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大英雄はメイド様  作者: 智慧砂猫
第一部

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第38話「嫌な予感がする」

────二人の楽しみも、お茶会当日には雨にでも降られた気分になった。グレイスは不在であると門前払いを受けたのだ。ちょうど彼女の誕生日だったと言うのもあり、ケーキまで用意したが、無駄になってしまった。


 せめて届けてほしいと頼んでも断られ、ジョエルは今までにないくらい落ち込んだ。もしかするとグレイスに嫌な思いでもさせたのかもしれない、と。


「帰りましょうかあ、お嬢様。残念ですけど、ケーキは私たちで食べてしまいましょう~。グレイス嬢もきっと残念がってますよ」


「そうかな……。嫌われたりしてないだろうか」


 天地がひっくり返ってもあり得ないとオフェリアは否定する。アリンジューム家で最も信頼できるとしたら、それはグレイス・アリンジュームだけだと思うほど、彼女は純真で、悲しいくらいに魔法の才能がなかった。


 彼女はアリンジューム家の中では出来損ないだと家族に冷たくされ、それを庇うのはいつもノイマンだった。彼女にだって出来る事があるはずだと言われたから、今も何か役に立てないかと模索していると語り、どんなときでもまっすぐな感情で真っ向から挑戦する強い女性だというのがオフェリアの印象だった。


「でも、変ですねえ。あの方は約束を破った事なんて一度もないはずなんですけど……。こうみえて、グレイス嬢とは三年くらいの付き合いなんですよお。待ち合わせは二時間も先に待ってて、こちらが遅れても喜んで迎えてくれるような方なのに」


 とぼとぼ歩く帰り道。奇妙な違和感を覚えたオフェリアの頭上に小さな黒い影が旋回する。セレスタンが使い間にしている小鳥が、彼女の肩にとまった。


『随分と悲しそうだな。何かあったのか』


 小鳥を介してセレスタンが話しかけてくる。


「う~ん。実は今日、お茶会の予定だったんですけどお……」


 事情を聞き、小鳥が飼い主の行動を模倣するように首を傾げた。


『それはおかしいな。つい三十分ほど前にアリンジューム家の庭園を散歩しているグレイスを俺は見ているぞ。ずっと見張っていたわけじゃないが、少なくとも公爵家の人間が外部へ出かけていくのは確認していない』


 二人の足がぴたっと止まった。


「……セレスタン、今の話本当ですか?」


 小鳥がばさばさと羽ばたいて口をぱくぱくさせる。


『俺が嘘吐きだとでも言いたいのか。結界が張ってあるから中までは入れないし、仕方なく周辺を観察していたんだ。あいつらは怪しいと思っていたから』


 魔獣たちを蘇生したのはアリンジューム家で間違いないとセレスタンには確信があった。なにしろ宝石に魔力を込められるのは彼らの一族か、あるいは自身だけだ。しかし証拠が出てこないので、屋敷をずっと見張っていた。


 しかし、誰かが門を開く様子もなければ馬車は一台たりとも停まっておらず、ふと庭先で何かを見つけたように駆けていくグレイスの姿を見た以外は、特に何も起きていない。そんなことでわざわざ嘘など吐かないと彼は憤慨する。


「そうですかあ、わかりました」


 引き返そうとするオフェリアのスカートが、きゅっと掴まれる。ジョエルは今までにないほど暗い表情をして彼女を引き留めた。


「お嬢様、どうされたんですう?」


「行っちゃだめだよ」


 分かっている。ジョエルにも直感があった。もし、このまま行かせてしまえば、彼女はきっと危険な目に遭ってしまう。彼女に敵う者がそういないと分かっていても、行かせてはいけない気がした。ここで引き留めなければ、と。


「……ふう。そうですね、お嬢様は優しいですから、私が怪我をするところなんて見たくないし、危険な事に首を突っ込むのも怖いんでしょう」


 いつになくオフェリアは真剣な声色をして、いつもののんびりした口調ではなく、はっきりした言葉遣いをしながら、ジョエルを優しく見つめた。


「でも、よく聞いてください。ここで立ち止まっても、私たちが得られるのは束の間の平和と、後悔を嘘で塗り固めた日々だけでしかない。それは決して正しい行いとは言えねえんですよ、ジョエル。……あなたは本当にそれでいい?」


 永遠に後悔し続ける毎日。本心をいつまでもひた隠しにして、いつか自分に火の粉が降りかかったら払えばいい。そんな道をオフェリアは歩きたくない。自分が追いかけ続けた、心から敬愛する者たちならば絶対に選ばないから。


 ジョエルも本当は理解できている。絶対に立ち止まらないなんて、最初から知っていた。──だって、オフェリアは私の大英雄(メイド)なのだから、と。


 俯いたまま首を横に振れば、オフェリアもニコッと笑った。


「友達を見捨てるような奴に、あなたのメイドは務まらない。そうでしょう、お嬢様。……だから少し待っててください。すぐ帰ってきますから」


 優しく頭を撫でて、すっと立ち上がり背を向けた。じっとはしていられない。気配を探っていけば必ずグレイスを見つけられる。オフェリアには、そういった能力があった。


「セレスタン、私は先に行きますので」


 鳥がチチチッと鳴いて空に飛びあがった。

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