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おてがみ  作者: 埴輪庭
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第7話

 ◆


 その夜、美咲は夢を見ていた。


 夢の中では、ある家族が穏やかに過ごしていた。男と女、そして小さな女の子。日当たりの良い部屋で、三人が笑い合い、楽しげに過ごす様子が見える。


 休日の昼下がり。女は笑顔でテーブルに料理を並べ、男は冗談を言って女を笑わせている。女の子は無邪気に二人の周りを駆け回り、楽しそうに声をあげる。幸福そのものの、どこにでもある家族の風景だった。


 だが、次の瞬間――


 場面が急に暗転した。


 今度は同じ家族が、リビングで険悪な空気を漂わせている。


 男は激しい怒りに満ちた顔で女を怒鳴りつけている。その口元は激しく動いているが、言葉は何も聞こえない。


 女は男に何かを必死に訴え、しきりに頭を下げて謝罪を繰り返している。その表情は悲痛そのもので、身体は小刻みに震えている。


 男は何かを証明するようにスマホの画面を突きつけている。女はそれを見てさらに狼狽し、涙を流しながら頭を下げ続ける。


 次の瞬間、男が右手を大きく振り上げて女の頬を平手で強く叩いた。


 女の顔が衝撃で大きく横を向き、長い髪が乱れて顔を覆う。


 小さな女の子が激しく泣きだした。その泣き声だけが夢の中に鮮明に響き渡る。


 男は背を向け、荒々しくドアを開けて部屋を出ていった。


 残されたのは頬を押さえて嗚咽を漏らす女と、ただ泣き叫ぶしかできない女の子だけだった。


 そこで美咲ははっと目を覚ました。


 ベッドの上で、美咲は呼吸が乱れていることに気付いた。


 嫌な汗が背中を伝っている。


「何、今の……」


 身体を起こし、枕元のスマホで時間を確かめると、まだ夜中の三時過ぎだった。


 酷く気分の悪い夢だったが、内容は既に薄れていて思い出せない。何かひどく悲しくて苦しい場面だった気がするが、記憶はすぐに霧のように消えてしまった。


「気持ち悪い……」


 美咲は再びベッドに横になると、震える手で毛布を強く掴み、もう一度ゆっくりと目を閉じた。

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