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大英雄はメイド様  作者: 智慧砂猫
第二部

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第16話「ご心配なく」

 既に五体の敵のうち、ガルムと呼ばれた狼の魔獣はヴェロニカによって駆逐された。完全に焼き尽くされ、スキラトも亡骸を回収しようとしなかった。


 残る敵の中で、能力がハッキリしているのはザミエルと呼ばれた六本腕の弓兵。放つ矢の数は限界がなく、常に腕に何本かの矢を握っている鉄仮面をつけた不気味な怪物。爆弾と化す矢で周囲を吹き飛ばしたり、貫通力の高い一撃──オフェリアの絶対的な防御でさえ傷をつけるほどの──を射る、気配を消しての奇襲は厄介極まりない。


「……ザミエルって奴ァ、アタシなら倒せる」


「おいおい、ヴェロニカ。君はあのとき、随分疲弊してたみたいだが」


 嫌味は無視をして、彼女はニヤっとする。


「要は、あの化け物の隠れられる場所さえなきゃあいいんだ。アタシなら絶対に倒せる自信がある。もし戦うのなら任せな。次はもっと早く仕留めてやる」


 どうやって倒すかはお楽しみだと語り、話はそこで切れた。次に持ちあがったのが、セレスタンの記憶から辿って見えた、ひとりの敵。名をレシと言う、半人半山羊の魔獣。見目の美しい魔獣だったというと、シャーリンが即座にガタッと椅子を揺らす。


「どんな顔だった、凛々しい奴か。それとも劇場の歌姫のように素敵で優しいか? 実は可愛い子には目が無くてね、教えてもらえると助かるんだが」


「てめえはまたそうやって……! おい、真に受けんなよ!」


 ジョエルはくすくす笑い、思い出したようにポンッと手を叩く。


「それなら紙と、描きやすそうなペンはあるかな?」


「ああ、ボクが用意しよう。手紙を送るのに余ってるものがある」


 頼まれて自室から持ってきた羊皮紙に、ジョエルは鉛筆でさらさらと記憶の中にあるレシという魔獣の外見を描いていく。それまで騒がしかった三人も、黙って彼女が描きあげるのを待ち続け、最後には「おお」と揃って唸る。


 サッと手に取ったシャーリンが目をきらきらさせた。


「なんて美しい……。不思議な瞳をしているが、これは確かに山羊そっくりだ。しかし、そんなところも長所たる、この美貌。ぜひボクがお相手したい!」


「あのお。あなたって節操なさすぎませんか、シャーリン?」


 ついにオフェリアからも苦言を呈される。


「まさか、そんなはずはない。いや、下心がないと言えば嘘になるけど、ボクとしてはスキラトのほうが好みだ。だがそれ以上にこの女には、なんだかとても殺意を覚えるんだ。この瞳がそう言ってる。こいつには絶対に気を許すなって」


 狡猾な相手。セレスタンにトドメの一撃を刺した仇だ。憎悪など絶対に持つまいと信条に抱くシャーリンも、レシと呼ばれる魔獣を許す気にならなかった。


「こいつはボクの獲物だ。いいよね、三人とも」


 誰も反対意見は口にしなかった。じゃあ、とオフェリアが。


「私が相手するのは得体の知れない魔獣ってことです?」


「そうなるね。でも君、そういう奴ほど得意だろ」


「まあ、そうですけどお。お嬢様は戦えませんしぃ」


 いくら魔法を使えるようになったからといって、それはセレスタンから引き継いだものであり、彼ほど圧倒的でテクニカルな戦い方はできない。実戦を経験した記憶を引き継いでも、まだ思うように体は動いてくれなかった。


 ならば援護を中心に立ち回れば良いと教えられ、今はそのように訓練している。結界を張ったり、咄嗟に軽い傷であれば癒す事も可能だ。


「えっと、私が加わるのも申し訳ないんだが、つまり方向性は固まったとみていいのかな。みんな、どう戦うかはあまり話してないようだけど……」


 指摘を受けた三人が、きょとんとして顔を見合わせる。当初の目的は敵の対策を立てる事だ。だが、その意思疎通が全くできていないように感じたジョエルが尋ねると、彼女たちはムッとした顔を向け合って──。


「んなもん、こいつらに知られたら面白くないだろうが」


「ボクは可愛い子がいると分かった時点で何でもいい」


「私、ただ余り物を押し付けられただけなんですけどお……」


 そう、まったく意見が異なっており、興味もさほどなく、それぞれが最終的になんやかんやと上手く行くだろうと思っている。


「……五年前となーんも変わんねえなあ!」


「ああ、ボクらはやはり気が合うらしい」


「私をいっしょにしないでもらえますう?」


 混ざれないジョエルがちょっとだけ寂しそうにする。


「ぬふふ~。お嬢様、なんとなく上手く行きそうって感じ、してきません?」


「えっ……。う~ん、信じたくないけど、なんとなくそう思うよ」


 不思議な安心感。仲間とはこういうものなのだろうか、とふいに思う。なんでも堅実に計画を立てていくジョエルとは違い、彼女たちは突っ走りながら、適当にその場で対応する。信じられる仲間に背中を預けて。


「だったらあとは、なるようになるだけですう。偉そうになんかこう、良い感じの事言いながら、結局こうなっちゃうんですもの。でも、それで今まで生きて来たんだから、きっと大丈夫ですよお。私たちは仲間であり、家族であり、世界で最も強い四人なんですから。絶対に勝てますよお、ご心配なく!」

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