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国一番の毒使い、引退して薬屋を始めたら王族にスカウトされました  作者: 朝陽 澄
第四章:毒に還る日、光に至る朝
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第21話:招かれざる客人たち

 辺境の薬屋――イレナ薬店の朝は、穏やかだった。

 陽光に乾いた薬草の香りが混じり、すぐそばの小川からは鳥のさえずりが聞こえる。


 「はい、こちらが薬湯三日分。それと、おばあちゃんの足腰用に湿布もつけておくわね」


 そう言って薬包を渡すイレナの表情は、完全に“毒使い”ではなく、“町医者”のそれだった。


 だがその静かな日々は、突如として壊される。


 村の外れに、黒い馬車が三台、ひっそりと現れた。


 「イレナ=アルミリア殿。王都より緊急招集でございます」


 馬車から降りてきたのは、王政庁直属の使者。

 その背後に控えていたのは、黒薔薇室の現室長となったティナだった。


 「久しぶりね、イレナ。……のんびりしてた?」


 「こっちは静かだったけど……そっちは嵐?」


 「嵐、なんてもんじゃないわ。――国境が、動いたのよ」


 ティナが広げた地図には、赤く記された印がいくつも並んでいた。


 「“隣国ルゼン王国”が、越境者を口実に国境を越えた。現時点で王国軍は動いていないけれど……代わりに、奇妙なものが確認されたの」


 それは“毒霧”。

 通常の兵器ではない、“気配も痕跡も残さない毒の影”。


 「ねえ、イレナ。聞いたことあるでしょ。“アナトミア派”って名前」


 イレナの表情が、明確に凍った。


 「……まさか、まだ生きてたの?」


 アナトミア派――かつてサウルとも対立した、極端な毒主義の思想集団。


 「彼らは“毒による進化”を信奉してる。病も戦争も思想も、毒で“選別”すればいいと考えてる集団よ」


 ティナは地図を指さす。


 「“影の王女”の事件のどさくさで、国外に潜んでた彼らが動き始めた。そして今――国境の村が一つ、丸ごと“消えた”」


 「……生体反応も?」


 「ゼロ。痕跡も、声も、死体すらない。ただ、一面の灰だけが残されていた」


 「私たちは、もう“解毒”だけじゃ済まない局面にいる。だから――イレナ。あんたの毒が、必要なのよ」


 イレナは黙って地図を見つめ、しばらく思案してから答えた。


 「……わかった。私の毒で、止める」


 「ありがとう。じゃあすぐに、王都へ――」


 「でも、薬屋は閉めない」


 ティナが目を丸くする。


 「は?」


 「この村が、私の“日常”だから。黒薔薇室には戻らない。出張よ。必要な時に必要なだけ。私はもう、毒の兵器じゃないから」


 その言葉に、ティナは苦笑する。


 「……ほんと、変わったわね。昔のあんたなら、“全部壊してやる”って言ってたのに」


 「今は、全部守りたいのよ。毒でもって」


 こうして、イレナは再び“毒使い”として表舞台に立つ。


 だがその道は、これまで以上に過酷なものとなる。


 アナトミア派。

 その幹部たちは、かつて“灰の研究院”から分離した“毒の精鋭”たちであり、サウルやエリスすらも一目置いていた“異端の神官”たちだった。


 その目的は――


 「王族を毒で染め、完全なる“新王”を創ること」。


 一方、王都。

 新国王レオン・アルミリアは、再び“毒の戦争”の足音を聞いていた。


 その傍らには、一枚の報告書があった。


 > 対象:アナトミア幹部 “ヴェルニア=クロウ”

 > 特徴:他者の毒を“取り込み、再構築”する能力を所持

 > 通称:毒喰らいの聖女


 そして、その最後にはこう書かれていた。


 ――“イレナ・アルミリアとの血縁関係、未確定情報あり”

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