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脳筋侯爵令嬢 〜旦那様のお荷物にはなりませんわ!〜

いらっしゃいませぇヽ(=´▽`=)ノ

お越し頂きまして、誠にありがとうございます!


初めて恋愛物に手を出してみました。

なので、短編です。

「まるで奇跡のような話ですね。()()、シャルル嬢ですよ?深窓の令嬢が、なんでまたこんなゴーレムみたいな男と…」

「おい貴様、主に向かってものすごく失礼なことを言っている自覚はあるか」

「嫌だなぁ御主人様。失礼なことじゃなくて事実じゃないですか」

「減給されたいか」

「すみません。二度と言いません」


ここはリドリア伯爵邸執務室。

軽口を叩くのは、この屋敷の家令で主の幼馴染でもある

ケリー・バスター。

そしてこの屋敷の主こそ「ゴーレムみたいな男」こと

ヴィクトル・リドリア伯爵。

この国の騎馬隊を総括する大将であり

国王が信頼を寄せている男の1人だ。


ちなみにゴーレムは、子ども向けの冒険譚に出てくる

岩のような架空の化物である。

そんな男に、たった今縁談が舞い込んだのだ。


相手はキンブリー侯爵家の令嬢、シャルル・キンブリー。

超名門の家柄で、宰相という役職を多く輩出している

非常に優秀な一族だ。


その優秀一族の当主であり

現宰相のバリア・キンブリーが、なぜか突然

娘の釣書を持って直々に訪ねてきたのだ。


訪問の一報を受けた時は、仕事の話だと思っていた。

城ですればいいのに。と思っていたが、蓋を開けてみれば

縁談を持ってきたという話だった。


それだけでも驚いたのに、一体どこの誰と!?

と尋ねれば「ウチの娘」と言うではないか。


「いやしかし、さすがに目玉が飛び出るかと思ったぞ」

「まさかの提案でしたもんねぇ…で、どうするんです?」

「どうするも何も…俺は所詮戦いの功績だけで爵位を手に入れたにわか貴族。対して相手は由緒正しい侯爵家だ。断れるわけが…」

「本当にそれだけの理由ですか?」

「…正直に言えば、シャルル嬢のことは…気になってはいた」


「ゴーレムみたいな男」であるヴィクトルに対し

周囲の令嬢たちの反応は、冷ややかなものだった。

目が合えば眉をひそめられ

酷い者は近付くことすら避けようとする。


しかしシャルルは違った。

話したことこそなかったが、夜会では時々見かけた。

その度に、彼女はヴィクトルと目を合わせ

微笑みを見せて、目礼を交わしてくれるのだ。


「最初は、単なる気まぐれ、あるいは宰相の娘として、最低限の礼儀を守ってくれているものと思っていたが…まさか、あのように思われていたとは…」

「本当、世の中何があるか分からないもんですねぇ」


バリアが言うには、シャルル本人が

「結婚するなら、ヴィクトル様じゃなきゃイヤ!」

と駄々をこねたというのだ。

今まで我が儘など一度も言ったことがなかっただけに

心底驚いたという話だった。


バリアとしても、どこの馬の骨とも分からぬ男に

愛娘を嫁がせるよりも、自身も良く知っていて

国王からの覚えもめでたいヴィクトルになら

安心して任せられる。と思ったのだと。


釣書を直接持ってきたのも

「必ず見て頂かなければならないから」

という、シャルルの希望だったらしい。


「では、早急にお返事をしなければなりませんね」

「そうだな。想像もしなかった展開だが、これから忙しくなりそうだな」


それから数日後、キンブリー邸にヴィクトルからの

返答が届けられた。


「シャルル!シャルルはいる?」

「まぁお母様、そんなに大きな声を出されて、何事ですの?」

「あぁシャルル、ご覧なさい!リドリア伯爵からお手紙が届いているわ。きっとお返事よ」

「ヴィクトル様から!?…あぁ、どうしましょう。もし受け入れて頂けなかったら…」

「だ、大丈夫だと思うわよ?」

「いいえお母様。ヴィクトル様のような素敵な方を、世の女性達が放っておくわけがありませんわ。もう既に意中のお相手がいらっしゃるかもしれませんし…そうなったら、(わたくし)はもう修道院に…」

「シャルル!一旦落ち着いて。まずはお返事の内容を見てみましょう」

「そ、そうですわね」


取り乱す娘を宥めつつ、我が子の殿方を見る目は

どうなっているのかと心配になりながら

手紙の封を切るのは、シャルルの母

キンブリー侯爵夫人こと、レイラ・キンブリーだ。


娘の縁談を決めるにあたり

本人の希望を優先させてあげたいと

夫と共に話を聞いたのが先週のこと。

話を振るやいなや、待ってましたとばかりに

ヴィクトル・リドリア伯爵が、いかに素晴らしく

いかに優秀な殿方かというのを語り出したのだ。


その勢いに少々引きはしたものの

娘の気持ちは十二分に理解できたし

仕事を通じて伯爵のことをよく知る夫からも

信用できる殿方だという、お墨付きを得たことで

レイラも納得したのだった。


「ど、どう?シャルル、リドリア伯爵はなんと?」

「…お、お母様、やった!やりましたわ!(わたくし)との縁談を受けて下さるそうです!それから、近々私に会い来て下さると…あぁ、どうしましょう!キチンとおもてなしをしなきゃ。ドレスは何がいいかしら」

