File.1 空中都市
暇つぶしに始めました。更新遅いと思われますが気長に待ってください。
「すげーーー!!!!これがマチュピチュかーー!!!」
ペルー南部の山奥に浮かぶ"空中都市"
「凄いだろ?でもなんだ?マチュピチュって」
「あーなんでもない!とにかく案内してくれよ」
「ああ」
俺の名前は花島楓。24歳。警察官2年生だ。昔見たドラマで敏腕刑事を夢見てこの世界に飛び込んだものの、実際は駐禁取り締まったりガキの火遊び注意したりととてもやりがいを感じるのは難しい仕事ばかりだ。
でも今日はなんか違う気がする。いつもと味の違うコーヒーを飲みながら、今日の仕事を確認するため席を立った。
「花島、ちょっといいか?」
「なんですか?局長」
「話すことがあるから、奥に来てくれ」
なんだろう。悪いことしたっけな?
「花島」
「はい?」
次に局長が発した言葉が、俺の人生を大きく、いや全く別物にすることをまだ俺は知らない。
「花島、タイムワープって知ってるか?」
「へ???」
なんだって?タイムワープ?そりゃもちろん知ってるけど、アニメや漫画の話だろ?
「…存じておりますが…」
「あれ、ほんとにできるらしい」
ん?今なんつったこの人、おちょくってんのか?今日は4月1日でもねえってのに。
「と、言いますと?」
「だからな、それを使って過去を変えてる奴らがいるらしい」
「はぁ、、、」
もう何が何だか。とりあえず話を聞くしかない。それが部下ってもんだ。
「過去を変えるってのはなんでも超重罪でな、各国のトップは秘密部隊を作って取り締まってるらしいんだ。」
なんだかこの丸々した還暦手前のオヤジが、あまりにそれっぽいことを言うのでドラ◯もんに見えてきた。
「そこで日本にも対時空犯罪秘密部隊が作られるらしいんだが」
ドラ◯もんは一息ついた。
「花島、お前がそのメンバーに選ばれた」
「はぁ、そうです、、か?!」
とうとう、いやとうにボケていたこの老害。叩いて直すか。
「ええと、なんの冗談でしょうか…もしかしてドッキリ?」
「何を言ってる。ワシは大真面目だ。これでも嘘は大嫌いだからな」
ダメだ。手に負えない。副長に言うしかないか…
「副長はどこに?」
「ああ、丁度お前の異動の手続きに出ている。今頃終わるだろう。」
「え?ほんとなんですか?副長もグルってことですか?」
「なんだなんだ、だから本当だと言ったろう。短い間だったが、真面目に働いていたお前は良い警官だったな」
え?俺の警官人生終わり?指名手配犯とのギリギリの攻防の末見事確保、表彰されて敏腕刑事として一面に載る俺の未来は?
プルルルル、プルルルル
「お?冴谷か。手続き終わったか、そうかご苦労。今花島にも伝えたから、明日にでもたってもらうよ」
俺は思わず受話器を奪い取る。
「副長!どういうことですか!!」
「なんだ、もう聞いているのではないのですかぁ?君は明日から私も知らない日本のどこかの研究所で暮らし、過去で起こる事件を解決するのですよ。よかったですねぇ、夢のスーパーヒーローになれますよぉ」
「そんなの知らないですよ!何が何だかわかりません!」
やけにのんびりした口調な副長は、俺の神経を逆撫る。
「まあそれもそうですねぇ。明日その研究所で色々聞いてくださいなぁ」
「何ですかそれ!無責任すぎるでしょ!大体…」
....あれ?体に力が入らない…狸の顔が遠のいていく…
ひんやりした床の感触を感じながら、俺は最期に言葉を聞いた。
「おお、やっと効いたか。睡眠剤」
「うわぁぁぁ!!!」
なんだか凄く嫌な夢を見た気分だった。しかし寝起きのぼやけた視界がはっきりしていくにつれて、それが夢ではないことが明らかになる。
「やっと起きたか。ちと強すぎたかの」
明らかに局長より10歳は年を食っているであろう白髪で頭頂部が薄くなった老人が近づいてくる。
「ようこそ、タイムワープラボ、略してTWラボへ!!」
音数にしたら略せてないだろ…と意外と冷静なツッコミが浮かんできたことに自分でも驚いた。
