12話
「こちら大学時代の友人タカマシンジ。
共同経営者で、ようやく加わってくれたんだ」
キョウコとアツヤに紹介すると、シンジにも二人を紹介した。
「ミタさんって、もしかしてミタっち?」
「やっぱりタカマさんて、シンちゃん?」
タクヤとアツヤを置いてけぼりで二人は大いに盛り上がった。
二人がひとしきり騒いだ後、
タクヤは嫉妬しているのか呆れたのかわからない態度で
ぶっきら棒に尋ねた。
「で、どういう関係?」
「ごめんごめん、ミタさんは俺の元カノの友達」
「二人が別れてからも意気投合して何度か飲みにいったりしたけど、
まさか先輩と友達だったなんて知らなかった」
キョウコは興奮気味に言った。
なぜなら自分が好きな人が気が合う人が親友だったなんて、
こんなに嬉しいことはなかったからだ。
勉強会は親睦会に早変わりした。
「で、二人はどうなの?」
今度シンジはキョウコとタクヤを指差して言った。
二人が慌てていると、
「見てればわかるよ。で、どうなのよ?」
改めてシンジが聞くと、タクヤは左手薬指の指輪を見せて
「まだ、だから!」
「そんもん形だけだろ?もう調停に入ってんだから」
タクヤは誤魔化すことをほぼ諦めて黙秘を決め込んだ。
そんなタクヤが取り乱している姿を初めて見て、
キョウコは親近感が湧いた。
「まあまあタカマさん、そこはそっとしておきましょうよ」
アツヤが割って入ると二人は
「お前がいうな!」
と同時に突っ込んだ。
シンジは
「傍でヤキモキしてるの耐えられないから、とっととはっきりさせろよ!」
と豪快に笑って言った。
タクヤはシンジが加わって一気に賑やかでいい雰囲気になった皆を見て
(このメンバーで仕事がてきたら、どんなに楽しいか)
そう思わずにいられなかった。
あの日以来、ナミのユウキへの攻めは日増しに激しくなっていった。
そんなナミに対してユウキは
「好意を持ってくれてることは嬉しいけど、
僕はまだミタさんを忘れていない」
「大丈夫です。先輩を好きになったことも含めて
好きになったわけですから」
諦めさせようとしても全くメゲる気配がない。
それでもユウキはそれほど悪い気はしていない。
ナミは思いやりがあって器量もいい、
それになんと言ってもキョウコと似ているところがある。
ユウキにとっては申し分ない相手なのだが、
やっぱりキョウコのことが頭から離れない。
「すぐに好きになってもらえなくてもいいんです。
一緒にいて嫌じゃなければ傍にいられるだけでも嬉しいですから」
こんな健気なところもユウキの心を揺さぶるのだった。
「今日正式に離婚が成立したよ」
タクヤがシンジに報告すると、
「一段落だな。じゃあ次行くか」
と言って早速誰かと連絡を取った。
「今晩付き合え」
タクヤに告げると出て行った。
その夜、タクヤとシンジが店で飲んでると、そこへキョウコがやって来た。
「急に呼び出して悪いな」
「先輩もいたんですね」
「邪魔かな?」
タクヤはいつになくちょっと不機嫌にそう言うと
「だからミタっちとは何もないって」
(そういうこと?)
キョウコはタクヤが嫉妬してくれたことが嬉しかった。
「本題に入る。まずタクヤの離婚が正式に成立した」
それを聞いたキョウコは少し安心した。
「でだ、二人の関係をはっきりさせたい」
シンジがそう言うと、
「思い切りがいいところと大胆さがお前の良さだけど、
これはあまりにも強引すぎるぞ!」
タクヤが真剣な顔をして注意した。
シンジはタクヤの言葉に頷きながら聞いていたが
「でもな、恋愛下手の俺でさえ好き合ってるのが分かる二人を見てると、
こっちがモヤモヤしてくるんだよ。
それにこんな状態、仕事にも決して影響がないとも言えない」
妙に納得させられたタクヤは黙っていた。
「ごめんなミタっち。でもこんなやり方しかできないんだよ」
「わかってる。ありがとね。でも先輩はようやく落ち着いたばかりだし」
「こいつは昔っからキチンとしすぎなんだよ。
物事には順番をズラしてでもやらなきゃいけないことあると思うんだ。
それこそ恋愛なんてタイミングを逃したら、
あとは後悔しか残らないんだよ。
俺は元カノとのことでそれを学んだんだ。
だから大好きな二人には絶対に後悔してほしくなくて」
シンジは二人に思いの丈をぶつけた。しばらく二人は黙っていた。
店内に響き渡る笑い声や、注文を厨房に伝える店員の声で賑わう中、
この席だけは時間が止まったままだった。
しばらくしてタクヤが口火を切った。
「僕はミタさんのことを今一番大切に思っている。
できればこれからずっと守っていきたい」
キョウコの目を見て力強く言った。
「私もできればずっと先輩の傍にいたい」
タクヤの思いに応えて言った。
「二人とも遠回しな言い方でよくわからないけど、
お互いに好きってことでいいな!
よし、今日から彼氏彼女だ!改めて、カンパーイ!
あ、二人とも、今からもう名前で呼べよな」
何から何までお節介焼きのシンジだったが、
二人にはガタイのいいキューピッドになった。
さっきまでの静けさは嘘のように、一気に店内のテンションに同調した。
それからは、シンジの恋愛失敗談や、高校時代のタクヤの評判、
キョウコとタクヤの出会いなど、昔話に花が咲いて大いに盛り上がった。
二人が思うところに収まって嬉しかったのか、
シンジは一人では歩けないくらい酔っ払い、
店を出るとタクシーを拾い先に帰らせた。
二人はどちらかが言うともなく、
当たり前のようにあのベンチへと歩いて行った。
「ここから見る夜の景色、輝いて見えるのは気のせいかな」
キョウコは首を振った。
「私にもそう見える」
しばらくタクヤもキョウコも二人だけに見える
キラキラとした夜景を眺めていた。
「今日は、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。
でも、結果的にシンジに感謝しないとね」
「ほんと、そう。シンちゃんの言う通り、
この先私達が結ばれる保障なんて何にもないもんね」
「そうだね」
タクヤはベンチの上に置いたキョウコの手に手を重ね、
そして力強く握りしめた。
「大切にする。そしてどんなことがあってもキョウコを守るよ」
手から伝わる熱さが、
まるでタクヤの思いの熱さのようにキョウコの中に流れ込んできた。
キョウコは嬉しくて恥ずかしくて、頷くのが精一杯だった。
「来週の木曜日、誕生日だったよね」
「覚えてくれてたんだ」
「明後日から福岡に出張なんだけど、
一週間後の木曜日までには帰ってくるからお祝いしよう」
そう言ってキョウコの肩を抱き寄せ、キョウコはタクヤの肩に頭を乗せた。
幸せ過ぎる二人。
ただタクヤには気になる事が一つあった。
それは、前妻のミワの存在だけが気がかりだった。