「シャルル!落ち着いて、まだ時間はあるわ。まずは、お父様が戻られたら報告を!」


そこからキンブリー邸は早くもお祝いムードに包まれた。

仕事から帰ったバリアも、娘のはしゃぎっぷりに

レイラ共々「ウチの娘、こんなんだったっけ」

と戸惑いを隠せなかったが、本人が幸せそうなので

まぁ、いいか。と見守ることにした。


「いやぁ、参ったよ。このままどこかへ飛んで行ってしまうんじゃないかと思うほど、それはそれは浮かれていてね。君の来訪を心待ちにしていたよ」


翌日、城でヴィクトルと顔を合わせたバリアは

昨夜のシャルルの様子を報告していた。


「それは、また…なんというか、正直未だに信じられません。シャルル嬢のような深窓のご令嬢が、なぜ私のような者を…?」

「うーん、親の私にもよく分からないんだがね、少なくとも、あの子は世間で言われていたり、貴公が思っていたりするような子ではないと思うよ?」

「と、言いますと?」

「まぁ、なんというか、小さい頃からお転婆でね。決して頭は悪くないのだが…刺繍なんかは、酷いものだよ」


苦笑いをしながら娘の欠点を暴露してはいるが

その表情からは、愛娘への確かな愛情が

ひしひしと伝わってきた。


「…必ず、幸せにするとお約束致します」

「あぁ、君なら大丈夫だと信じている。娘を、どうかよろしく頼むよ。次回の夜会で、婚約を発表できるよう、陛下に頼んでおくから」

「はい。ご配慮頂き、ありがとうございます。今週末にでも、貴邸へ伺えればと思っております」

「そうだね。娘にも伝えておこう。待っているよ」


そして、ついにやってきた週末。

シャルルは朝から気合を入れ、準備を始めた。

使用人達も、皆お嬢様の大切な客様をお迎えするにあたり

ミスは許されないとばかりに

ピリピリした雰囲気が漂っていた。


使用人達は、裏表なく、誰にでも気さくに接してくれる

シャルルのことが大好きだった。

それが故に「お嬢様を幸せにしなければ許さない」

という、ヴィクトルに対する牽制の意が

ピリピリ感に繋がっていたのだろう。


自身もバッチリめかし込み、準備を整えたシャルルが

もてなしの準備が整った玄関ホールや応接室を見て

感嘆の声を漏らした。


「まぁ素敵!皆ありがとう!本当によくやってくれたわ。きっとヴィクトル様も喜んで下さるはずよ!」


シャルルの言葉と笑顔で、あんなにピリピリしていた空気が

一瞬にして霧散した。

皆、シャルルの喜びようをみて、自分達の仕事に

誇らしさを感じていた。


「はっはっは、やはりシャルルは我が家の天使だな」

「お父様!お母様!」

「もうそろそろ、リドリア伯爵が到着されるはずよ。お出迎えしましょう」

「はい!」


そして、待ちわびたヴィクトルの到着。

馬車から降りた彼は、傍目から見て分かるほど

ガチガチに緊張していた。


ふと見れば、最前で待ち構えているシャルルも

同じくらい緊張しているのが見て取れた。

夫妻は思わず吹き出しそうになるのを、必死で堪えた。


『初々しいねぇ』

『私達も昔はこうだったじゃない』

『あぁ、そうだった。懐かしいね』


そんな会話を目でしながら、若い2人を見守った。


「よ、よう⤴こそお越し下さいました。キンブリー侯爵家の、シャルル・キンブリーと申します。リドリア伯爵閣下におか⤴れましては、ご機嫌麗しゅう」


声裏返ったー!!


「ほ、本日は、お日柄もよく、訪問を許きゃ…きょ、許可して頂き、誠にありぎゃ…ありがとうございます」


噛みまくってるー!!


