表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大英雄はメイド様  作者: 智慧砂猫
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/86

第36話「複雑そうで単純なもの」

 よく知らなかった。スキラトも、彼らに出会うまでは大した感情は抱かなかった。それが憎悪と利用に繋がったのは言うまでもなく、ザミエルとサマエルの二体はどちらも〝元々は人間で、魔獣と何らかの手段で混ざり合っている〟事だけが理解できた。それが人間による仕業だという事も。


(……あちゃあ。もしかすると、バルテロがどうのと言うよりも、上層部──議会の殆どが一枚噛んでいたって感じがするなぁ。知らないふりしとこっと)


 深入りするのは良くないと思いつつ、興味には負けた。


「じゃあ、君が権能を与えたっていうのはつまり……」


「儂の能力を分けてやった。あの融合体は弱すぎた(・・・・)んでのう」


 他の魔獣に比べれば多少は使えそうではあった。素体となった魔獣が有能だったからだ。しかし、侵攻に連れて行くにはやや爆発力の足りない存在。そこで自らの力を一時的に分け与える事で、いつでも回収できるようにしつつ戦闘では相手を弱らせる戦力にした。結果は大したものを得られないままではあったが。


「想定外だったのは、ぬしらの強さじゃ。特にシャーリン。ぬしは、ずっと本気を隠しておったな。あれは見事じゃった、儂すら気配を感じられなんだ」


 レシの実力は紛れもなく、スキラトが認めるものだった。しかしシャーリンはそれをあっさり上回ってみせたのだから、彼女も感心した。


「ボクは他の皆に比べれば弱いからさ。あの戦いに必要だったのは技術(テクニック)(ラック)。君の友達……レシは強かった。彼女が油断してくれたおかげだよ。ま、それも計算ずくで立ち回る技術がボクにあったから勝てたんだけどね」


 ふわっとホットケーキが宙を舞った。


「ほい、完成。バターとシロップも用意してやったけど……」


「無論こちらもできておるぞ! どうじゃ!?」


「……うん、まあいいんじゃない? 合格だ、はいどうぞ」


「むふー。これよ、これ。最高に良い匂いじゃのう」


 ナイフとフォークを器用に扱う。使い慣れてなどおらず、最初こそ手で食べようとしていたが、人間の体とまったく同じな造りなのもあってか、シャーリンに教えられてすぐに覚えた。指先などは特に器用で、字は汚くとも刺繍などは得意だった。


「ねえ、ところで聞きたいんだけどさ」


 対面に座って淹れたてのコーヒーを飲む。シャーリンは、カップの中の液体に映る自分の薄暗い表情を見つめながら。


「恨んでないのかい、ボクの事」


「んむ……んぐっ……なぜ?」


 口端のシロップを指で拭って舐め取り、首を傾げる。わざわざ恨む理由などないのにと不思議だったが、シャーリンは自分がスキラトの最も信頼するレシを殺めた事で怒りを買ってもおかしくないだろうと言った。


 それをからからと笑い飛ばして──。


「儂が仕掛けた勝負で死んだ。それはぬしの罪か?」


 食べ終えたら食器を流し台に持っていく。


「人間というのは不思議な生き物じゃのう。下らぬ事に囚われ、すぐに心を病む。それほどまでに細分化された感情では息苦しかろう」


「そうでもない。君だって、ここで暮らしていればいつか分かる」


 庭に生った赤々としたトマトを眺めながら言った。


「何かを大切に想う気持ちが大きく育っていけば、荒んだ生き方も少しずつ変わるものだ。悪い事ばかりじゃないんだよ、案外ね」


「……ふうむ。つまり、あの二人(・・・・)みたいにか?」


 身近な例を挙げるとシャーリンはくすっと笑った。


「まさにその通り。いくら傷ついても、誰かが癒す事が出来ればいいんだ。誰かが傍にいてあげて、ただ話を聞いてあげるだけでいい。頷いて『よく頑張ったね』って、そんなひと言で二度と俯かなくていいくらい前を向ける事もあるんだよ」


 いくら説明をされてもスキラトにはよく分からない。ただ、人間の世界で暮らすようになってから、何度もシャーリンと共に町へ出てみて、思ったことはあった。自分が持っていないものだからなのか、はっきりはしなかったが────。


「よく喧嘩して、よく笑い合って、よく泣き喚いて……そんな毎日を幸せそうに生きておるのは、儂には眩しいものじゃ。あちら側(・・・・)もそうであったなら、少しは違ったのかもしれんのう。今は、そう思う。そう思わされておる」


「んー。じゃあ、君もそうしたらいいさ」


 カップの中を揺らして、くっ、とひと息に残りを呑み干す。


「最初は真似事だっていい。理解できなくても、そのうち分かるようになってくる。君が鉛筆の遣い方を覚えたようにね。感情はパッと見れば複雑なものに見えるが、触れてみればなんてことはない、すごく単純なものなんだよ。君にもすぐに馴染む」


 仲間の死に対して少しドライだったり、意味もなく優しくしたり、スキラトにはまだ分からない理屈ばかりだ。しかし、それは、きちんと吸収できるもので、たとえ魔獣だったとしても彼女ほどの知性があれば理解できるだろう。もう二度と争う事もない、とシャーリンは穏やかに彼女を見つめた。


「あっ。それはそうと、今日はオフェリアたちが来るんだってさ」


「ぬ? ここしばらくは姿を見せておらなんだのに、何をしに」


「旅、出るんだってさ。もっと広い世界を知りたいって」


 嬉しそうにそう言った直後、玄関の扉が叩かれた。


「すみませえん、オフェリアですけどお。シャーリン、いますう?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