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「ダリア、ごめんなさいね。やっぱりアトラル公爵家はローズとマクシミリアン殿下に継いでいただくことにしたわ」


私がその言葉を両親から告げられ、怒りの余り失神してしまう1年前、それまで影で毒華と呼ばれていた姉の様子がまるで他人が乗り移ったかのようにおかしくなった。


突然だが、モンシュナー王国のアトラル公爵家には3輪の美しい華が咲いているという有名な噂がある。


1輪目はアトラル公爵家の長女であり、通称毒華、ローズ・アトラル。艶やかな黒髪とルビーを思わせる赤い瞳が特徴的な美女であるが、その美しい容姿とは裏腹に性格は最悪、周りとのトラブルが絶えないともっぱら評判の地雷物件。ちなみにモンシュナー王国第3王子の婚約者でもある。


2輪目はアトラル公爵家の次女であり、通称氷華、ダリア・アトラル。薄金ストレートの髪とアクアマリンを思わせる淡い水色の瞳を持つ滅多に表情を変えることのない無表情女。平均女性より10cm以上高い背+ヒールの効果で、舞踏会では男達から遠巻きにされている完全に観賞用の物件。ちなみに婚約者はいない。


3輪目はアトラル公爵家の3女であり、通称聖華、マリー・アトラル。薄金のふわふわとしたゆるい巻髪と長女と同じ色のまるく大きな瞳を持つ可愛らしい美少女。今代の聖女筆頭候補に挙がるほど膨大な聖魔力を持つが、少々アホの子でもある。ただ、3輪の中では1番の当たり物件。ちなみに聖フランソール教会大神官の孫の婚約者候補でもある。


そして様子がおかしくなったのは上から18、17、16の年子三姉妹の長女、ローズであり、失神した私は次女のダリアである。


それまでのローズは使用人をまるで奴隷のように扱い、気に入らないことがあれば直ぐに暴力つきの癇癪を起こす苛烈な性格をしていた。


また、愛する母そっくりの容姿に弱い父の性格を利用し、公爵家の権力という力強すぎる後ろ盾を手に貴族の子女にさえも傍若無人な振る舞いをやめなかった。


そしてそんなローズに対し、愛する母そっくりの容姿のため姉に強く出られない父も、愛する父そっくりの容姿をした3女のマリーにしか興味が無い母も、厳しく注意することなど全くしなかった。頭ぽわぽわの母は兎も角、仕事では切れ者と噂の宰相である父のこの有様、全く我が親ながら恥ずかしい限り。


しかし、姉はこのようにクソみたいな性格であったため、婚約者である第3王子のマクシミリアン殿下と良好な関係を築くことができなかった。


それもそのはず、「王子なのに王位じゃなく公爵家に婿入りして爵位しか継げないだと!?臣籍降下までしてわざわざ家に入ってやるんだ、感謝しろ」スタイルのプライド高々拗らせ王子と、「後ろ盾の弱い第2妃の産んだこれといった才能もない血筋だけが取り柄の第3王子を我が家に入れて差し上げるのです、感謝してせいぜいワタクシに尽くしなさい」スタイルのこちらもプライド高々の姉の組み合わせは相性が最悪すぎたのである。


ただ、両者の相性が良くないからといった理由だけで、寵愛する妃が産んだ第3王子に大きな後ろ盾を与えたい国王と子供が全員女で婿が必要&宰相として王家との結び付きを強くしておきたい父による政略結婚は解消できない。でも顔合わせ当初から2人の仲は冷えきっており、数年経過しても改善の余地も見当たらなかったために、私はどうしても姉がマクシミリアン殿下と政略結婚できなかった時用のスペアとして様々な教育を叩き込まれた。


その教育内容に普通の淑女教育だけではなく領地経営関連や政治、また年頃の令嬢が受けるには些か厳しすぎる魔の大家と名高いアトラル公爵家に相応しい魔法の訓練も含まれていたのは、歳を重ねるにつれマクシミリアン殿下が阿呆じゃないだけマシな程度の普通の才能しかお持ちでは無い方であると判断されたからだ。


そのため、もし2人の仲が改善されれば2人の補佐官としてアトラル公爵家で執務のサポートを行い、2人の仲が結婚を行うにはあまりにも険悪な場合は姉の代わりに私がマクシミリアン殿下と結婚し、マクシミリアン殿下を全面的に支える役割を求められた。


マ、どちらに転んでも都合のいい存在として利用し尽くされる運命だったのには変わらない。

姉も妹も頭の出来は残念な母似なため執務のサポートは期待できないし、そもそも妹は貴重な回復魔法を使うために必要とする聖魔力をこれでもかという程に保有しているまさに聖女的な存在であるため、スペアなんて勿体ない使い方はできないのだ。


それに対して私は父似で頭も悪くはなく、聖魔力は少ないものの普通の魔力は父より多い。加えて父が疎んでいた今は亡き厳格な祖母にそっくりな容姿のため、道具として多少使い潰しても毛程の罪悪感を湧かない都合の良い存在であった。


扱いに不満はあったし、厳しすぎる教育に泣いた夜も多かった。けれど、質の良い知識を惜しみなく与えてもらっていることは自覚していたし、貴族令嬢として恥ずかしくない待遇を保証されている生活を抜け出そうと抵抗する気力は残念ながら日々のハードなスケジュールをこなす私には残っていなかったので、流されるまま「人生こんなものか」と諦め半分で毎日を過ごしていた。


しかし姉とマクシミリアン殿下が16歳となり王立貴族中央学院に入学するタイミングでとうとう関係回復の余地なしと判断された2人の婚約はほぼ解消されたも同然の状況となり、国王と父の間では本格的に私を姉の代わりに婚約者とする計画が進められた。


そしてその計画が進められるにつれ私への教育はさらに厳しさを増し、寝る暇も無いほどあれもこれも詰め込まれた。また関係構築のためマクシミリアン殿下との月1の茶会も始まり、ストレスフルな生活に自由に過ごしている姉と勉強から逃げてばかりの脳筋殿下にアホって羨ましいと呪詛が止まらず血を吐いたこともある。


こんな日々に加えて洗脳のように「お前が公爵家を支えるんだ」、「領民のためにお前が頑張るんだ」、「お前と殿下の婚約はほとんど確定しているのだからそのための努力を惜しんではいけない」、「お前は出来る子なのだから」と言われ続けてみろ、そりゃ表情もなくなる。いやまあ原因はこれだけじゃないけど。


そして肝心の姉は子供は成人済み、美しくて若い後妻募集中の辺境伯のもとに嫁がされる予定だ。プライドが高く、若い男が大好きな姉がそれに納得するかは分からない。でもいくら姉に弱い父もただ財産を食い潰すだけの利用価値の低い娘をいつまでも公爵家に置いておくつもりは無いらしい。だって父が好きなのは母だけなので、ぶっちゃけ私達のことはどうでもいいのだ。


長くなってしまったが、このように男漁り大好きで頭が足りない性格の悪かった姉は、私の王立貴族中央学院の入学式の夜「どうして悪役令嬢になってるの!!!??」と叫んで倒れ、そこから1週間高熱を出して寝込んだ。

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