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11話

「そういうことですので、

 これからは現場の担当はミタカになりますので、

 よろしくお願いします」

キョウコの上司はクライアントにそう伝えた。


話は二日前、キョウコは上司に呼ばれて配置転換を言い渡された。

理由はこの先キョウコに大型クライアントを任せるべく、

そのためそこのサブに回って欲しいというものだった。

ただ、キョウコは最近売上が伸ばせていなかったことから、

事実上の解任だというのはわかっていた。

力及ばず悔しさはあるが、それよりもここまでついてきてくれた二人を、

思いもよらない形で巣立たせなければならなくなったことが

悔やんでも悔やみきれなかった。


上司が去り残された三人のもとにユウキが駆け寄った。

ユウキはボディーガードのナミの存在に気づき一瞬躊躇ったが、

今日ばかりはナミも許可するように微動だにしなかった。

「今日はエイプリルフールかなにかか?」

「勘違いしないで。これは正式な人事で、私が頼んだわけじゃないの」

キョウコは笑顔で、前にユウキが言ったセリフをそのまま返した。そして

「これからは二人のことをくれぐれもよろしくお願いします」

キョウコは深々と頭を下げた。

社交辞令でもなく、心の底からそうお願いした。

「これからもお互い結果をだせるように頑張りましょう」

最後にユウキへエールを送って別れた。


ベンチで会ったタクヤから

「配置換えになったんだってね」

と声を掛けられた。

「そうなんですよー。参っちゃいました。力不足だったんですよね」

タクヤは嘆くキョウコを労いつつ、

「大丈夫か?」

「あ、この通り元気ですよ!」

「空元気はいいよ」

「ほんと、大丈夫です。親友にも慰めてもらいましたから」

笑顔で答えた。


翌日もその翌日も、最近では珍しくタクヤはベンチにいた。

昨日観たテレビの話、好きなサッカーの試合の話、

電車で見た変わったおばさんの話と

たわいも無い話ばかりをしては帰って行く。

「最近ちょっと時間に余裕ができて」とは言っていたが、

キョウコには自分を心配して来てくれていることは分かっていた。

なぜなら、このランチ中にもよく電話でベンチを離れることが多いからだ。

キョウコはそんなタクヤに感謝しながらも

タクヤの夢を聞いた時のことを思い出していた。


キョウコには助けを求めればいつでも

手を差し出してくれる友がいる、仲間がいる。

だからこそ、そんな友や仲間を思えば、

甘えてばかりもいられなかったり、遠慮をしたりする。

そう考えると、このタクヤのように

求めなくても無条件で信頼する人が傍にいてくれることが、

こんなにも有り難く、嬉しく、

そしてどんなに心強く安心できるのかをキョウコは痛感した。

(先輩が言っていたことってこういうことなのかな)

キョウコは改めてタクヤを尊敬すると共に、

タクヤを好きになって良かったと思った。


「今度、食事に行きませんか?」

珍しくナミがユウキを誘った。

キョウコが担当から外れたことで、

最近ちょっと元気がないユウキのことを思ってのことだった。

「マヤマさんが誘うなんて珍しいね」

「これも接待の一環ですよ。ちゃんとミタカ先輩にも許可とってますから」

ナミは気を遣わせないようにそう言った。そして、

「ミタ先輩のことはもう忘れてください。

 先輩も言ってくれたように、今度は私たちのことを心配してください」

ナミがはっきりお願いすると

「そうだね、悪かった」

ユウキは素直に謝った。

それからはわだかりもなく、これからの仕事の話、

そしてプライベートにまで話が及んだ。


店を後にし、すっかり気分転換できたユウキは、

「マヤマさんって、見かけによらず優しいんだね」

と言うと

「見かけによらずは余計です!」

と言って二人とも笑った。

「でもさ、ミタさんがマヤマさんのこと大切にしていたのが

 今なら分かる気がするよ」

気が強いナミはあまり人から褒められることがないので、

褒め言葉にめっぽう弱い。

「や、止めてくださいよー」

ナミは顔が熱くなり胸がドキドキしてきたが、

それが照れなのか、それとも恋なのかわからなかった。

そんなナミを見てユウキは優しく微笑んだ。

「そう言えば、先輩が言ってたお互いに結果をだせるようにって、

 どういう事なんですか?」

ナミは必死に照れを隠そうと話題を変えた。

ユウキはキョウコに話したことと同じ事をナミにも話した。

「そうゆうことなら、先輩に代わって私が応援します!」

「ありがとう。元ボディーガードが一緒なら無双だな」

そう言って手を差し出した。

待っていてもなかなかナミが手を出さないことに業を煮やして、

無理やり手を取って感謝の意味で握手した。

ナミはユウキの大きく肉厚の手に異性を感じ、

手から伝わるユウキの体温がナミの中に注がれる感覚を覚えた。

収まりつつあった鼓動はさっきより激しさを増した。

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