3話
「コレを見てほしいんだ」
夕暮れの教室でスタンガンを片手に持つ八神さん相手に最後の交渉を開始する。
この交渉に僕の未来がかかっていると言っても過言ではない。
「スマホ? そんなもの見たって貴方の未来は変わらないわよ」
手にスタンガンを持って僕を襲おうとしているとは思えないほど小首を傾げる姿は可愛い。
真っ赤に燃えるような赤髪に気の強そうな瞳。筋が通り小さい鼻、粉雪のように白い肌と薄い桃色の唇。
やっぱり彼女は雰囲気や言動でクラスメイトから怖がれているけどまごう事なき美少女だ。
「まあまあ、とりあえず見てみてよ?」
「なによ? 怪しいわね」
「どんだけ怪しんでるの!? 僕のことを何だと思ってるのさ!」
「まさか! アタシがそのスマホを見たら洗脳されるんじゃないの! それで洗脳したアタシにあんな事やこんな事を!!」
「しないよ! 想像力豊富だな! エロ漫画の見過ぎじゃない?」
「な!? え、エロ漫画なんて…み、見てないわよ…!」
「え、本当に見てるの…? 冗談のつもりだったんだけどな?」
「別に貴方には関係ないでしょ! やっぱり貴方には記憶を消してもらうしかないようね」
「その話しはもういいから画面を見て!」
「はあ、分かったわよ。つまらないものだったら気絶させたあと服を脱がして放置するから」
「鬼かよ!」
渋々と言った感じで僕のスマホの画面を覗く八神さん。
「これは!?」
「僕も昨日は八神さんと同じで雫の配信を見てたんだ」
「それだけじゃない。僕はVtuberが大好きでチャンネル登録も沢山している! だから八神さんがオタクなのをバラしたりしないし、今日見たことは全部秘密にする!」
「…」
「信じてくれないかな?」
「そうね。Vtuber好きに悪い人はいないわ。だから貴方の事は特別に見逃してあげる」
そう言って八神さんはポケットの中にスタンガンをしまった。
いやー、本当にしまってくれて良かった。あんな物騒な持たれると怖いからね。僕も本気で撃退しないといけない所だったよ。
「ありがとう。ついでにお願いがあるんだ」
「お願い?」
「うん」
「まあ、貴方には迷惑もかけたし要望によっては検討するわ」
「…」
「なに驚いた表情してんのよ。アタシだって落ち着いたし、貴方に悪いことしたなって反省してるのよ」
「そっか」
「あ、いま変なこと考えたでしょ! 言っとくけど常識の範囲内でだからね! エッチな命令とかは聞かないから」
「しないよ!」
「あー、危なかった。アタシが何も言わなかったらあんな事やこんな事を命令されてたに決まってるわ」
「だから僕のことをどういうに風に思ってるの!? 被害妄想が強すぎるよ!」
「和田くんは気づかれてないと思っているかもしれないけど、さっきから偶に目線が下に行ってる事にアタシは気付いてるわよ」
「グッ…!」
なんて痛い所をついてくるんだ!
彼女は高校1年にしてはとある一部分の発育がいい。
その制服を押しあげる豊満な胸につい目を向けてしまうのは漢のさがだ。
しかし、女性は男性が見ているのに気がつくって本当なんだな。
「そんな事よりも僕のお願い言っちゃうね」
この流れはまずい。
だから、ここは多少強引にでも話題を逸らすべきだ。
「露骨に話題を逸らしたわね。で、貴方のお願いってなんなの?」
「僕と友達になってくれない?」
「残念だけど、それは無理な相談ね。アタシに友達はいらないわ」