「「ぷっ…ふっ…あっはははははははは!!」」


娘の後ろに控えていた夫妻が、たまらずに吹き出した。


「ちょ…何だね君達、その挨拶は!はははははは!」

「お、お互い、もう少し、楽になさいな。ふふふふ。今からそれでは、身が持ちませんよ!ふふふ」

「お、お父様、お母様まで…」

「くっ…面目ない」

「いえ!伯爵様は何も悪くありませんわ!(わたくし)がもっとしっかり…」

「いや、こういう場面では男がリードをするもので…」

「ほらほら、いつまで立ち話を続ける気です?」

「シャルル、伯爵をご案内するんだろう?」

「そ、そうでしたわ。失礼致しました」

「い、いえ、こちらこそ」


夫妻の爆笑で緊張の糸が切れたようで

互いに笑みを交わすと、屋敷の中へと入ったのだった。


「素敵な装飾ですね。調度品も素晴らしい」

「私の大切なお客様をお迎えするからと、使用人達が張り切ってくれましたの」


事前にバリアから、食事を一緒にと提案があったので

一同そのままダイニングへ移動した。

食事は和やかに進み、話はいつしかシャルルの幼少期へ。


幼い頃から活発で、裏表がなく、歯に衣着せぬ物言いを

するものだから、他の令嬢達からは疎まれ

令息達からも距離を置かれ、引き籠もっていた時期が

あったのだという話だった。


「その頃から、あまりパーティーや夜会には出席しなくなりましたの。王室主催のものは、致し方なく顔を出しておりましたが…」

「そうだったのですか…」

「世間じゃ、シャルルのことは深窓の令嬢なんて呼ばれているがね、なりたくてそうなったわけじゃないんだよ」

「それでも前を向けたのは、()()()のおかげじゃなくて?」

「そう!そうなんですの!」

「あの子…?」

「あぁ、そうだな。シャルル、後で案内して差し上げなさい」

「はい!」


一瞬、空気が重くなりかけたが

レイラの機転で回避できた。

食事も終了し場所を応接室に移すと、婚約、結婚に向けて

早速具体的な話を詰め始めた。


婚約発表、結納、式の日取りや場所、招待客の選別

及び、招待状の手配等…

やらなければならないことは、これでもかというほどある。


しかし、これから夫婦になる2人にとっては

何一つ苦ではなかった。

そして、大体のことが決まったところで

一息入れることになり、用意されたお茶を飲みつつ

侯爵夫妻が提案をした。


「そうだわ、シャルル、せっかくだから閣下にお庭を案内して差し上げたら?」

「それがいい。こうも座りっぱなしでは、体も固まってしまうからな」

「そうですわね。(わたくし)ったら、つい夢中になってしまいましたわ。伯爵様、いかがですか?」

「えぇ、是非。お願いします」


2人は庭に出ると、シャルルの案内で歩き出した。


「庭園も素晴らしいですね。決して花に造詣が深いわけではありませんが、どの花も、大切にされているのが分かります」

「ありがとうございます。…このお庭は、母の自慢なんですの。どこに何を植えるか、肥料は何がいいか、全部母が管理しているんですよ。…なぜ、私にはお母様の才能が受け継がれなかったのかしら」

「そんなものがなくとも、シャルル嬢は十分魅力的ですよ」


最後にポツリと呟いた独り言だったはずの言葉が

ヴィクトルによって掬い上げられた。


「伯爵様…ありがとうございます」

「ん”ん”っ…それはそうと、私達は婚約したのですよね?」

「え?は、はい。そうですわね」

「それならば、これからはどうか名前でお呼び下さい」

「!はい!で、でしたら、ヴィクトル様も、(わたくし)のことは、どうかシャルルと…それから、もっと気楽にお話して頂けたら嬉しいですわ」

「あぁ、分かった。そうしよう。ところで、()()()とやらにはいつ会えるのかな?」

「そうでしたわ!こちらへどうぞ!」


一気に距離が縮まった2人が、次に訪れたのは(うまや)だった。


「おぉ!手入れの行き届いた良い馬達だ!」

「ここにいる子達は、大体馬車を引くのが主なお仕事なのですけど、この子だけは私の特別なんですの。紹介致します。私の相棒、メリーアンですわ!」


紹介された美しい白馬は、ブルルルと鼻を鳴らすと

シャルルに顔を擦り付けた。

シャルルも嬉しそうに目を細め、メリーアンの首元を

優しく撫でていた。


「なるほど、そういうことか。シャルルを元気にしてくれたのは、この子だったのだな。ならば、俺も礼を言わなくてはな。お前がシャルルを救ってくれたおかげで、今こうしてシャルルの笑顔を見られるのだからな」

「まぁ、ヴィクトル様…確かに、メリーアンのおかげではあるのですが、ヴィクトル様のおかげでもありますのよ?」

「俺の?」

「えぇ。実は(わたくし)、今でもパーティーや夜会には、あまり出席しませんの。理由は先程、父が申していた通りなのですが…何より嫌なのは、あの会話ですわ」

「会話?」

「そうです。両親や使用人達のような、気心の知れた方とのお喋りはとっても楽しいのですが、夜会などで繰り広げられるものって、どうしてあんなに回りくどくて、嫌味ったらしいのでしょう?その中にいるのが耐えられなくて、ある日の夜会で早々に抜け出したことがありましたの」


     *     *     *


とある日の王室主催の夜会でのこと。

貴族達の嫌味の応酬に辟易したシャルルは

会場を抜け出し、1人庭園で時間を潰していた。

適当にウロウロしていると、声を掛けられた。


「どうかなさいましたか?」

「っ!!…あぁ、騎士様でしたか。驚きましたわ」

「これは失礼致しました。何かありましたか?会場には戻られないので?」

「えぇ…もう、嫌になってしまいましたの」

「何か、お辛いことでも?」

「会場にいること自体が苦痛なんですの。あの分かりづらいお喋りを聞いていると、息苦しくて仕方ありませんの」

「あぁ、なるほど。良く分かります。私もそうですから」

「まぁ、騎士様も?」

「えぇ。仕事上、警備として会場にいなくてはならないことも多いのですが、あのよく分からない言葉の応酬は、聞くに耐えませんね。野蛮なようですが、私には言葉で相手を牽制するよりも、剣を振るって撃退する方が、性に合っているようです」

