8話
「何やってるの?」
放課後。
家に帰ろうと推しのアーカイブを聴きながら歩いていると、公園のブランコに座るゾンビみたいな表情をした八神さんを発見した。
この雰囲気では彼女には誰も近づかないだろう。実際に公園で遊んでいた小学生がこの場所から撤退していた。
流石に放っておけなかった僕は公園の中に入り彼女に話しかける。
「お…た」
普段はっきりと喋る彼女にしては珍しく声が小さくて、何を言っているのか聞き取れない。
「?」
「お腹すいた…」
・・・
「ありがとう和田くん」
さっきまでのゾンビみたいな表情から普段の表情に戻った八神さん。
こういう表現をすると愛と悲しみが友達の国民的ヒーローのアパンマンみたいだ。
「うん、どういたしまして」
あのあと僕はゾンビ八神さんに近くあるスーパーでお弁当を買ってあげた。
それは別にいいのだけど…
「どうしたの? さっきからソワソワしてるけど?」
いや、それはソワソワするよ!
なんたって僕が今いる場所は八神さんの家なんだから!
「もしかして女子の家だから緊張してるの?」
ニヤニヤと楽しそうな表情で聞いてくる八神さん。
「そ、そんなことないよ…」
う…
バレた!
だって女の子の家で2人きりなんてシチュエーションは今まで無かったし。
しかも、彼女は一人暮らしをしているらしく、それもあって余計に緊張する。
つまりこの空間にはずっと僕と八神さんしかいないのだ。
だからって何かあるわけで無いけど、女の子のプライベート空間に入るなんてドキドキしてしまう。
「まあ、学校でもいつも1人だし、彼女どころか友達もいなそうだもんね」
おお、なんて酷いことを言うんだ。しかも、それはブーメランだと思う。
「いや、それは八神さんだけには言われたく無いんだけど…」
「別にアタシは友達なんていらないし」
「そうだよね。変なこと聞いてごめん」
「ちょっと! アタシに同情の目を向けるのはやめなさい! 本当に友達なんていらないんだから!」
「分かってる分かってる」
「それにアタシには推しがいるからいいのよ!」
この家に入った最初の方は緊張していたけど、こうやって彼女と話しているうちに緊張が解けてきた。
「でも女の子の一人暮らしなのに、僕みたいな男子を部屋に入れていいの?」
「和田くんの事は信用してるもの」
「そ、そっか」
僕の目をしっかりと見てそう言ってくれる八神さん。彼女が僕に心を許してくれていると考えると少し気恥ずかしくもあるけれど嬉しい。
「ええ。だって貴方がアタシに変なことをしようと思ってるなら秘密を知った時点で脅せばいいだけだもの。そう、エロ同人みたいに!」
「嫌な信用の仕方!」
さっきまでの僕の感動を返してほしい!
「冗談よ。ちゃんと和田君のことは信用してるわ」
「なんだ。八神さんは照れ屋さんだな〜」
「だって貴方にそんな度胸はないと信じてるから」
「だから嫌な信頼!」