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大英雄はメイド様  作者: 智慧砂猫
第一部

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第45話「大英雄は」

 ノイマンは見誤っていた。大英雄たちの実力がどれほどのものなのか。実際、魔獣を一匹だけ蘇生して手ずから戦ってみたものの、それほど強くは感じなかった。彼自身、魔導師としては非常に優秀な男なのだ。ただ人々の生活に欠かせない技術だけでなく、戦闘に関する魔法も彼は得意だった。


 だから問題なくヴェロニカを捕える事が出来たときは『この程度か』と思った。彼女が魔獣の呪いによって弱っていることも知らずに。




────そうして、公爵邸の地下にいた魔獣たちは一匹残らずセレスタンによって討伐され、邸内にいた者たちの無事も確認された。その後にシャーリンは「また魔法でも使われたら面倒だ」と、何の躊躇もなく手足を切り裂き、セレスタンが動かせない程度に傷を治療するなどして、騒ぎを聞きつけた憲兵たちへ安全に引き渡された。


 問題は大きく取沙汰され、皇都襲撃事件以前にも、捕まっていなかった罪人などを匿うふりをして人体実験に使っていた事が露見した。


 アリンジューム家は、グレイスを除いてそうした悪事を行ってきており──資金繰りなどはノイマンの弟たちが担当だった──、即座に全員の公開処刑が決まり、一ヶ月を牢で過ごしたあと、彼らはその首を広場に晒す事になる。


 そして今回もまた大英雄たちによって人々の命が救われたと記事が広まり、やはりその場にはジョエル・ミリガンもいたというので、やはり聖女ではないのかという噂まで広がるようになっていった。本人としては、あまり乗り気ではなかったが。


 しかし、今回の事件で最も問題になったのは、そこではない。


「──というわけでねえ。ボクも記事を書かないように念は押しておいたんだけど、中々うまくいかなくてね。あっという間に皇都中の噂さ。それどころか……それどころか、多分、今頃は国のどこにいっても有名人だよ。……本当に、ね」


 両手で顔を覆って、がっくり肩を落として意気消沈するのも当然だ。これまでは身分を隠して素性を知られず生きてきた。当然、元騎士団長であるシャーリンは最初から名こそ知れ渡っていたが、英雄としての顔は持たないように楽しく過ごしていた。


「これからはどこへ行っても、ボクは注目の的だ。今朝も皇都を歩いてここへ来るだけで、何人に声を掛けられたか! 本当に苦痛だよ、のんびり散歩気分で歩いて新聞記事を見つけたときは、心臓が口から飛び出そうな最低の気分だった!」


 バシッとテーブルに叩きつけた新聞の見出しには、『英雄の姿は我々もよく知る、あの人物!』と書かれている。元々貴族であったセレスタンや、騎士団長のシャーリンはすぐに素性が割れてしまい、どこへ行っても歓声の嵐だ。


「ヴェロニカから聞いたんだけど、セレスタンは森に帰って誰にも見つからずに、結界まで張って悠々自適に暮らしてるって言うじゃないか。こうなったらボクもそうするべきなんじゃないかって、今はずっと悩んでるんだよ」


 オフェリアとジョエルは苦笑いをして愚痴を聞く事しかできなかった。


「大変ですねえ……。私にはあんまり関係ないですけどお」


「むっ……? 関係ない事はないよ。君だって同じさ」


 新聞を開いて、オフェリアに一文を指差して見せた。


『大英雄はメイド様!? ジョエル・ミリガンの専属メイド、オフェリア・リンデロートの真の顔とは────』


 思わずコーヒーを噴き出し、手に持っていたカップを落とす。


「ば、ばばば、馬鹿なんじゃないですか!? 今から記者の人たち全員ぶん殴って記憶喪失にさせてきますね、お嬢様、二週間ほどの休暇頂きます!」


「いや、無理だと思うが……。というか、なぜ名前までバレてしまったんだ? いくら専属メイドとはいえ、公表してるわけでもないのに誰から?」


 ビシっとオフェリアが指をさして「それが問題です!」と、心底気に入らなさそうな顔をしながら額に手を置いて天井を仰ぐ。


「おかしいでしょう。そんなの、伯爵邸の誰かじゃないと知りませんよ。わざわざアホな騎士じゃあるまいし買い物で名乗ったりもしないんですから」


 マカロンを美味しそうに頬張っていたロイナがギクッと固まった。その瞬間、シャーリンだけが『こいつのせいか』と気付く。


「うむ、そうだね。確かに、記者が取材に来ていたのも事実だから、そのときに誰かがぽろっと話してしまったのかもしれない。メイドたちや執事にも聞いてみるといい。そのときは私も一緒に行くよ、ただの不注意でやってしまったんだろうから」


 横目に見たロイナの表情がみるみる青くなっていくのを見て、今度はジョエルも『おや、まさか?』と勘繰った。もはやここまで来ると、さすがに気付かないほうがおかしくなってくる。オフェリアが「ではさっそく一人ずつ脅してきます」と歩きだすのをロイナが「ま、待って」と呼び止めた。


 ドアノブに手を掛けたオフェリアが振り返り、むっとする。


「駄目ですよう、止めたって。今回の事は許せないんですから」


「あ、あの……実はそれ、私のせいなの」


「……? 何言ってるんですか、他人を庇うのはよしましょう」


「そうじゃなくて、本当に、私のせいなのよ」


 そっと手を挙げて、気まずそうに視線を逸らしながら。


「実はちょっと前に記者の人が来て、ジョエルの取材がしたいって言うからちょっと話し込んでいたら、ぽろっと喋ってしまいました……本当にごめんなさい」

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