「フフフ…騎士様はそれが本分ですもの。頼もしいですわ。それに、嬉しいです。まさか、(わたくし)の気持ちを理解して下さる方がいらっしゃるとは思いませんでいたわ」

「はは…まぁ、お互い褒められたものではないのでしょうが…この後はいかがなさいますか?会場にお戻りになりますか?それとも、もう少しこちらにいらっしゃいますか?」

「会場に戻りますわ。これ以上、お仕事のお邪魔をするわけにはいきませんもの」

「では、お送り致します」

「えぇ、ありがとうございます」


そうして会場に戻ったシャルルは、去り際の彼の後ろ姿

そのマントに施された刺繍を見て、彼が騎馬隊大将

ヴィクトル・リドリア伯爵であることを知ったのだった。


     *     *     *


「あれからですわ。それまで義務的に出席していた王室主催の夜会も、会場にヴィクトル様がいらっしゃるかもしれないと思うと、出席するのも楽しみになりましたの」

「まさか、あの時の令嬢がシャルルだったのか」


話たこと、あったじゃないか。

ヴィクトルは密かに冷や汗を流した。

あの時のことはもちろん記憶にある。

だが、暗くて相手の顔もよく見えていなかったし

何より、夜会が始まって間もなくの時だったために

まさか庭園に来ている者がいるとは思わず

思いっきり不審者扱いをしていたのだ。


本当のことは口が裂けても言えないが

あの時怪しんで声を掛けた結果

結婚にまで漕ぎ着けたことを考えれば

あの時の自分を褒めてやりたいとさえ思えた。

だが、ヴィクトルには1つだけ懸念があった。


「シャルルと縁が持てたことは、俺に人生の中で最大の幸運だと思っている」

「フフッ、私もですわ」

「だが、同時に不安でもある」

「え?」

「仕事柄、そして立場上、国内外を問わず、俺には敵が多い。俺が一緒にいる時は、何を差し置いても必ず守るが、常に一緒にいられるわけでもない。怖がらせるつもりはないんだ。そんな滅多なことはそうそうないだろうし。ただ、用心するに越したことはない。警備ももちろん強化するが、シャルルの意識の持ち方も大事なんだ。分かってくれるかい?」

「!!はい!もちろんですわ」


そこでシャルルは気付いた。

このままでは、自分がヴィクトルの弱点になってしまう

ということに。

万が一、自分が人質に取られるようなことがあれば

自分を大切にしてくれるヴィクトルならば

己の命すら厭わないだろう。

そんなことだけはあってはならない。

辛い状態から自分を掬い上げてくれたヴィクトルに

恩を仇で返すようなことはしたくない。

そこでシャルルは決心した。


「ヴィクトル様、1つ、お願いがございますの」

「ん?何だい?」

「どうか、(わたくし)を徹底的に鍛え上げて下さいませ!」

「……ん?」

「今のままお嫁に行ったら、きっとヴィクトル様の足を引っ張ることになりますわ。私、ヴィクトル様のお荷物にだけはなりたくありませんの」

「いや、シャルル?」

「ですから!どうか、私を鍛え上げて下さいませ!自分の身を自分で守れる程度には強くあらねば、堂々と胸を張ってヴィクトル様の隣に立つことさえできませんわ!」

「う、うーん…」


さて、どうしたものか。

ヴィクトルは頭を抱えた。シャルルは目が本気(マジ)だ。


自分の妻になる以上、危ない目にあうという可能性は

どうしても否定できない。

シャルルが自己防衛できるなら、確かにそれが一番

効率的ではあるし、その意識も必要だ。


それに何より、自分の妻として隣に立ち並ぶ未来を

ちゃんと考えてくれていることが嬉しいし

重荷になりたくないという、健気な婚約者が愛おしい。

彼女の気持ちは尊重したい。


だが…できるのか?

活発な性格だとは聞いているし、実際今もこうやって

愛馬を紹介されたのだ。

ということは、乗馬には慣れているのだろう。

徐々になら…できるだろうか?


「よし、分かった。では、メリーアンも連れて、俺の屋敷に来るといい。体力作りに乗馬は効果的だからな。乗るなら、慣れいている馬の方がいいだろう」

「本当ですの!?メリーアン、聞いた?一緒に行けるのよ!ヴィクトル様、ありがとうございます!」

「ただし、侯爵の許可が得られたら、だ。婚約者同士とはいえ、未婚の令嬢が男の家に1人で出入りするのはあまり聞こえの良いものではないからな」

「はい!」


その後、応接室に戻り、先程のことをバリアに話せば

拍子抜けするほど、あっさり許可が出た。


バリアとしては、どうせ結婚することは決まっているのだし

外聞よりも、シャルルの安全の方が大事に決まっている。

それが可能になるならば、出入りだろうが同棲だろうが

何でもすればいいと。

レイラも概ね同意見のようだった。

さすが宰相。

一般的な貴族の父親とは、判断基準が異なるようだ。


そうと決まれば、善は急げとばかりに荷造り開始。

侯爵夫妻から同棲の許可まで下りたのだから

そうしてしまおうという話になった。

その方が、トレーニングを監督することができるから。


ヴィクトルは一度伯爵邸に戻り、部屋の準備等が整ったら

再度迎えに来ると言って、帰って行った。

初の婚約者訪問は、お互いにとって何とも慌ただしく

濃厚な1日となったのであった。


そして数日後、伯爵邸から迎えが来た。

シャルルはもちろん乗馬服に身を包み

メリーアンの背に乗っての出発だ。


「ではお母様、行って参ります」

「いってらっしゃい。気をつけてね。リドリア伯爵にくれぐれもよろしくね」

「はい!」


見送りに出てきてくれた母に、しばしの別れの挨拶をし

軽快に進んで行った。


「ようこそおいで下さいました。リドリア家の家令、ケリー・バスターと申します。本来は主がお出迎えするはずなのですが、何卒、ご容赦下さいませ」

「出迎えありがとう、ケリー。大丈夫よ。ヴィクトル様から、お話は伺ってますわ」


受け入れ準備が整ったならば、1日でも早くシャルルを

迎え入れたいという、ヴィクトルの意向の下

最速で伯爵邸にやってきた。

したがって、ヴィクトル本人はまだ仕事から戻っていない。


「ではこちらへどうぞ。ご案内いたします」


異例中の異例ではあるが、ケリーもまたヴィクトルから

シャルルの強化計画を聞かされていたので

まずは、厩へと案内した。

そこでメリーアンを預け、次は練武場へとやってきた。

そこでは何人かが汗を流していた。


「あの者達は、当家の使用人達です。伯爵家に仕える者たちは、ほとんどが退役軍人なんです。伯爵様に憧れて志願したり、伯爵様ご自身がスカウトしてきたりと、経緯は様々ですが、皆、頼りになる者達です。ですので、伯爵邸の警備も彼らの仕事なんですよ」

