精霊ウンディーネと、本の能力と、
リーフェンを立つ前の夜、
三人から食事に招待された。
三人は口々に
「今日は俺たちの奢り」
「ちゃんと稼ぎ方、覚えたよ」
「……ありがとう、兄ちゃん」
と、語った。
安食堂だけど、温かい夕食だった。
パンとスープ、それに少しの肉。
それだけで、胸の奥がじんわりと満たされる。
「美味しいね、ありがとう♪」
エリエがそう言うと、三人は少し照れくさそうに笑った。
エリエも満たされ癒される。
(コレがぼくの目的だったのかナ?)
エリエと三人の夜は更けていった。
三人と別れて、数日が過ぎた。
街道を歩きながら、エリエは改めて思う。
――旅が、思った以上に楽だ。
重たい水筒を持ち歩く必要もない。
綺麗な川がなくても、手拭いを濡らして、
身体を拭けば清潔は保てる。
喉が渇けば、清い水を両手に必要な分だけ注いでくれる。
水の下位精霊――
ウンディーネの力。
「助かるなぁ……」
それだけでも十分ありがたいのに、
本のスキルが、もう一つの支えになっていた。
道端の草や木の実。
林の縁に生える葉。
「食べられるもの」と「食べちゃダメなもの」
に分けられるのを、今のエリエは知っている。
野草の味。
下処理の仕方。
エリエは、本を枕にして眠ることで、
その物語の登場人物から、知恵や力、経験を少しだけ借りられる。
気持ちを通わせ共感できた登場人物ほど、安定して力を発揮出来る。
毎回主人公から借りられると言う訳にも行かないが、
エリエの能力は、そういう性質だった。
『名も無き農民の40年』
この本の住人は殆どが農民さんなので助かっている。
「エルフの森の外でも……コレでちゃんと、生きていけそうだナ♪」
ニナンベル到着前夜、焚き火の横で天幕を貼った、
野営の準備だ。
エリエは荷物から本が二冊取り出した。
『名も無き農民の40年』 そして――
『剣を抜かなかった勇者が、国境を越えた理由』
「……そろそろ、切り替え時かな」
街道はもう終わる。
次に足を踏み入れるのは、人と人が密集する場所だ。
『剣を抜かなかった勇者が、国境を超えた理由』は、
とにかく武力以外で立ち向かう勇者の話しだ。
魔王と戦争中なので警戒度をあげるには丁度良い。
魔王の力が借りられれば理屈では無双も夢じゃない。
まだ魔王と共感出来てないけど♪
「今夜の枕は……君だね」
まだ二冊しか持っていない。
だけど、その恵みは十分すぎるほどだった。
(魔王と共感とか難易度高いって……)
そう不服に思いながら、 エリエは静かに眠りについた。




