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第10話 なぜみんな私をそんなに称えるの?

 追放が取り消され、再び王宮に戻った私は、喜びどころか絶望を抱えていた。


 辺境で下民として生きる──それが私にとっての破滅であり、最高の「ご褒美」だったはずなのに、その喜びはあっという間に消え去った。


 代わりに私が得たのは、国民や貴族たちからの称賛と感謝だった。


「セシリア様、あなたの勇気ある行動がエドワード殿下の陰謀を暴いたのです。あなたこそ、この国の英雄です!」


 ──違う、私はただ破滅したかっただけ…。


 どうして、こうなってしまったのか? 私の破滅は、なぜか「国を救う犠牲的な行為」として受け取られ、エドワード殿下への疑惑は日に日に強まっていった。


 今では、私がエドワードの陰謀を知りながら、自らの評判を犠牲にして彼の野望を阻止したという美談が広まりつつあった。



 ******




 王宮に戻ったその日から、私に対する扱いは一変した。辺境に飛ばされるはずだった私は、国民からは「国を救った英雄」として扱われ、貴族たちもまた私を尊敬の目で見始めた。


「セシリア様のおかげで、我々は危険から守られました。」


「貴女がエドワード殿下の野望を暴いたのですね。なんと高潔な行動でしょう。」


 ――高潔な行動? そんなもの、私に何の関係があるの…?


 私はただ、破滅したかっただけだ。自分の評判を貶めて、すべてを終わらせようとしただけ。それがどうして「国を救う行動」として解釈されるのか、理解できなかった。


 けれど、私の意図など誰も知る由もない。噂はどんどん膨らみ、私の破滅は遠ざかる一方だった。



 一方で、エドワード殿下の立場は日増しに悪化していた。


 私の行動が引き金となり、彼の企みが明るみに出たわけではなかったが、国民や貴族たちの間では「エドワードが裏で何かを企んでいた」という憶測が広まり、彼の支持は急速に失われていった。


「エドワード殿下は私たちを騙していたのか?」


「セシリア様が、彼の陰謀を暴いてくれたに違いない。」


 そんな憶測が飛び交う中で、エドワード殿下は次第に追い詰められていった。そして、ついに彼は王位継承の資格を剥奪されるという決定が下された。


「どうしてだ…すべてが完璧な計画だったのに、なぜこの女一人の行動で…!」


 エドワード殿下は私に対して激しい憎しみを抱いていた。


 私があの晩餐会で失態を犯したことで、彼の計画が狂い、名声を失ったのだから。


 だが、私にとって彼の怒りはどうでもよかった。私自身が望んだ破滅すら、実現できなかったのだから。


「どうして、私の破滅は叶わないの…?」


 私は自室で一人、ため息をついた。エドワードの企みを知らなかった私は、ただ自分自身の破滅を求めて行動しただけだった。


 それなのに、すべてが裏目に出てしまい、結局は「英雄」として称賛されることになった。


「何もかもが…無意味だった…。」


 破滅を望んでいた私が、今や国を救ったとされる英雄になっている。


 皮肉にも、自分が追い求めていたものとは正反対の結果を手に入れてしまったのだ。これでは、私の望みは永遠に叶わない。



 そんな中、ある日、国の重鎮たちからの呼び出しを受けた。

 彼らは私をさらに高く評価し、これからは国の未来を担う役割を任せたいと言ってきた。


「セシリア様、貴女こそ、この国を導く存在に相応しい。これからは貴女の力が必要です。」


 ──国を導く…? そんなもの、私が望んでいるはずがない。


 私はただ破滅したいだけなのに、なぜか私の行動が「国のため」とされ、次々と新たな責任を押し付けられる。


 何もかもが逆に動いているような気がして、私は再び絶望感に襲われた。


「もう…どうしたらいいの…?」


 破滅を望んでも、それは叶わない。私の行動はすべて善行に解釈され、周囲からは称賛されるばかり。


 この世界で、私は本当に破滅することができるのだろうか?

 再び、答えの見えない迷路の中に私は迷い込んでいた。

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