「そうでしたの…。(わたくし)も皆様に負けないように頑張りますわ!」

「アハハ、そうですね。シャルル様の特訓メニューは、伯爵様がお考えになっているはずですので、ご無理をなさいませんよう、お気を付け下さいね」

「えぇ、ありがとう」

「では本日はこの辺で。お部屋にご案内致します。本格的な特訓は、明日以降になるでしょうから、本日はどうか、ごゆっくりお休みください」


その夜、戻ったヴィクトルと共に夕食を取りながら

これからの話しをした。

特訓はまず体力測定からだとか

武器を使うなら服の中に隠せるものがいいだとか

筋肉がついたら、ドレスのサイズが変わるだろうから

今のうちに作ろうだとか…。

おおよそ貴族の令嬢相手にするような話ではなかったが

ヴィクトルが、いかに自分のことを真剣に考えてくれて

いるのかということを理解し

シャルルは目を輝かせながら

食い入るように話を聞いていた。


そして翌日、早速特訓スタート。

とはいえ、ヴィクトルは仕事のため

ケリーを始めとする使用人達が教官役となり

進行していった。


シャルルが真剣に取り組む姿や

時折見せる無邪気な笑顔に、皆心を掴まれながらも

「決して変な気は起こすなよ」

という、鬼を超えて魔王の形相で主より刺された釘を

思い出し、各々気を引き締める日々。

ヴィクトルが休みの日は、もちろん朝からヴィクトルが

教えてくれていた。


そんな日が続いたある日、ヴィクトルは気付いてしまう。

シャルルの(すじ)が良いことに。

乗馬で鍛えられていた足腰と体幹。

おかげで、武器を振るわせても軸がブレない。

しかも、落馬を想定した訓練をしていたようで

受け身もうまい。

何より、身のこなしにセンスを感じた。


久しぶりに出会えた逸材に、ヴィクトルの指導にも

熱が入っていった。

そしてそれに答えるように、メキメキと力をつけていく

シャルルは、まるで水を得た魚のように

それはそれは生き生きとしていた。


いつの間にか、恒例の王室主催の夜会の日がやってきた。

今回はいよいよ、ヴィクトルとシャルルの

婚約を発表するのだ。

シャルルは夜会の準備をするために、一度実家に戻り

ヴィクトルが、夜、改めて迎えに行き

一緒に入場するという、手筈になっていた。


「まぁ!シャルル、お帰りなさい。元気そうで安心したわ」

「お母様、お父様、只今戻りました!ヴィクトル様も使用人の方々も、とっても良くして下さいますの!」

「おかえり、シャルル。なんだか…少し見ないうちに、ちょっと(たくま)しくなったねぇ」

「そうなんですの!ヴィクトル様との特訓が、思っていたよりずっと楽しくて…それで、体のサイズが変わってしまったのですが、ヴィクトル様がそうなることを見越して、ワンサイズ上のドレスをオーダーして下さいましたのよ」

「あぁ、今朝届いたあのドレスはそういうことだったのね。通りで、少し大きいなとは思ったのよ。すぐに着れるように、トルソーにかけて部屋に飾ってあるわよ」

「ありがとうございます。(わたくし)まだ仕上がりを見ておりませんの。楽しみですわ!」


部屋に入り、そのドレスの美しさに感動し

早速とばかりに侍女達に準備を始めてもらう。

以前より逞しくなったシャルルの体に

皆驚きながらも、テキパキと進めていく。

仕上がりはシャルル本人も含め、皆が満足と納得のいく

素晴らしいものになった。


迎えに来たヴィクトルは、しばし見惚れ、思わず

「女神かと思った」とベタなセリフを吐いてしまった。

シャルルの照れた顔と、見送りに来た侍女達の

渾身のドヤ顔との対比が面白くて

ほどよく肩の力が抜けたのだった。


いざ会場入りし、2人の名前が告げられると

会場がどよめいた。

なぜ、あの2人が一緒に?という疑問と好奇の目が

一斉に注がれた。


いくら噂の広がりが速い社交界といえど

その話自体を知っているものはほんどいなかった。

婚約から同棲までが急展開過ぎたというのもあるが

あの敏腕宰相が、自身の娘の縁談を

社交界の噂の種になるような失態を犯すはずがなかった。


どういうことかとざわめく場内に

ヴィクトルとシャルルを睨み、歯噛みする者達がいた。

バンドール侯爵家の令嬢、アリシア・バンドールと

その婚約者である、マーデット伯爵家の次男

デイビス・マーデットだった。


アリシアは常々、シャルルに対して


「あの女、家格は私と同じなのに、父親が宰相というだけでチヤホヤされて、いい気になれるのも今のうちよ」


と昔から何かにつけて、シャルルを敵対視しては

突っかかってくる、やっかみ令嬢だった。

その婚約者というポジションに収まっているデイビスは

ずっとシャルルに懸想していた。

ただし、シャルルの性格を知っているわけではないし

実際には、喋ったことすらない。

あくまで、外見から自分の理想像を頭の中だけで

作り上げているような、痛い勘違い男だった。


しかし、デイビスがシャルルに想いを寄せている

というのが面白くなかったアリシアは、家格に物を言わせ

デイビスを自分の婚約者にしたのだった。


そして国王夫妻が入場し、ヴィクトルとシャルルが

壇上に呼ばれた。

皆、興味津々で注目していた。


「今夜はめでたい知らせがある。救国の英雄であり、我が盟友でもあるヴィクトル・リドリア伯爵と宰相としてこの国を、そして余を支えてくれているキンブリー侯爵の愛娘、シャルル・キンブリー嬢が、この度婚約する運びとなった。どうか、祝福して欲しい」


