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9話

「シンジョウさん、結婚っていいですか?」

「どうした、藪から棒に」

「彼女同い年なんですけど、

 最近遠回しに結婚したいようなことを言ってくるんですよ。

 だから腹くくろうかな、って」

「僕は失敗した方だから」

「え?でも、指輪してるじゃないですか」

「実は離婚調停中なんだ」

「また地雷踏んじゃったかなぁ」

アツヤが頭を掻いて反省していると

「いや、いずれ分かることだからいいよ気にしないでいいよ」

タクヤはキョウコに感化されて再スタートを決めた時、

一回リセットしようと考えた。

それが会社を辞めることであり、離婚することでもあった。

「そう言えば先輩が東京で初めてシンジョウさんに会った時、

 すごかったって」

「あぁ、あの時はもう毎日流されるまま生きているだけで、

 死んでいるのも同然だったかな」

シンジョウが結婚したのは25歳。

ちょうど身体を壊した時に甲斐甲斐しくしてくれた

当時付き合っていた女性のヤザワミワだった。

会社では将来有望と期待され、結婚をして家庭を持ち、

公私とも順風と思われた。

その1年後、ミワが病気になった。生存確率60%と宣告された。

タクヤは悩んだ。今の仕事を続けるとミワの看病はあまりできない。

でも、ミワに万が一のことがあったら

側にいられなかったことを後悔するだろう。

そこでタクヤは思い切って移動願いを会社に出した。

定時に終わる部署に移ったタクヤは毎日ミワの見舞いに行った。

そして出来る限りのことはした。

術後は通院で治療を続け、

数年間は再発の恐れがあるため

仕事が終わったら真っ直ぐ帰宅する生活を送った。


人一倍優しいタクヤはミワの望むことは何でもした。

でも、これがイケなかった。

ミワがモラハラをするという状態になっていったのだった。

次第にタクヤが家事をやらないと家庭が回らなくなってくるまでになった。

「仕事と家事の両立だけならわけなかった。

 でももう気持ちがついていけなかった」

思考力や判断力が低下して無気力になり、

自分の弁当ぐらいは手を抜きたいと思い冷食を詰め込んでいた。

「そんな時、ミタさんの企画書作成を手伝うことで

 少しずつ自分を取り戻すことができたんだ」

「だからお弁当が茶色だったんですね」

「そこじゃないだろ」

二人は笑い合った。


それから会社を辞めて起業の準備をし、ミワには離婚話を切り出した。

離婚に関しては裁判を起こせば

それなりにスムーズにことは運べたのだろうが、

タクヤは敢えてそうしなかった。

それは憎くて別れるならまだしも、

ここまで連れ添ったミワから逃るわけだから、

最後くらいはとことんまで話し合うのが

一つの償い方だと思ったからだった。

「1年話し合いを重ねたけれど、堂々巡りの繰り返しで

 結局は平行線でゴールは見えなかったんだ」

仕方なくタクヤは昨年から離婚調停に踏み切った。

「そうだったんですね」


そこへキョウコが遅れて部屋に入って来た。するとアツヤが

「知ってました?シンジョウさん離婚調停中だってこと」

とキョウコに報告すると、一瞬驚いて動きが止まったがすぐに

「また失礼なこと聞いてー」

と注意した。

「僕がついでに話しただけで、ミタカ君は悪くないよ」

タクヤは笑ってアツヤをフォローした。

キョウコは喜んでいいのかどうしていいのかわからなく、

ただ愛想笑いをするしかなかった。


その週末、サラの結婚式が行われた。

新郎はサラの学生時代の同級生。

その頃から交際を続けて6年目でようやくゴールイン。

キョウコもマミコも何度か顔を合わせていて

「彼、一流企業の商社マンでしょ?将来安泰だよねー」

とマミコが言うと、

「あー見えて、男性の目利きはすごいんだよね」

とキョウコは笑った。

「そーゆーキョウコだって、先輩起業したんでしょ?」

「したけど、私達は付き合ってるわけじゃないから、サラとは違うわよ」

「で、あれからどうなの?彼、離婚するんでしょ?」

「なんか、目の前がパーっと開けちゃったら、

 逆にどうしていいかわからなくなっちゃった」

「ガンガン攻めちゃえば?」

といって笑った。

キョウコはタクヤから誘われたことは

マミコとサラには言ってなかった。

今のところ行く気がないからだった。


そんな話をしていたら

「なんかこっちに手を振ってるイケメンがいる」

マミコはキョウコの耳元に囁きながら、

新郎席に座る一人の男性をこっそり指さして言った。

キョウコがその指の差す方を見ると、

「なんでこんなとこに…」

もう驚くしかなかった。

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