「なんだ?イカれたちまったか?なんか喋ってみんか」
「…ここはどこですか?」
「言えんよ」
「…あなたは…誰ですか?」
「儂は天才発明家、江村火直じゃ。ひじきで構わんよ」
なんだその名前。
「……これは現実ですか?」
「もちのろんじゃ、試しに頬でもつねってみたらどうじゃ?」
煽り口調でにやけながらそう言ったひじきは、10歳くらいの少年のように見えた。
「帰っていいですか?」
「もちろんダメじゃ、わかるじゃろ。お前さんは今日から日本お抱えの時空警察官になるんじゃから」
「警察官?警察官のままでいいんですか?」
「そうじゃなぁ、やっぱりもっとかっこいい名前の方が…」
「いや、警察官!俺は警察官だ!!」
やった。俺はまだ警察官でいられる。
「おぉなんじゃ、急に大声出すんじゃないわい。老体を労わらんか」
「すみません!」
「お、おお…」
今日、はじめて俺が主導権を握った気がする。
「じゃあ、これからお前さんにやってもらうことを説明しようかの」
「はい!」
「どこまで聞いてるんじゃ?」
「タイムワープして過去を変える犯罪者を捕まえると!」
「おお、その通りじゃ。儂の作ったタイムマシーンで過去に行き、そこで悪事を働く現代人、あるいは未来人を捕まえるのがお前さんの仕事じゃ」
もう、完全にファンタジーの世界だが、この際行くとこまで行ってやろう。
「加えてこれは実験でもある。タイムマシーンができたとはいえまだまだ不完全な代物じゃ。タイムワープを繰り返して、その結果から儂がどんどん高性能なマシーンに作り替える必要がある。現状タイムマシーンは一度使用したら1年は再使用できない。クールタイムがあるんじゃ。じゃが儂の計算ではクールタイムは最短1分まで縮められる」
「なるほど!じゃあ僕が過去に行って事件を解決するのを繰り返していけばいいんですね??」
「なんだ、やる気になってきたかの。その通りじゃ。ちと大変な仕事じゃが、報酬はたんまりやるぞぉ」
ひじきは露骨に札束をちらつかせてきた。
「や、やります!」
もう、どうにでもなればいい。
「でも、なんで俺なんですか?」
「ん?」
「なんでそんな超重要な任務を、日本で俺がやることになったんですか?」
「ああ、そういうことか。まあそれには色々理由があってな…また今度話そうかの」
今度っていつだよ…と思った瞬間、ラボのドアが開いた。
「じぃちゃーん!タイムマシーンの用意できたー!…ってあれ?君が実験体X?」
「おい、露骨に人のことを実験体呼ばわりするでない。だからお前は彼氏の1人もできなんだ…」
「うるさいなぁ!僕はじぃちゃんとここにいれればいいんだよ!」
完全に置いてけぼりをくらった。
「ちょっと待ってください、、あ、あなたは?」
「やぁ、僕は江村ヒナ。じぃちゃんの手伝いをしてるんだ。よろしくね」
「よ、よろしく…」
いきなりタメ口を叩かれたが、明らかに俺より年下だ。16歳くらいだろうか…そしてなかなか"デカい"。この爺さん、いい孫を持っているじゃあないか。
「えーと、何しにきたんだっけ...そうだ!準備できたよ!じぃちゃん!」
「ああ、ご苦労。戻っていいぞ」
ヒナは再び出ていった。
ひじきが改まってこちらを向く。
「では花島くん、いやここはあえて楓と呼ぼう。楓、早速お前さんには事件を解決してきてもらう。時代と場所は…」
ごくり
「今から約500年前、ペルーのマチュピチュじゃ!」
「えぇーなんだってーー!」
「ベタすぎるじゃろ反応」
「ここはベタに行くべきかと…」
マチュピチュ、か。もちろん見たことも聞いたこともある。あくまで写真や映像で。
「今すぐ出発ですか?」
「そうじゃな、できるだけ早い方がいい。なにしろ今回悪さしてる奴はマチュピチュを破壊しようとしてるらしいからな」
「え!なんのために?」
「そんなん儂にもわからん。実際に行って確かめてこい」
待て。一つおかしいことがある。
「待ってください、あの、タイムマシーンで好きな時刻に戻れるなら、すぐに出発する必要はないんじゃ?」