国王の発表に、会場は沸きに沸いた。


「まさか、あの深窓の令嬢とゴーレム大将がどうして!?」

「家格はシャルル嬢の方が上なんだから、まさかキンブリー家からの縁談か!?」


会場の大半は、そんな声で埋まっていた。

誰もが驚きの声を上げる中、鬼の形相でこちらを睨み

その後、会場を後にしたアリシアとデイビスを

ヴィクトルは見逃さなかった。

部下を呼び、直ちに追跡させたのだった。


衝撃の婚約発表からしばらく、平和な日々が続いた。

シャルルは伯爵邸への滞在を続け、特訓も継続した。

おかげで、シャルルはますます力をつけ

今では退役軍人である伯爵邸の使用人達と

互角に渡り合えるほどに成長し、周囲を驚かせていた。


そんなある日のこと、ヴィクトルがいつものように

城の執務室にて書類仕事を片付けていると

急報がもたらされた。


「閣下!緊急事態です!只今伯爵邸より連絡があり、シャルル嬢が誘拐されたとのことです!」

「何だと!?」


にわかに慌ただしくなった。

直ちに捜索隊が招集され、すぐさま郊外にある廃屋へ。

少し離れたところに馬を待機させ、そろりと忍び寄ると

小屋の周囲を取り囲んだ。


その一方でシャルルはといえば、その日は久しぶりに

買い物をしようと、侍女と共に街へ出たところ

急に襲われ、拉致されたのだった。

侍女は慌てて伯爵邸に戻り、助けを求めた。


その間に、シャルルは郊外にある廃屋に連れて来られ

黒幕と対峙していた。

頭に被された麻袋を外されると、そこにいたのは

アリシアとデイビスだった。


「こんにちはシャルル嬢、ご機嫌いかがかしら?私は今最高の気分よ!」

「あなた達…こんなことをしてただで済むと思っているの!?何が目的よ!?」

「あっはははははっ!調子に乗るからこんなことになるのよ。今からあんたは疵物になるのよ。既成事実さえ作ればこちらのものよ。私より幸せになろうなんて、絶対許さないわよ!あぁ、そうそう、リドリア伯爵は私がもらっといてあげるわね」

「な、何を!?そんなこと、できるわけ…」

「あんた、この状況でまだそんなこと言ってるの?言っとくけど、助けなんて来ないわよ。ここは秘密の場所だからね、人が来ないのは確認済みなのよ。さぁ、デイビス、念願が叶うのよ。思いっきりやってやんなさい!」

「はぁ、はぁ…シャルル。こんな形になってしまうのは少し残念だけど、これで君を助けてあげられる。あの怪物に脅されてたんだよね?もう大丈夫だよ。これから僕が、ずーーっと大事にして、たーーっくさん愛してあげるからね」


どうやら脳内で、自分に都合のいいストーリーを

作り出しているようで、よく分からないことを言いながら

興奮を抑えきれない様子でにじり寄ってくるデイビスには

さすがに怖気を感じ、鳥肌が止まらなくなった。


幸いなことに、シャルルを拉致した者達は

手を出さないように言われているのか、あるいは

用心棒として周囲を警戒しろとでも言われているのか

少し離れた所にあるテーブルで、こちらを伺っていた。


デイビスが最接近したところでシャルルは行動を開始した。

床に座った状態から、スカートがめくれることも厭わず

デイビスの股間を目掛けて、思いっきり蹴り上げた。


「ぎゃあああああーーーー!!!」


デイビスの断末魔が響き渡ったかと思えば

彼は泡を吹き白目を剥いて倒れた。


「はぁ…気持ち悪くて吐き気がしますわ」

「な!…あ、あんた!何したのよ!?」

「さすがヴィクトル様ですわ。縄抜けの方法を一番初めに教えて下さいましたの」

「は?…あ!拘束がほどけて…何で…」

「それにしても、あの方達は素人ですの?ずいぶんと縛りが甘かったですわよ」

「ちょ、ちょっとあんた達!何してんのよ!早く取り押さえなさい!」

「チッ…なんでだよ!」


控えていた男は2人。シャルルに向かって突進してきた。

シャルルは1つ大きく息を吐くと、スカートのスリットに

手を入れて、ガーターベルトに装着してある鞘から

ナイフを引き抜いた。

そして姿勢を低く落として構えると

突進してきた男達の足元をすり抜け

振り向きざまに男のアキレス腱を切りつけた。


「うわぁっ!…あ”あ”あ”あああー!!」


切られた男は床に転がり、立ち上がれなくなった。

続けて、驚いて立ち止まったもう1人の男の足元にも

駆け寄り、同じように切りつけてやった。


「ぐあっ!…クソッ!なんで…こんなっ」


床でのたうち回る男達を尻目に

シャルルはアリシアに視線を向けた。


「ひっ!…な、何なのよあんた!?」

「それはこちらのセリフですわ。あなた、昔から何なんですの?(わたくし)のことが嫌いなら、関わらなければよろしいでしょう?いい加減、鬱陶しいですわ」

「う、うるさいわね!いっつもあんた達ばっかりチヤホヤされて!私だって同じ侯爵家の娘なのに!なんで、いつもキンブリーだけ!」

「こういう輩と関わっているからではございませんこと?」


シャルルは床に転がっている男達を指さした。


「この者達、人身売買と違法薬物を売っている組織の下っ端でしょう?」

「は!?なんで、あんたがそれを…」

「今回この廃屋(ここ)を使ったということは、当然あなたも侯爵のやっていたことを知っていたということ。それならもう、時間の問題ですわね。もうすぐあなたの家、取り潰しになると思いますわよ」

