12話
『クソがー!! 絶対おかしいって!! 100連で何もでないんだけど!』
バンバン!!
画面の向こうから台パンする音が聞こえてくる。
学校も終わり放課後。
僕は八神さんの家に来ている。
初めて来て以降は彼女に誘われて何度かお邪魔している。
ファミレスに行くとお金がかかるし、同じ学校の生徒とすれ違う可能性もある。だから彼女の家で遊ぶケースが増えたというわけだ。
僕を一回は家に招いたという事も八神さんがこの決断に至った理由の一つだったみたいだ。
そんなわけで今は彼女と2人で楽しくVtuberの配信を見ているというわけだ。見ているVtuberは僕たちが同士となったきっかけを作ってくれた篠塚雫だ。
そんな彼女がしている配信は『ガチャ引くぞ!! 完凸するまでワイは諦めない!』というタイトルで、内容はその名の通りソシャゲの期間限定キャラを完凸するまで引くというものだ。
「相変わらず出ないね」
「最初の10連で引いた時はいつもと違うかなって思ったのだけど…」
「結局いつも通りだったね」
このゲームは星3〜5までのレアリティがある。雫が狙っているのは星5のキャラなのだけれど当然のように外していく。
『いや、まだ5万だから負けじゃない! 人生は始まったばかり! 僕は出す側の人間! 次の10連で2枚引きすればまだ耐えだから!』
「出ると思う?」
「アタシは出ないに1票かけるわ」
『来た! 来た! 来たー!!』
画面には必ず最高レアリティのキャラが当たる確定演出が出て大はしゃぎする雫。
『ついに僕の時代がき…』
バンバン! バンバン!
『モオォォォォォォ!! 良くないよ!! 本当にこんなことしていいと思ってるの!! コレは犯罪ですよ運営さん!!』
「安定のすり抜けね」
「見てる分には面白いけど、自分がこのガチャ結果だったら萎えるよね」
「ええ。フフフ、でも不憫な雫たんも可愛い」
コレをオタクの男が言っていたらキモいんだろうけど、美少女がやっているとどんな表情でも可愛いんだからずるいよね。
『マジ無いわ、キッショ…と思ったけど来た!』
「ついに引いたね」
「そうね。でも完凸まではあと3体引かないといけないけど」
『もう〜ツンデレなんだから〜。コレは勝っちゃうかもな〜』
「調子に乗り出したのも可愛いわね」
「ね。それにリアクションが大きいし見ていて楽しいよね」
「本当にそうよね! 雫たんは感情が豊だから見ていて元気をもらえるわよね!」
「でも、絶対にこのあと沼るパターンな気がする」
「フラグ立ててるものね」
「こういう時ってだいたい出ないしね」
『そろそろいいんじゃない! ホントにお願い! マジでお願い! こんな動画見たら皆んなガチャ引かなくなっちゃうよ! 分かったら出せよー!! こんちくしょー!!』
「やっぱり沼ったね」
「さすが雫たん。リスナーな期待を裏切らないVtuberの鏡」
「本人はとっとと完凸させたいだろうけどね」
『分かった。お兄ちゃん(運営さん)お願い! ほら! 可愛い妹がお願いしてんだよ! 妹の頼みなら聞くしかないでしょ!』
「か、可愛い!! 妹ボイス来たー!!」
『確定演出来たー!! やっぱり時代は妹なんだよね! 行けー!』
バンバン!
『またすり抜け! マジでふざ…けてない! 今度こそ!』
バンバン!
『はい終わったー。マジでキツ…』
『く無かったー! 三度目の正直でしょ!』
バンバン! バンバン!
『は…しょうもな。というか恥を忍んで妹ボイス使ったのに外れるってどういうこと! しかも3体すり抜けは法律違反でしょ!!』
「ここまで来ると逆に凄いわよね…」
「ここまで沼っての3体すり抜けだからね」
『ついに終わったー!! 完凸完了ー!!』
あれから30分。爆死を続けていた雫もついに目的のキャラを完凸した。