「おお、なかなか鋭いな。まあその辺はおいおい話すとするかの」
「は、はぁ。...何か注意した方がいいことはありますか?」
「そうじゃな、さっきも言ったように向こうに着いてから1年はタイムマシーンが動かん。しかし現代に戻ってくる時はタイムワープした直後に戻れるから心配するな。それと向こうで未来人だとバレることは避けた方がいいの。先に犯人に殺されるか、当時の人に捕まるかするかもしれん」
「なるほど」
「で、もし犯人を捕まえたらどうすればいいんですか?」
「そしたらこの"タイムレター"に犯人についてわかったことを書いてこちらに送ってくれ。これは超小型のタイムマシーンでこれなら1日おけば動かせる。そしてわかった情報を元に現代からそいつの身元を特定し、過去から連れ戻す」
「なるほど、じゃあ応援が来るってことですね?…いや来ても1年戻れないなら意味が…」
「実は海外では既にクールタイム3時間のタイムマシーンが開発されちょる。それを使って海外の秘密部隊が応援に来る」
「なるほど。…俺が行く必要あるんすか?」
「海外の連中は死ぬ危険がある仕事はしたくないらしい。そういう仕事は立場の弱いアジアの国に回ってくるんじゃ」
「えー」
「しょうがない、あと言語についてじゃが。最近の研究で言語解析が進んでの。この小型補聴器と音声変換器をつければ問題なく会話できる」
渡されたのは2cmほどのワイヤレスイヤホンと黒い50cmほどの紐。
もうどうにでもなれと思ったが、こんなことになってワクワクしない訳がない。俺だっけ元少年だ。よし、伝説の時空刑事になってやる…
「タイムマシーンは離れにある。ついてこい」
離れとは言ったものの、こちらも立派な研究室だ。真ん中にあるのは……サーフボード?
「これが…タイムマシーンですか?」
サーフィンの経験はない。
「そうじゃ。時間は波じゃからな、ナイスなデザインじゃろ?」
ううん…もっとメカメカしたものを想像していたので若干がっかりしたが、まあいい。
「これに乗って時間の波に乗るイメージをするんじゃ。そしてボードの先端が光った瞬間に、遡りたい年数と場所を叫べば、気づいた時には到着じゃ」
鼓動が早くなるのを感じる。
「じゃ、じゃあ行きます」
「おう。なんかあったらタイムレターでな」
ボードに両足で乗り、サーファーのように横向きになった。
波に乗った経験はないが、想像力は豊かな方だ。集中する。
「光ったぞい!叫ぶんじゃ!」
「「ご、500年前のマチュピチュへ!!!」」
目が覚めると草むらに横たわっていた。
「あれ?板は?」
サーフボードは黒焦げになり、10mほど離れたところにあった。これがほんとにまた動くのだろうか?
「ここからどうすればいいんだ?」
そう思いながら立ち上がった瞬間視界に飛び込んできたのは、無限に広がる青々とした山々と森林だった。
ほんとにペルーに来たのか?
振り返ろうとした瞬間、視界の端を何かが通り過ぎた。一瞬だったのでよくわからなかったが、自分より少し小さい何かだった。
いきなり狙われてる…?
着いて早々お陀仏じゃ話にならない。俺はこれから輝かしいキャリアを築くんだ。第一過去で死んだらどうなるんだ…?
両手を上げて訴える。
「俺は敵じゃない。襲わない。敵意0だ!」
シーーーン…
「☆$%々|」
「え?なに?」
ってそうか。あのイヤホンと紐つけないと。
ポケットから取り出し右耳に装着する。
...紐はどうすればいいんだ?とりあえず首に一周巻いてみた。
「何者だ」
わかった!意味がわかるぞ。口の動きは合っていないのに、意味だけは理解できる不思議な感覚だ。
...次は紐だな。使い方は合っているのだろうか
「えーと、気づいたらここにいたんだ。ここはどこだ?教えてくれ」
これまた新鮮な感覚だ。間違いなく自分の喉は震えているのに、音声は思った通りに出ているのに、どこかで遮られているような気がする。
「…怪しいな」
通じた?のか?
