へ続く裂け目。

そして、砦跡で見たものによく似た紫色の結晶が、岩の隙間からいくつも顔をのぞかせていた。

「自然の鉱石ではありません。何者かが魔力をまとわせています。」

フィリアは結晶へそっと触れる。

淡い紫色の光が脈打ち、すぐに消えた。

「普通のオーガは、このような光をまといません。」

「砦跡の魔法陣も同じです。」

「何者かが意図的に魔力を与えたのでしょう。」

ターケシは黙って頷く。

巨大オーガ。

紫色の光。

砦跡の魔法陣。

すべてが一本の線でつながっている。

だが、その線の先にいる者だけは見えない。

「まだ終わっていない、か。」

その呟きに答えるように、洞穴の奥から小さな唸り声が聞こえた。

「……!」

シフォンが耳を立てる。

岩陰を覗き込む。

そこには、人間の子どもほどの大きさのオーガが小さく体を丸めていた。

まだ角は短く、牙も生えそろっていない。

怯えた瞳でこちらを見つめ、小さく震えている。

シフォンはゆっくり近づき、その前へしゃがみ込んだ。

子オーガは逃げなかった。

ただ、震えながらシフォンを見上げている。

シフォンは静かにその小さな体を抱き上げた。

「シフォン!?」

ロザリアが思わず声を上げる。

フィリアも驚いて目を見開いた。

ターケシは何も言わず、その様子を見つめる。

しばらく沈黙が流れた。

やがてシフォンは、子オーガを抱き締めたまま、小さく微笑む。

「この子は、昔の私です。」

灰色の耳が、寂しそうに伏せられる。

「お父さんも、お母さんも、おうちも失って……。」

「泣いている、昔の私です。」

誰も言葉を返せなかった。

長い沈黙のあと、ターケシは大きく息を吐く。

「……めちゃくちゃ飯食いそうだな、そいつ。」

「そこですか!?」

ロザリアの驚きの声が、洞穴いっぱいにこだました。

張りつめていた空気が、少しだけ和らぐ。

ターケシは苦笑しながら子オーガを見つめた。

「さて。」

「帰ったら、もっと飯代を稼がなきゃな。」

洞穴の外では、朝日が森を黄金色に染め始めていた。

異変は去った。

だが、その異変を生み出した者は、まだどこかで息を潜めている。

四人はその事実を胸に刻みながら、静かに洞穴をあとにした。

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