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悪女から聖女に育て直します!  作者: 久世千景


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第6話 香油店にて

ユリシスは約束通りクリスティナを例の香油店まで連れてきていた。


店は広いが繁盛しており、価格もそこまで安くないのに沢山の人が入店していた。


女性の方が多いが、男性用にも広く門徒をひろげているので自分用に買い求める男性客も多かった。


ユリシスとクリスティナは2階の貴賓室へ案内された。


個室ではなく広々とした応接室で、商談用に間隔を空けていくつも机と椅子が配置されている。


机も椅子も意匠の凝ったものが採用されており、色調は椅子が深いボルドーカラーで机はマホガニー材を使用しており重厚感を感じられる。


貴族や王室相手に商売するためにこの部屋は存在していた。


既に何組か貴族と思われる人達が接客を受けていた。


ユリシスとクリスティナは眺めの良い窓際の席へ案内された。


腰掛けて待っていると、ユリシスと顔なじみで壮年の紳士然とした店員が現れた。


髪は後れ毛の一本も許さないというばかりにかっちりとオールバックに纏められ、服装もこの店の制服だが小物や色使いに端から端まで気を配っていることが見受けられる。


ユリシスは香料選びのセンスだけでなく、そうしたところからも、この着こなしの洗練とされている男を信頼していた。


「ようこそおいでくださいました。お声がけいただければ宮殿まで参りましたのに」


「たまにはここに来たいと思ってね。それに、今日はこの子の香油を選びたかったから。この子はクリスティナ。うちで預かってるバウスフィールドの王女だ」


ユリシスはクリスティナを見る。


壮年の店員、チャールズは心得たように頷く。


「ようこそおいでくださいました。チャールズとお呼びください。クリスティナ様に合うとびきりの香油を選ばせていただきます」


「よろしくお願いします!」


恭しく頭を下げるチャールズに、クリスティナは元気いっぱいに返事をした。


チャールズは微笑むといくつか瓶を並べる。


色とりどりで、香水瓶のような趣向を凝らしたガラス瓶はクリスティナの目を引いた。


「クリスティナ様はどのような香りがお好みですか?もしくは香りをどのような場面で、どのような気持ちで楽しみたいですか?」


クリスティナは首を捻るが「あっ!」と声をあげると頬に両手を添えて頬を染める。


そしてこそこそとチャールズに耳打ちする。


チャールズはにっこりと微笑んだ。


「心得ました」


「なんなの」


「ユリシスは入ってこないで」


「はあ?」


クリスティナとチャールズは楽しそうに香油を選び始める。


ユリシスは除け者にされたようで何となく気分が悪かったが、窓の外を眺めていると見覚えのある紋章の馬車が止まった。


そして中から出てきた人物に目を丸くする。


その人物は2階へ通されると、ユリシスをみとめて同じく目を丸くすると微笑み、淑女の礼をとった。


「これはこれは、お久しぶりでございますユリシス殿下」


「グレイス様も。今日はどうしてこちらへ?」


腰まであるたっぷりした長く艶のあるウェーブのかかった黒髪。


背が高く手足が長く、小顔なスラリとした体型。


切れ長の瞳に高い鼻、薄く整った唇、陶器のように白い肌。


ドレスは公爵令嬢にしてはシンプルで飾り気が少ない。


令嬢たちに麗人と人気なグレイス・ケイフォード公爵令嬢その人だった。


「友人たちに最近はここが流行ってると聞きましてね。殿下は……ああ」


グレイスはクリスティナを見ると心得たとばかりに微笑んだ。


「ご挨拶させていただいても?」


「もちろん。クリスティナおいで、紹介する。こちらグレイス・ケイフォード公爵令嬢だ」


「初めまして。以後お見知り置きを」


グレイスが淑女の礼ではなく、手を胸に当て軽く腰を曲げる騎士の礼をするとクリスティナはぽっと顔を赤らめさせた。


「そしてこっちはクリスティナ・バウスフィールド。うちで預かってる私の妹のような子だ」


「私、妹じゃないもの!」


「わかったから……」


ユリシスが促すとおずおずと淑女の礼をとった。


「初めまして。クリスティナとお呼びくださいませ」


「私のこともグレイスと」


「お嬢様、そろそろ……」


グレイスの侍女が言うと、グレイスも頷いた。


「お会いできて嬉しいのですが時間が押しているようです。またの機会にしっかりお話させていただきますわ」


「それは残念です。それなら一度お茶でもしませんか?王宮で兄上も交えて」


グレイスとユリシスの瞳が交差する。


グレイスはふっと微笑むと頷いた。


「いいでしょう。ご招待お待ちしております」


そして一礼するとグレイスはドレスを翻し案内された席へ移動した。



「変わらず、賢い方だな」


「なにか言った?」


「いーや、なんにも」


彼女ならこの誘いがどういうものか理解したはずだ。


ユリシスがほくそ笑んでいるとクリスティナがムッとした顔でこちらを見ていた。


「お茶会なら、私も行きたい!」


「は?何言ってるんだ」


「私も行くわ!!」


「ダメに決まって……」


クリスティナは目に涙をいっぱい浮かべている。


ユリシスは頭を搔くと深くため息をついた。


「わかったよ……」


「ほんとう?」


クリスティナは目を輝かせる。


「その代わり、大人しくしてるんだぞ」


「うん!わかった」


クリスティナは満足すると香油選びに戻った。


そして納得のいく商品をいくつか購入し帰路に着く。


帰りの馬車の中でユリシスは施策にふけ、指で馬車の縁を叩いた。


(今日は良い日だった。グレイス嬢を上手く王宮に誘えたし、クリスティナが茶会に来ることだけは誤算だったが、クリスティナがいれば重い雰囲気にもならないだろう)


そしてまたふふふと笑う。


「ユリシスまた悪い顔してる。なに考えてるの?」


「別になにもないさ」


「またそうやって私に何も教えてくれない」


クリスティナは口を尖らせる。


「お前だってさっき私に内緒で商品を選んでたじゃないか」


「あれは!仕方ないじゃないの……」


クリスティナはぎゅっと先程買った香油の包みを抱きしめた。


(好きな人と、甘い雰囲気になった気分になりたいだなんて、言えるわけないじゃない)


クリスティナは顔を真っ赤に染める。


「顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないか」


「夕焼けのせいよ」


「そうかあ?」


ユリシスが窓を見ると太陽が山に沈みかけ、赤赤と空と大地を照らしていた。


「グレイス嬢は公爵令嬢だからな、粗相のないようにマナーのおさらいしておけよ。ドレスも選ばないとな」


クリスティナは笑顔で頷いた。

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