表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5


俺が刺された場面をよく思い出して欲しい。

『Aの瓶の鋭い断面は、俺の喉元の辺りを突き刺した』、と言ったな。

だが、()()()()()()()()()()()()()()()()

『喉元の辺り、首がある位置に突き刺さった』、と言ったな。

だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『俺の身体は、動かなくなった』、と言ったな。

だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あ、ああ…なんだ、そんな簡単な…ごほっ…!」

Cくんも理解したらしい。

俺の()()()()()()()を見て、全てを察したようだった。


「そもそも、なんで俺がこんな黒い手袋を着けて来たと思う?Aの奴は厨二病だとか何とか言ってきたけどよ、そこに合理的な理由があるとすれば?」

俺の手袋は、かなり黒い。

黒いという理由もあるが、この手袋はふかふかの防寒仕様になっている毛糸タイプの物で、つまるところ光沢が無い。

黒光りさえもしない。

俺の右手はコンパスの針を持っていたからともかく、ならば何も持っていなかった俺の左手は、こんな暗闇の中では殆ど見えないのだ。

勿論ここはバス停で、街灯が近くに全く無い訳ではないが、なにぶん田舎町なもんで、ちょっと離れた場所に1つ街灯が立っているだけなのだ。だから俺や他の奴らの身体は、その街灯に面している部分は見えやすくなっているが、それとは反対側の部分はむしろ影になっていて、本当に見えず、視えないのだ。

あの時俺の左手は、丁度そんな角度にあった。

だから咄嗟にAの瓶を左手でガードした時、左手が犠牲になったことによる痛みに悶えたい気持ちを逆に利用して、あたかも首を刺されたかのような即興の演技を披露したのである。

Aからは、角度的に暗くてよく視えない。

Cくんは、そもそも目にガラス片が入ってしまって目を閉じている最中なので、視えない。

完璧に、その場にいた二人を騙し欺き出し抜いたのだった。


「あ…はは…ごふっ!げふっ!うごっ…ご…」

もうCくんも限界が近いな。

武器であるカッターはさっき投げ捨ててしまっていて、もう俺に抵抗するための手段が無い。素手で抵抗しようにも、そんな体力を使うようなことをしたら出血量も増えて早く死ぬだけだ。

「なあ、Cくん。この中でもやっぱり、お前が一番狂っていると、俺ぁ思うんだ」

意識が遠のいているCくんの顔を両手で掴みながら、俺は呼びかける。もうコンパスの針はポケットにしまった。

「俺を含めて、誰よりもだ。お前は一番とち狂っていて、だからこそ一番強く、才能があった。そんなお前が、俺は大好きなんだよ。俺は狂っている人間が好きなんだ。狂おしい程に、最狂のお前を愛しているんだ」

「……」

「だからさ、最期に一つ、お前の願いを聞いてやるよ。何か言え」

端的に、俺はそう言った。

Cくんは恐らく、頸動脈だけでなく気管も負傷していて、さっきから咳を繰り返している。だからこんな状態で彼がまだ喋れるかどうかは、正直わからなかったのだが。


「お…にいさ…ん」


まさに、最後の力を振り絞ったということなのだろう。しゃがれて、掠れて、か細く、小さく、弱い声で、彼は。


「死んでください………」


にっこりと笑ってそう言った。

そしてそれっきり、彼の身体は全ての力が抜けて、何もかもが抜け落ちたように、地面に崩れ落ち……

後にはただ、人の形をした肉塊が(のこ)った。

「…ははっ」

俺も、優しく穏やかに微笑み返して。


「嫌だよ。俺は死にたくないからな」


そう言い残して、その場を立ち去った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