行ってらっしゃいと、街道宿と、
エリエ・ファンデルは、森の外れで一度だけ振り返った。
見慣れた緑の天蓋。
幾重にも重なった木々の枝と葉の向こうに、
エルフの森の静けさが広がっている。
ここで生まれ、ここで育ち、
そして――今日、初めて外へ出る。
「行ってきます」
そう言って軽く手を振ると、
背後から穏やかな声が返ってきた。
「行ってらっしゃい、エリエ」
森の奥、少し開けた場所で女王は微笑んでいた。
エルフの森において彼女は紛れもなく「皆の母」であり、国の象徴だった。
「森の外へ行くのはまだ早いんですよ?掟によるとですけど……」
エリエは少し考え、言葉を選びながら続けた。
「僕の能力のために。本……物語が、もっと欲しいンです」
エリエの能力は、制約は有るけど、
物語の登場人物から力や知識や経験を借りる事が出来る能力。
転生特典ってヤツだ。
誰かの人生を、ほんの少し借りるような ――そんな力だった。
女王は一瞬だけ目を閉じ、それから小さくうなずいた。
「ええ。あなたらしい理由です」
立ち上がり、エリエの前まで歩み寄ると、そっと抱き寄せる。
「失敗しなさい。
遠回りしなさい。
恥を書きなさい。
立ち止まってもいいのですよ?
必ずあなたの糧になります」
「……はい」
「コレは貴方がやった改革や発明の正当な対価です」
女王は金貨の入った重めの袋と各ギルドへの委任状を渡した。
「当面の生活費と身元保証書だと思って下さい」
改革と発明……
能力×現代知識チートの賜物だと思っている。
が、未成年が森を出る掟を破るのは間違いなく女王の温情采配である。
感謝するのはコッチなのに、
女王は若干涙を浮かべて最後に抱きしめてくれた。
森を抜けて数日。
エリエは主要街道沿いの街道宿に辿り着いた。
リーフェン街道宿……
エルフの王国アライネルトと王都ニナンベルの中継地点だ。
行商人、旅人、護衛、職人。
人の流れは絶えないが、どこか落ち着いた空気の町だ。
エリエは突然、見知らぬ三人組に声をかけられた。
「パン、余ってないかい?」
「少しでいいんだ」
「……腹、減っててさ」
年の近い子供たちだった。 身なりは粗末で、靴も擦り切れている。
物乞いではあるが、しっかりした顔付きだ。
周囲をよく見ていて、旅人の動線も把握している様子だった。
「この町、詳しい?」
三人は顔を見合わせ、うなずいた。
「そりゃまあ」
「宿も店も、近道も」
「危ない所もな」
エリエは少し考え、それから言った。
「じゃあさ。今日泊まる宿を探してるンだ♪
案内してよ?お駄賃、はずむよ?」
「……は?」
「お金の稼ぎ方ダヨ♪ 周辺を案内して駄賃をもらうんだ。
街道宿なら、客には困らないでしょ?」
三人は最初、ぽかんとした顔をしていた。
だが次第に、言葉の意味が染み込んでいく。
「……案内?」
「金、もらえるのか?」
「そりゃそう。ちゃんと仕事すればね」
エリエは笑って続けた。
「やり方は教えるよ。 この町、悪くないスタート地点だと思うンだ」
三人はしばらく沈黙し、やがて一人が口を開いた。
「……やってみるか」
「失うもん、ねぇし」
「腹減るよりマシだ」
エリエは内心で、少しだけ安堵した。
こうしてエリエは、街道宿で小さな関わりを持った。
エリエは、三人が落ち着くまでの数日は滞在しようと、 ぼんやり考えながら床に着いた。
コレがこの旅最初の人間関係?友達?
せっかく恵まれた条件で転生したんだ、
自分にも出来ることはないか探してみるのもいい……
目指すは王都ニナンベル、王立図書館。
ニナンベルには何が待ってるのかなぁ……と 眠りについた
共同制作 チャトランさん
安息処興隆史は「あんそくどころこうりゅうし」とお読み下さい(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”




