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大英雄はメイド様  作者: 智慧砂猫
第一部

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第36話「むかつく男」

──ジョエル・ミリガンには称号が授与される事になった。数多くの民の命を救い、皇都の安全を脅かす者たちから魔獣の群れを引き離す勇気ある行動と、大英雄たちの招集に貢献したとして、その名誉を讃える運びとなり、目覚めるまでを待っていた。


 その功績から彼女には改めてガレト・ミリガンが所有していた爵位を引き継ぎ、囚われの伯爵令嬢ではなく、今後は新たなるアルメリア伯爵と名乗る事が許された。伯爵夫人であったロイナは、変わらず彼女の養母となって支えていく事が命じられ──願ってもない話だったので二つ返事で引き受けた──、求めていた日常が彼女たちに与えられた。変わらない生活、変わらない幸せを手に入れたのだ。


 そこからまた数日が経って、変わらない日常の中で何か問題が起きたとしたら、それはオフェリアが身に着けていたエプロンのポケットに入っていたいくつかの黒曜石の存在だ。多分に魔力を含んだそれの正体が、まだ分かっていない。


 調査はセレスタンが個人的に行っていたが、霧の中を彷徨う以上に訳が分からないといった状態で、ひどく頭を悩ませている。いくら痕跡が人工的なものだったとしても、それが誰によるものなのかが掴めないでいた。アリンジューム家の人間であると確信しても、踏み込むだけの証拠がなかった。


「──と、まあ、俺の調査は大して進んでいない。現状で言えばアリンジューム家の誰か……あるいは連中全員がそうである可能性も否定できんが、かといってこれ以上踏み込むのは厳しいだろう。いくら俺が大賢者だとしても」


 コーヒーを飲みながら落ち着いた様子で語るのに対して、オフェリアはうんざりな表情で頬杖をつきながら睨む。


「だからって伯爵邸に入り浸る理由が分かんないんですけどぉ……。あなたのせいで私とお嬢様の時間が減っていくの分かんないんですか?」


 調査も進んでないのに毎日のようにコーヒーとクッキーを食べにくるのが非常に迷惑だと伝えても、彼は悪びれる素振りさえ見せない。


「ま、誰が首謀者かは知らんが、しばらくは大人しくなるだろう。結局何が目的だったのかは掴めなかったが、俺たちを狙ったのも何かの実験の一環だったと考えるのが妥当なところだ。どう考えても狙われていたからな」


 コーヒーを飲み終えたら、クッキーのくずを服から払い落とす。


「どちらにせよ、まだもう少し調べてみる必要がある。お前、たしかノイマンとはそれなりに親交があるんだろう? それとなく聞いてみてくれないか」


「勘弁してください。前にも言いましたけど、あの人苦手なんですってえ」


 庶民派の大貴族、アリンジューム家。その現当主であるノイマンは、傍から見ればとにかく優しく、冷静沈着。いつ何時でも的確な判断で貴族から庶民まで──用心深い皇帝からでさえも──支持が厚い。それがオフェリアは好きではなかった。


「あの人、いっつもニコニコしてて気味が悪いんですよお……」


「ほお。彼が嘘吐きだとでも言いたそうだな」


「そうじゃないですけど……。できれば関わりたくないっていうか」


「だが重要な情報を持っているかもしれん。そうだろ?」


 中々協力的な態度を見せないオフェリアに呆れて、ため息をつく。


「まったく、少しくらい手を貸してもらわないと俺の心労が絶えん。ただでさえヴェロニカまでいなくなったって言うのに……」


「えっ。ヴェロニカがいなくなったって、どういう事です?」


 しまった、と口を手で覆ったが、既に聞かれては仕方ない。セレスタンは目を逸らしながら「もうずっと島に帰っていないようなんだ」と白状する。


 皇都襲撃事件以降、彼女は島に帰っていなかった。


「言い方を変えるなら行方不明だ。このあたりのほとんどの動物が夜は目立たないようにするせいで、彼らの情報網を使ってもヴェロニカの居場所は掴めなかった」


 シャーリンのときのようには上手くいかず、黒曜石の調査よりも、ヴェロニカの捜索を優先しているために進展がなかったのだと彼は言う。伯爵邸を何度も訪れるのも、いなくなった原因が分からないので、最も居場所の把握しやすいオフェリアに何か問題が起きないかを毎日確かめに来ていた。


「黙ってて悪かった。シャーリンに相談はしたんだが、お前には言わないほうがいいと口止めされていたんだ。せっかくこうして幸せな時間を得たのに、奪うような事が起きてはならないと釘を刺されてしまってな」


 その言葉にオフェリアはひどく不満を感じて、また強く睨んだ。


「私だって仲間なのに。気を遣って頂けるのは嬉しいと思いますし厚意も受け取ります。でも、除け者にはしないでください。あなたたちだって私にとってはなにより掛け替えのない家族も同然なんですから」


 セレスタンは家族と呼ばれてフッと笑う。


「だったら俺のために苦手な男の話でも聞いて来てくれ。ヴェロニカを探せと言っても、お前が俺より役に立つとは思えんのでな。では失礼するよ」


「っ……本当にむかつく人ですねえ、あなたって!」

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