「ほんとに敵意はないんだ!とりあえずその物騒な槍を下ろしてくれないか?」
「できぬ。俺は守護者だ。怪しい者は殺すよう言われている」
完全に言葉は通じてる!
「ま、待ってくれ!頼む!は、話そ…」
喉元に槍先が突き出される。
「それ以上喋るな。場所が悪い。そのまままっすぐ歩け」
---連れて来られたのは、外からは人がいることは全く確認できない、中高木が鬱蒼と茂る森の中。俺は両手を縄で縛られ、切り株の上に座らされた。
「聞かれたことだけ答えろ。余計なことを言ったら殺す」
相変わらず物騒な槍と顔だ。とりあえず最初にタイムレターに書く内容は決まったな。
「わかったならうなずけ」
即座に首を縦に振る。ビビってるわけじゃないさ。
「お前は何しにここへ来た?」
ど直球で1番困る質問キター!あとなんだよその聞き方。
『Youは何しにニッポンへ?』かよ。
「えーと、、」
「言えないなら殺す。疚しいことがあるんだろう」
「いやちがっ、、その〜なんというか〜、さっきは気づいたらあそこだったって言ったけど本当のことを思い出したんだ!俺は君たちの住んでいる所がとっても凄い場所だって聞いて見に来たんだ!途中で疲れて昼寝をしてて、起きたばっかで寝ぼけてたんだよ!」
無理あるか?
「簡単には信じられない。本当にそんな用事を寝ただけで忘れるか?」
くぅ〜忘れるも何も嘘ですからな!
「…本当だ。信じてくれ」
「……」
「俺1人の判断では決めかねる。もう1人仲間を呼んでこよう」
「待ってくれ!」
いきなり大事にされて村中で噂になるのは困る。なんてったって潜入捜査だからな。
「やはり疚しいことが?」
槍先がまた首元に。こんなんでビビるわけビビりますけど。
「違うんだが〜その〜あまり大事にされたくなくてな」
「何故?」
「まあーなんというか。わ、わかるでしょ?」
「ふざけているのか」
槍先が首につく。それだけで痛い。
「これはお忍び旅行なんだ」
もう頭が回らない。
「つまり?」
「周囲にバレるわけにはいかない」
「何故…いや待て。貴様、妻はいるのか」
つ、妻?妻ってwife?なんで?別の意味で狙われてる?
いや、ここはいると言った方が良さそうだ。
「い、いる…」
「そうか!わかった!」
槍男の顔がいきなり明るくなる。よく見たら同い年くらいらしい。
「お前は浮気者なんだな!」
えーなんでそうなるーー???
「え、と、いや…」
「そうなんだな?なるほど合点がいった。俺も気持ちはわかるぞ。妻というのはろくなことがない」
そうなの?まあ合わせとくか。
「あーわかりますか。バレてしまったら仕方がない。俺はここに遊びに来たのさ。家族を置いてな」
「はっはー!とんだ恥知らずな野郎じゃあねえか!こりゃあ殺されても文句は言えないな?」
そういうといきなり槍を振りかぶった。
「えーーー!?ちょ、待っ…」
目を瞑り……開ける。死んでない。男の顔を見る。
「なーんてな。気持ちが変わった。俺の女房もいちいちうるさくてもううんざりなんだ。お前の気持ちもわかるぜ」
なんか勝手にわかられた。
「で?旅行に来たんだって?どれ、俺が案内してやるから着いてこいよ」
「え!いいんですか?」
「いいってことよ。お前、名前は?」
「俺は花…」
「花?」
本名はまずいか?
