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第1章 入学の日、水晶が砕けた

この世界は、火、水、風、土、氷、草――六つの原素を司る精霊と共存をし、人類はその加護を受け、契約を結び、霊法を行使する。

だが、精霊たちの頂点に立つ存在――精霊王は、伝承に語られるのみで、人の前に姿を見せることはほとんどない。


だが、精霊たちの頂点に立つ存在――精霊王は、伝承に語られるのみで、人の前に姿を見せることはほとんどない。


 春の風が学園の高い城壁を越え、入学式を待つ広場に吹き抜けた。

 この国で唯一、精霊魔法を学ぶことを許された場所――王立精霊魔法学院。


 メアリ・アークライトは列の後方で静かに息を吐いた。

 艶のある黒髪は腰まで流れ、整った顔立ちは本来なら人の視線を集めるはずだ。

 だが、彼女の存在は同じ新入生たちの間で、まるでそこにいないかのように扱われていた。


(……この空気には慣れてる)


 元アークライト伯爵家の令嬢。

 両親を幼くして事故で失い、叔父の屋敷に引き取られた。

 そこでは毎日のように冷たい言葉と視線が突き刺さり、暴力すらも日常だった。

 感情は徐々に色を失い、笑うことも泣くことも減っていった――ただ、一つを除いて。


 それは、七色に輝く小さな光の玉。

 誰にも見えず、誰にも聞こえないその存在だけが、彼女の支えだった。

 幼い日からずっと傍にいて、時折、柔らかな声で語りかけてくれる。


「メアリ...メアリ...」


 十四歳の誕生日、その光は六つに分かれ、人の姿となった。

 四人の男の子に二人の女の子――それが、火・水・風・土・氷・草、それぞれの元素を司る精霊王だと知    るのは、まだ先のことだった。


「新入生は順番に、精霊判定水晶に手を置くように!」


 教師の声が響き、列が前へと進んでいく。

 判定水晶は、触れた者の精霊適性を光として示す聖道具だ。

 赤なら火、青なら水、緑なら草……色が鮮やかなほど高い適性を意味する。


 やがてメアリの番が来た。

 

「次、メアリ・アークライト」


 生徒の視線が、ほんの少しだけ集まる。

 その中には、黄金の髪を輝かせる一人の青年――王太子ノーヴェールの姿もあった。


 彼は水と風の上級精霊に祝福された稀有な存在。

 その端正な顔立ちと、涼やかな瞳は、まさに物語に出てくる理想の王子そのものだった。


 メアリは一歩、壇上に上がり、水晶に手をかざす。

 瞬間――


「あっ…」


 ――ピシリ、と音がした。


 次の瞬間、亀裂が走り、透明な水晶は粉々に砕け散った。


「……え?」


 広場は一瞬で静まり返り、次いでざわめきが広がる。


「壊れた……?」

「ありえない……あれは王国で最も強固な魔道具だぞ」

「不吉だ……」


 嫌悪と恐怖の視線が、一斉にメアリへと向けられた。

 


 (またか…)

 


 彼女はうつむき、何も言わなかった。

 その背後――誰にも見えない場所で、赤髪の青年が燃えるような瞳を光らせる。


『……もう、の限界だな』


 火の精霊王イグナスの肩口から、熱がにじむ。

 もう一歩で姿を現しそうな勢いを、金髪の青年――雷の精霊王ヴォルトが押さえつけた。


『馬鹿者。少し落ち着け、イグナス。今はまだ動く時じゃない』

 

『けど、これ以上あいつを…分かった。行かねぇよ。』


 しかしそのやり取りを、ただ一人――王太子ノーヴェールだけが見ていた。

 彼の視線が、メアリに強く突き刺さる。


(……水晶が割れた?…面白い。彼女、何者だ?)

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

今回のお話は、孤独な令嬢と六人の精霊王たちとの出会いから始まります。

まだ学院生活の入り口ですが、この先は学園ドラマ、恋愛、そして世界の命運をかけた戦いへと物語が広がっていきます。


作者的には、精霊王たちのメアリに対する思いを細かく掛けたらいいなと思っています。

次回は、入学初日の騒動の続き――火の精霊王イグナスが少しだけ本気を出します。


感想やブックマークをいただけると、とても励みになります!

それでは、また次話でお会いしましょう。

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