表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/18

1話



「おい、昨日発売したあの漫画の新刊見たか?」



「『太陽に月が生えて腕が伸びた』のこと?」



「あー、そういえば昨日発売だったな」




 教室の入り口付近でクラスの男子たちが漫画の新刊について話している。

 彼らが楽しそうに話しているのは、若者の間で流行っているらしい漫画だ。



 ああいう風に趣味について語り合う友達がいるというのは趣味を語る友達がいない僕からしたら羨ましい。

 いつかはああいう風に趣味について一緒に盛り上がれる友達が欲しいものだ。



しかし、そんな彼等は話しに夢中になっていて後ろからやって来る人物の存在に気づいてない。



「邪魔」



 その一言で楽しそうに喋っていた男子生徒たちはまるで怪獣から逃げる小市民の如く一斉に扉の前から退避していく。

 


「やっぱり怖いな八神さん」

「こないだ他校の生徒をかつあげしてたっていう噂もあるよ」

「他校の不良を病院送りにしたって話しもあるし」



 そんな彼女を見て他のクラスメイトたちもざわざわし始める。



 男子生徒たちを扉の前から退散させた彼女の名前は八神深月。

 僕の隣の席に座る女子生徒だ。



「おい、何見てんだよ」



「あ、ごめん」



 そんな渦中の彼女を見ていたら目が合ってしまったらしく、ガンを飛ばされてしまった。







 授業が終わり放課後。



 図書室でネット小説を読んでいたらいつの間にか時刻は17時を回っていた。

 ちょっと読んだら帰るつもりが、ネット小説が面白くて予想よりも時間が過ぎてしまっていた。



 何で図書室でわざわざネット小説を読んでいたのかって?

 それは人が少なく静かな場所だからだ。人がたくさんいる教室でネット小説を気が引ける。



 さて、時間も時間だしそろそろ帰るかと立ち上がったタイミングで、イヤホンを教室に忘れたことに気がついた。

 これでは推しの動画を見ながら帰ることが出来ない。そう思った僕は教室に向かうことにした。



 時刻は既に17時を過ぎているため、廊下を歩いている生徒は少ない。

 窓からグランドで部活動をしている生徒を見ながら歩いていると目的の教室にたどり着いた。






「はは、雫ちゃんは可愛いーな」





 …どうやら誰かが教室に残っているようだ。



 教室の扉をそっと開けて中に入ると、1人の少女が普段なら絶対に見せる事のないだろう天使のような笑顔で携帯を見つめている。



 名前は八神深月。

 そう、様々な噂がありクラスメイトからも怖がられている彼女がニコニコと独り言を言っていたのだ。



 普段の彼女は他者を近づけさせないオーラを放っていて、あんな風に明るい表情を教室で浮かべている所を見たことがない。



 教室に入るときは常に不機嫌そうな表情を浮かべ、休み時間になれば教室から出て行き、いつも1人で行動している。

 入学当初はその美貌からかなりの数ラブレターを貰ったが、『アタシにラブレターなんか見せるな』と全てをゴミ箱の中にぶち込んだ。



「いやー、ガチャ爆死して台パンしてるところも可愛いし、そもそも声がドチャクソタイプだわ!」



 そんな彼女がオタク丸出しの発言をして自分の時間を楽しんでいる。




 幸いなことに彼女はまだ僕の存在に気付いていない。

 多分、イヤホンをして自分の世界に没入しているせいだろう。



 彼女に気が付かれてないなら問題ないと、そっと近づいて後ろから携帯の画面を見る。



 彼女が夢中になって見ていたのは僕の予想通りVtuberの配信だった。

 Vtuberとはキャラクターの姿を使って動画投稿やライブ配信をしている人たちのことだ。



 最近は注目度も上がっていてTVなんかでもVtuberを見るようになったし、その数は年々増えていて、登録者100万人越えのVtuberも見かけるようになった。



 そして彼女が夢中になっているVtuberの名前は篠塚雫。主にゲーム配信をメインにやっている配信者で、ガチャの引きが悪いのが特徴の女性Vtuberだ。

 一定数ガチャを引くことで確実に欲しいアイテムを手に入れることが出来るシステム。俗に言う天井までガチャを回すことも多く、いつだって可愛い声で発狂しているイメージだ。



 なんで知ってるのかって?



 それは僕もVtuberが好きで雫の配信をよく見ているからだ。



「あー、面白かったー。不憫な雫ちゃんも可愛い!」



 配信を見終わった彼女は伸びをしながら後ろを振り返った。

 そうすると当然のように後ろにいた僕と目がばっちり合う。



「…」



 そして僕の存在に気が付いた彼女は一瞬ビックリした表情を浮かべたあとに顔面蒼白になった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