とある男の話
この国は年中温暖な気候の国だと何処かの旅行会社が他国に喧伝しているが、全くの嘘つき野郎だ。
何故なら暖かい通り越して暑いのだ。ここ最近は気温が40℃を超えるのも珍しくない。
そんな中、私は送迎車の中で汗を滝のように流していた。
車の中はまだ冷房が効いておらず、少し暑い。
しかし、私が汗をかいている理由はそれが理由ではない。
私は恐怖で体が震えて冷や汗を流しているのだ。
目的地のビルに辿り着くと、運転手は遠隔で扉を開けて降りるように促す。
いつものやりとりだ。いつものやりとりなのだが、今日に限ってはそれが恨めしい。
今日、私はとある傭兵に仕事を依頼する。
その傭兵は悪党と名乗り、国際指名手配されている男だ。
しかし、その男で無ければ、我々の国に害を成す悪を打ち倒せない。
悪を持って悪を制す。
私は、今日これから、私の信じていた正義が悪に劣る事を認めに行くことになる。
何十年とこの国に尽くして来た。それが正義だと信じて。
そんな私が、悪に頭を下げに行くのだ。
悪党を名乗る傭兵がいる部屋の前には交渉人達が私の到着を待っていた。
私は軽くノックをし、扉を開いた……。