プロローグ
「_____登録番号、No.417。前へ」
名前ではなく番号で呼ばれることに、もう違和感はなかった。
ここではそれが普通で、正しくて、そして唯一の呼び方だ。
白い部屋の中央に立つ。
床には薄く刻まれた魔法陣。
壁際には記録官と監視役が二名。
感情のない視線が、ただ事務的にこちらをなぞる。
「本日付で、Dランク転生者No.417を処分係として再配置する」
淡々と告げられる宣告。
拒否権がないことも、確認をとられないことも知っている。
処分係。
それは、この世界で名前をもらえなかった転生者が生き延びるために用意された、唯一の役割だった。
転生者が増えすぎたこの世界では、名前は祝福ではない。
管理資源だ。
価値のある者にだけ与えられ、そうでない者は番号で十分だと判断される。
名前のない転生者は、人として数えられない。
契約できず、保護もされず、死んでも記録に残らない。
だから処分する側に回る。
同じ「名前なし」を、規定に従って消す。
「業務内容はすでに理解しているな」
「はい」
短く答える。感情は不要だ。
感情を見せると、再評価対象になる。
再評価の結果が良くなることは、ない。
最初の処分対象は登録番号No.582。
昨日、規約違反を起こした。
_____理由:名前の要求。
その文字列を見た瞬間、胸の奥がわずかに軋んだ気がした。
気のせいだと判断し、記録端末を閉じる。
名前を欲しがるのは危険思想だ。
ここでは常識だし、正しい。
それでも時々思う。
もし自分に名前があったら、何かが違ったのだろうか、と。
そんな思想は無意味だ。
No.417には名前がない。
過去にも、未来にも。
「処分は明朝。立ち会いを命じる」
「了解しました」
そう答えた声は、自分のものなのに他人のようだった。
部屋を出る直前、ふと壁に映った自分の姿を見る。
そこにあるのは、名もなき転生者の一つの個体。
_____呼ばれなかった者。
それが、この世界での自分の役割だった。