「はぁ!?馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!そんなことあるわけ……え、待って。あんたがそれを知っているということは…」

「えぇ、当然父も、ヴィクトル様も、そしてもちろん国王陛下も、ご存知ですわ」

「そん…な」


その時、廃屋の扉がガチャリと開いた。


「シャルル、無事か?」

「ヴィクトル様!恙無(つつがな)く、制圧致しましたわ!」

「まったく…無茶をしてくれる。肝を冷やしたぞ。もう、こんなことはこれっきりにしてくれ」

「はい!ご協力、ありがとうございました!」

「いや、まぁ、協力してもらったのは、こちらの方なのだがなぁ…」

「フフッ、では、お互い様ですわね」

「それにしても、デイビスのやつ(あの男)シャルルに迫ったときは殺意を感じたが、さすがにあれは…恐らく、もう()()()()()は、機能しないだろう。同じ男として、ほんの少しだけ同情するな」

「自業自得ですわ!」

「まぁ、そうだな」


笑い合う2人を見て、アリシアはわけがわからず

放心するだけだった。

その後、待機していた捜索隊によって、全員捕縛された。

アリシア達が牢に幽閉されると、そこから芋づる式に

バンドール家、及びマーデット家の悪事が

明るみになったのだった。


「はぁ…とりあえず、一段落といったところか」

「そうですね。一時はどうなることかと思いましたが」

「両家への処罰はどうなった?」

「領地、財産は没収。地位を剥奪し、平民へ降格と致しました」

「うむ、妥当だな。シャルル嬢の様子はどうだ?」

「お心遣い、痛み入ります。本人は変わらず、生き生きとしております」

「ハハハ、そうかそうか。まったく、豪気なことだな。ある意味、ヴィクトルとはお似合いだ。しかし、一体どうやって突き止めたのだ?」


シャルルの誘拐事件が解決した後、定期報告の場にて

バリアは国王にことのあらましを説明した。


あの日、夜会でヴィクトルとシャルルの婚約が発表

された後、ヴィクトルは部下にアリシアとデイビスを

尾行させた。

2人は人気のないところまでやってくると

シャルルの誘拐計画を立て始めたという。


「デイビス、私との婚約は破談にしてちょうだい。その代わり、シャルルと結婚させてあげるわ」

「は?何だよそれ?どうするつもりだ?」

「シャルルを攫ってあんたが襲うの。あの女の貞操を奪ってやればいいのよ。そうすれば、リドリア伯爵は疵物になったあの女との婚約を破棄。あんたは、疵物にした責任を取ればいいだけよ」

「そんなに上手くいくかよ?」

「大丈夫よ。人を手配するのは難しくないし、場所はいつも()()に使っているあの小屋にするわ。あ、せっかくだから、リドリア伯爵を私が頂くってのも悪くないわね。あの女が嘆く姿を見られるのなら、ゴーレムとの結婚なんて安いものよ」

「なんでそうなる?シャルルは脅されて婚約したに決まってるだろ。いいだろう、その計画に乗ってやる。僕がシャルルを救い出すんだ」


この話が、部下からヴィクトルに伝えられ

シャルルの周囲には、しばらくの間厳戒態勢が敷かれた。


以前から、黒い噂が囁かれていた両家だったが

有力な証拠もなく、踏み込んだ捜査はできすにいた。

しかし、このアリシアの証言が決定的なものとなり

水面下では、バンドール家とマーデット家に対する

調査が始まっていた。


その結果、発見されたのが郊外にある廃屋だった。

ボロボロではあるが、自然に朽ちたのとはまた違う

妙に小綺麗な状態だった。


しばらく張り込みをしていると

そこで違法薬物の取引をしている現場が目撃された。

それで、この小屋がアリシアの言っていた

「いつも取引に使っている小屋」

だと確信したヴィクトルは、シャルルにも状況を説明した。

しばらくは、屋敷の外には出ないようにと。

だが、それに対してのシャルルの返事は

予想の斜め上を行くものだった。


「でしたら、その誘拐犯、(わたくし)が捕まえますわ!」


自分が囮になってわざと攫われ、違法取引をしている両家と

その組織の人間を、一旦別の容疑で拘束し

そこから捜査の手を広げる口実を作り

最終的には一網打尽にしてしまおうというのだ。

もちろん、周囲は総出で大反対した。

ところがシャルルの反論は、これまた斜め上を行ったのだ。


「いい実戦訓練になりますわ!もしこれが、ヴィクトル様の相手になるような者では無理ですが、デイビス(あの男)程度なら、今の私の敵ではございませんわ。問題は、私を拉致する係の者ですが、恐らくは組織の中でも、そんな雑用をやらされる上に、足がついてもすぐ切れるような下っ端だと思いますの。それならば、リドリア家の使用人達の方が強いですわ。今では私、あの方達と互角ですもの。大丈夫ですわ。それに、アリシア達の話から察するに、命まで取るようなことはしないと思いますの。もし、どうしても心配なら、小屋の周りを取り囲んでおいて下さいませ。ピンチの時は、悲鳴を上げますわ!」


