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3話

「カンパーイ!」

リョウの音頭で始まった飲み会は

あれから1ヶ月が経った頃にようやく開かれた。

「で、あれからどうなんですか?」

すかさずマミコがリョウに突っ込んだ。

一同黙って二人の顔を覗き込んだ。

「どうって、何が?」

「とぼけちゃってー。キョウコとですよ」

「なんにもないよー!」

照れを隠しながらリョウが答えると、

「なーんだ」

マミコが残念そうに言うと場は笑いに包まれた。

二度目ともなると遠慮半分で席のあちこちで会話が弾む。

テーブルの端でリョウとキョウコが話していると、

酔っているのか隣の男性のが割って入り

「キョウコさんはこいつのどこに惚れたんですか?」

と大きな声で質問した。

すると思い思いに話していた全員が会話を止め、

視線を二人に向けた。完全に皆の酒のツマミだ。

でもこれは始まる前から予測できたことで、

だからキョウコも友達の二人には

前々からベンチからリョウのことを見ていたことは

黙っていて欲しいとお願いをしていた。

それは、万が一リョウと何かあった時に

あのベンチに行けなくなることだけは避けたかったからだった。

「どこ、って…」

普段キョウコはマミコと同じように何にでもハキハキと答えるのだが、

こと自身の恋愛となると苦手意識が発動してしおらしくなる。

「まあまだ始まってもないということなので、

 これからのことは若い者同士にまかせましょう」

マミコは見届け人の如く振舞い

笑いに変えてキョウコをフォローした。

終始和やかな飲みの席はあっという間に時間となり、

また集まりましょうという社交辞令含みで解散した。

ただマミコは二人を呼んで女子会と称してカフェと行った。


マミコは

「彼のことどう思ってるの?」

キョウコにストレートに尋ねた。

「すごくいい人だよ。

 ただ、二人で会ったことないから正直まだよくわからない」

キョウコが答えると

「彼ちょっとヤバイかも。あくまで私の勘だけどね」

とマミコは言って、その理由を話した。

「飲みの席でやたらスマホを見てたんだよね」

「そうそう、私もそれ気になった」

サラが珍しく口を挟んだ。

マミコは裏取りしてみるから早まらないようにとキョウコに言った。


キョウコの初企画は見事採用された。

これまでのお礼、そしてその喜びの報告を

ぜひ“先約の男”にしたいのだが、

彼はあれ以来姿を見せていない。

「ここ、いいですか?」

キョウコはもしやと思い振り返るが、

そこには全く知らない男性が立っていた。

何度かそんなことがありながら毎日彼のことを考えていた。

(毎日茶色い弁当食べてたから体でも壊したかな)

(会社クビになったのかな)

あまりにも長いこと姿を見ていないからか

どうしてもよからぬ事を考えてしてしまう。

次第にキョウコの中で彼の存在が大きくなっていった。


キョウコ初の企画がクライアントでも評判となり次第に信頼を集めていくと

5年目を迎えるにあたり実質の担当窓口になった。

俄然やる気が出たキョウコは2コ下の後輩と共に足繁く通い、

少しづつ売上を伸ばしていった。


マミコからLINEが入った。

普段はメールでやり取りをしているが

LINEは準緊急女子会時に発動する。

マミコ 「クロね」

キョウコ「え?リョウのこと?」

マミコ 「担当から何気なく探ってみたらどうも歯切れが悪くて。

     帰りしなに他の部署の女子社員の前でカマかけたら、ビンゴ!」

サラ  「事前にわかってよかったね」

キョウコ「ありがとう、二人とも」

マミコ 「大丈夫?」

キョウコ「初めこそ驚いてドキドキしたけど、

     そこまで思ってもなかったし」

嘘ではなかった。

何度もメールでやり取りをして優しい言葉も掛かられたりしたけれど、

キョウコはリョウに不思議とトキメいてはいなかった。


ある日ランチタイムにいつものベンチに向かうと、

久しぶりにベンチに先約がいた。

ただ、短髪でしかも濃紺のジャケットに身を包み

清潔感が遠くからでもわかる身なりで、

よく見ればとても40歳前とは思えないほど若く、

先約の男とはではないことはわかった。

一瞬でも期待しただけに落胆は大きかった。

力なく歩いて行き近づくと、

その男性は明らかにどこかで見たことある顔だった。

「久しぶりだね」

そう声をかけられても誰だか思い出せず、

「企画はどうだった?」

その言葉でピンときたけれど、

頭に浮かんだその彼と見た目があまりにも矛盾しているので

キョウコは彼を指を差しながら軽いパニックを起こした。

“先約の男”は差された自分の身なりを見て、

「あ、わからなかった?」

まだ固まって立ち尽くしているキョウコをとりあえず座らせると、

「突然いなくなってごめん!」

と謝り、これまでの経緯を説明した。


出会った時は資料室にいたけれど、

それまではプランナーだったこと、

そしてキョウコの頑張っている姿を見て

まだ駆け出しの頃の自分をオーバーラップさせたこと、

企画書制作を手伝ううちに仕事への情熱が湧き上がったことを

駆け足で話した。

「それで、何もかもリセットして、

 また一から頑張ろうと思い起業しようと」

その下準備をしていたところどんどん話が進んでいき、

今日までここへ来れなかったと言った。

キョウコは彼の話についていくのがやっとだったが、

言いたいことはわかった。


「企画どうなった?」

「そう、採用されたんですよ!」

「本当に?!」

彼は自分のことのように喜んだ。

「最後まで見てあげられなかったから、ずっと気になっていて。

 でもそれは良かった」

「今では全面的に任されるようになりました。

 ありがとうございます!」

「あれは君の頑張りがあったからで、僕はアドバイスをしただけ」

彼は笑顔でそう答えた。

すると突然彼のスマホが鳴った。

キョウコに背を向ける感じで電話に出た。

「はい、シンジョウです」

聞かないようにしていたキョウコの耳に彼の名前が飛び込んできた。

しばらくして電話を切ると驚くキョウコに気付くこともなく

「ごめん、また来週ここで」

と、キョウコが何かを言う前に去って行ってしまった。

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