「そう、花。フラワーだ」
「フラワーか。花って意味なのか?」
「そうだ」
「ふーん、まあいいや。俺はアグララ。さっきも言ったけどこの村の守護者、まあ見張りってとこだな」
左手を差し伸べられる。普通握手って右手じゃないか?と思いながらも左手で握り返す。
「よろしくな」
はにかんだアグララの顔には髭が蓄えられており、クリッとした茶色い瞳はアーモンドで無邪気さを持っていた。
「すげーーー!!!!これがマチュピチュかーー!!!」
圧巻だ。これを機械のきの字もない時代に作ったってんだから頭が上がらない。
「凄いだろ?でもなんだ?マチュピチュって」
「あーなんでもない!とにかく案内してくれよ」
「ああ」
アグララはどうやら村の人気者らしい。案内する先々で小さな子供から老人まで、多くの人に話しかけられていた。
「で、ここが王様の宮殿だ」
村の中で1番大きい建物の前に着いたとき、アグララはそう言った。
「王様は中に?」
「いや、今はいない。というのもこの村は王族の別荘地だからな。普段は俺たちが自由に暮らしてるが、王様がいらしたときはゴミ1つ落としちゃならない」
「そうなのかー」
改めて宮殿を見上げる。派手な装飾があるわけではないが、どことなく荘厳さを感じる。
「あと案内していないのは…」
「アグララの家に連れてってくれよ!」
「…正気か?さっきも言ったろう、うちには怪物がいるんだ」
「まあまあ、怪物ったってしばらくお世話になるんだし!挨拶くらいさせてくれよ」
アグララはこう言うが、言ったって500年前の鬼女房だ。包丁握りしめて怒鳴り散らかす訳でもないだろう。
「そうか…ってフラワー、お前俺の家に泊まるつもりなのか?」
「もちのろん!」
「…正気か」
「ここだが…」
「へー。宮殿と比べると随分小さいな」
「そりゃそうだろ」
呆れながらアグララはドアに歩み寄る。
コンコンコン
「た、ただいまー…」
「あ、やっと帰ってきた!何してんだい!さっさと手伝いな!」
家の奥からなんとも気の強そうな女性の声がする。彼女が噂に聞く鬼か。
「す、すまねえモンチ。今からやっから」
バツが悪そうな顔をしてこちらを向くと、アグララは申し訳なさそうに言った。
「ちょっと労働しなきゃなんねえ。それまで適当に外見ててくんねえか?1時間くらいで終わるから」
「わかった」
500年前の夫もしっかり尻に敷かれてます。父さん。
外見ててと言われたが、あまり動き回るのは得策ではないだろうか。いや、捜査は地道な聞き込みから始まるんだ。動かないことには始まらない。
とりあえず人通りが多そうな道に向かった。
「いらっしゃーい!採れたてのじゃがいも!安いよーー!」
どの時代でも客寄せの文句は同じなんだろうか。
「おっちゃん、この蒸しじゃがいも1つくれるかい?」
「おう兄ちゃん見ねえ顔だな。いいぜ、120クルだ」
単位はクルって言うのか…って金持ってねえ!
「すまん、やっぱり金がねえや。また今度来るわ」
「そうかい、じゃあ1個タダでやるよ」
「いいの?やったー」
「ああ!美味いもん食うのが1番だからな!」
「ありがとう、おっちゃん」
「おう。あんた名前はなんて言うんだ?」
「フラワーだ」
一瞬おっちゃんは不意を突かれたような顔をしたが、俺は見ていなかった。
「ふ、フラワーか。変わった名前だな。どんな意味なんだ?」
「花だよ」
「ほー、花はフラワーって言うんだな。俺はペチャス。よろしくな、フラワー」
左手を差し伸べられる。左手で握り返す。
なんだかんだで1時間経った。案外早かったな。戻るか…
アグララの家まであと十数mというとき、突然鼻をきつい匂いがついた。
血の匂い?
まさかと思いながら俺はアグララの家に駆け込む。
「アグララー!帰ったぞー!…」
ガタン!!
「?!」
奥の部屋からした物音と、強くなる刺激臭でおおよそ見当はついていたが、俺は気づかないフリをしていた。
「アグララ…?」
おそるおそる部屋を覗く。そこには
妻を殺したアグララがいた。