キリッという効果音が聞こえてきそうないい笑顔で

そう言い切るシャルルに、最早諦めるという選択肢は

ないようだった。

一同頭を抱えたが、悩みに悩んだ末

間違いなく一番効率的であろう、シャルルの案に

乗ることにしたのだった。


「…と、いうようなことがございまして…」

「なんとまぁ…ハハハ、お前も気苦労が絶えないな。救国の英雄が増えそうだ」

「陛下、ご冗談でもお止め下さい」

「あぁ、スマンスマン。しかし、シャルル嬢の此度の活躍は立派なものであった。何か褒美をやろうと思うのだが、何が良いものか。シャルル嬢に聞いておいてくれるか」

「かしこまりました」


その数日後、バリアは1通の手紙を持ってきた。


「陛下、シャルルへの褒美の件ですが、()()がいいそうです」

「?手紙?これを受け取ることがシャルル嬢への褒美だと?」

「はい。まぁ、正確には、受け取った後の陛下の行動が褒美になるというか」


要領を得なかったが、国王が手紙の封を開けると

それは、結婚式の招待状だった。


「ははぁ〜、なるほど。シャルル嬢も考えたものだな。さすがは宰相の娘。抜け目がないというか、強かというか…」

「お褒めに預かり光栄です」

「相わかった。必ずや、夫婦揃って出席させてもらうと伝えておいてくれ」

「かしこまりました」


ヴィクトルとシャルルの結婚式に、国王夫妻が参列すれば

周囲には、リドリア家にはこれだけの後ろ盾があると

知らしめることになる。

そうなれば、今以上にヴィクトルが仕事をしやすくなる

と考えた、シャルルの献身。

どこまでいっても、ヴィクトルファーストな

シャルルであった。


そんなシャルルだからこそ、結婚式くらいは

シャルルの希望通りにやりたいと思ったヴィクトルは

極力、口を挟まずに見守りつつ、求められた時だけ

意見を出した。

そんなふうに忙しく奔走するシャルルを見て

一抹の不安を覚えたヴィクトルは

念の為、準備をしておくことにした。


いよいよ、結婚式まで後1週間と迫った日のこと

シャルルは、人生最大のミスに気付いた。


「…ウェディングドレスの制作を、頼んでいませんでしたわ…」


もう、どうにもならないところまで来てしまった。

こんな大失態を犯して、ヴィクトルに愛想を尽かされるに

違いないと絶望しつつ、言わないわけにはいかないと

ヴィクトルに打ち明けるために彼の部屋へ向かう。

すると、自室を出たところで、何やら大きな箱を抱えた

ヴィクトルがこちらに向かって来るのが見えた。


「おや?シャルル、出かけるのか?すまないが、少しだけ時間をもらえないだろうか」

「は、はい…。今、ちょうどヴィクトル様のお部屋に伺おうとしていたところです」

「なんだ、俺に用だったのか?だったらちょうど良かったな。シャルルに見てもらいたいものがあるんだ。部屋に入れてもらえるかい?」

「もちろんです。…どうぞ」


両手が塞がっているヴィクトルに代わり

部屋の扉を開け、彼を中に通した。

ヴィクトルは持っていた箱をテーブルに置き

シャルルに開けるように促した。


「開けてみてくれ。気に入ってくれるといいんだが…」


不安そうな笑顔でシャルルの様子を窺うヴィクトルに

早くドレスのことを打ち明けなければと

罪悪感を募らせた。

しかしまずはこの箱を開けようと、恐る恐る蓋を開けた。

するとそこには…


「!!ま、まさか、ウェディングドレス…?」

「あぁ。何と言うか…俺が、シャルルに着て欲しいと思うものを選んだんだ。もし、気に入らなくても、1度くらいは袖を通してもらえたら嬉しいんだが…」


するとシャルルは、大号泣し始めた。

ヴィクトルは焦った。そんなにダメだったか!?

オロオロしながらなんとか落ち着かせてみれば

どうやらウェディングドレスの発注を忘れていた

ということだった。


「こんな…不甲斐ない(わたくし)のために…本当に、本当にありがとうございます」

「いや、やはり俺ももっと手伝うべきだった。実は、なるべくシャルルの意に沿うような式にしたいと、口出し手出しは最小限にしていたんだが、あまりにも忙しそうなシャルルを見て、もしかしたら…と思ってな。だが、ドレスの仕上がりに、妥協はしていないぞ。俺が着飾らせたいと思うのは、シャルルだけだからな」

「うぅ…ヴィクトル様…ありがとうございます!」


すったもんだありつつも、無事に結婚式当日を迎えた。

約束通りに、国王夫妻もお祝いを持って出席し

新しい門出を迎えたヴィクトルとシャルルを祝福した。


「シャルル、本当に美しいよ」

「フフッ、ヴィクトル様のおかげですわ」

「愛している。必ず幸せにするよ。これからも、どうかよろしく」

(わたくし)も、愛していますわ。こちらこそ、末永くよろしくお願い致します。特訓の方も、継続して下さいませ」

「え、続けるのか?」

「もちろんですわ!ヴィクトル様は敵の多いお方ですもの。私、旦那様のお荷物にはなりませんわ!」

お読み頂きありがとうございました。


初めての恋愛もので、初めての短編。

手探り甚だしい(^_^;)


もしよろしければ、リアクションなど頂けますと

幸いです。

よろしくお願いしますm(_ _)m

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